約70年続く日産の電気自動車の歴史を振り返る
リーフの世界的な大成功によって、EVメーカーとして存在感を高めた日産だが、一朝一夕に成し遂げられたものではない。そこに至るまで、さまざまなアプローチで試行錯誤を繰り返した歴史がある。ここでは歴代電気自動車を振り返ってみよう。
1)たま電気自動車(1947年)
大戦中、幾度となく日本の戦闘機に苦しめられたアメリカ。そのため戦後、GHQによって日本は航空機の研究・製造を禁止されてしまう。困った航空機メーカーが自動車へと流れてくることも少なくなかった。代表格がスバル(戦前は中島飛行機)や三菱、そして立川飛行機である。
当時ガソリンは流通統制されており、入手が困難。立川飛行機の技術者たちが集まって考えたことは「だったら電気自動車でいこう」ということだった。そうして終戦からわずか2年後の1947年に「東京電気自動車」(後の「たま電気自動車」、「たま自動車」)が製作したのが「たま電気自動車」。今から70年前のことである。これが日本初の本格的量産電気自動車の誕生だった。極めてシンプルなEVで最高速度は35km/h、1回の充電による走行距離は65km。
だが時代に翻弄される。1950年、朝鮮戦争が勃発すると鉛の価格が暴騰。鉛は電気自動車のバッテリーに欠かせない物だ。同時にガソリンは安価に手に入れやすくなってしまった。電気自動車のメリットが失われてしまったのである。
たま自動車はEVをあきらめ、1952年に「プリンス自動車」と社名変更。名車スカイラインを生み出し、1966年、日産と合併する。
2)プレーリージョイEV(1997年)
現在、スマートフォンのみならず幅広く使用されている蓄電池がリチウムイオン電池。これを世界で初めて蓄電池として商品化したのが日本のソニーで、1991年のことだ。このころはEVなどのメーカーも見向きもしなかったが、日産はこの新しい電池にいち早く着目した。1992年には車載用電池としての搭載を考え、ソニーと共同開発を開始。そして完成するのが1997年のプレーリージョイEV。リチウムイオン電池を搭載する世界初のEVだった。
世界初のリチウムイオン電池を搭載するEVとして、法人向けに30台がリース販売された。標準充電時間は5時間。1充電航続距離は200km以上。国立極地研究所北極観測センターの支援車として、厳しい条件下で6年間故障なく使用された。
3)ルネッサEV(1998年)
1970年代の「マスキー法」のように、アメリカではしばしば自動車メーカーを悩ませる規制が行なわれる。1990年代にもカリフォルニア州において「ZEV規制」が施行されることになった。ZEV=ゼロ・エミッション・ビークル、つまり排ガスゼロの(もしくはそれに準ずる)クルマを一定の割合で販売しなくてはならない、ということ。
日産はアルトラEVを北米に投入する。和名はルネッサ。ルネッサはずいぶんと床の高いクルマと認知されていたが、それは床下に電池を積むためのものだった。もちろんリチウムイオン電池を搭載し、1充電航続距離230kmと、現在の水準でも通用するクルマだった。
4)リーフ(2010年)
2000年代に入ると、自動車業界は「環境」という逆風にさらされる。燃費がよく環境にやさしいクルマを作ることが、自動車会社にとって不可欠な時代に突入した。トヨタなどはハイブリッドカーで攻勢をかける。ヨーロッパのメーカーはクリーンディーゼル、さらに小排気量+過給のダウンサイジングターボという技術も広まっていった。すべて高い環境性能を謳うものだ。
日産は2008年、日本でもクリーンディーゼルを搭載するエクストレイルを発売。だが、こと環境対応に関して、ほかのメーカーと比べると劣勢であったことは否めない。
そこで目を付けたのが電気自動車。2007年、日産はNECとともに「オートモーティブエナジーサプライ」(AESC)という合弁会社を設立。自動車用のリチウムイオンの開発やマーケティングを行う会社だ。ハイブリッドではおくれをとった日産だったが、リチウムイオン電池に関しては長年の蓄積があり、一歩リードしていた。これに次世代カーの命運を託すことになる。
そして2010年、電気自動車リーフを発売。24kWhのリチウムイオン電池を搭載し、109馬力相当のモーターで駆動する。1充電航続距離は200km(JC08モード)。最高速度は145km/h。充電は200Vなら約8時間で完了し、急速充電器なら約30分で80%まで可能だ。マイナーチェンジで追加された30kWhバッテリー搭載車では、航続距離を280kmまで伸ばした。もちろんAESCの手によるリチウムイオン電池を搭載。ここから日産は攻勢に転じる。
ハイブリッドカーやクリーンディーゼルは、明確にガソリンを消費し排気ガスを出す。だがリーフのようなEVにはそれがない。発電所で電気を作るときに排出ガスを放出するが、それはハイブリッドカーとは比べられないほど高い熱効率だ。圧倒的にクリーンであることは明白。
ただ航続距離の短さや急速充電でも約30分かかる充電の煩わしさなどもあり、本当に普及するかは未知数だった。だが補助金や減税の対象となり、徐々に普及していく。急速充電施設にも補助金が投入されることでその数は爆発的に増えた。充電施設が増えれば増えるほどリーフの弱点は薄められ、結果的にその存在感は増していった。
日本のみならず北米やヨーロッパでも人気を呼び、リーフは世界でもっとも売れている電気自動車に成長。日本カー・オブ・ザ・イヤーを含め世界各国でさまざまな賞にも輝いた。まさに日産リーフは電気自動車の顔ともいうべき存在になった。
5)ノートe-POWER(2016年)
2016年にはリーフのモーターを使用しエンジンは発電だけという、他社にないシリーズ式ハイブリッドのノートe-POWERも登場。長年EVに力を注いできた日産だからこそできたシステムと言えるだろう。電気自動車側からアプローチしたユニークなハイブリッドカーだ。
駆動はリーフ用と同様の109馬力相当のモーターのみが担当。だが充電の必要はない。搭載する1.2リッターエンジンは駆動には用いられず、発電を担当する。エンジン=発電、駆動=モーターというシリーズ式と呼ばれるハイブリッドだ。燃費もトヨタ車のハイブリッドと同等で、強力な回生発電を行なう独特のドライブ感覚も特徴だ。
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