約1000カ所におよぶ全米のレース会場
シリーズ開幕、日本でもレースがシーズンインしているが、アメリカ合衆国で人気といわれるアメ車(アメリカ車)が高速バトルを繰り広げる自動車レース「NASCAR(ナスカ―)」に危険信号が灯っている。この数年、観客数の減少が止まらない。アメリカのメディアによると、デイトナ500など一部の人気レースを除いて、1レースあたりの観客数は最盛期の半分程度だという。
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その背景には、単純なモータースポーツ人気の隆盛だけではなく、自動車産業全体に及ぶ大きな課題が見え隠れする。まずは、アメリカのモータースポーツの概要についてご紹介したい。
北米には、大小あわせて約1000カ所のレース場が存在する。そのうちの6割程度が直線路のドラッグストリップだ。ドラッグとは、クォーターマイル(1/4マイル:約400m)で停止状態からの加速タイムを競うレースのこと。または、ストリップとは直線路を意味する。一般道路でもストリップという表現が用いられており、例えば米ネバダ州ラスベガスのカジノが立ち並ぶ一角は、メインストリップと称されている。
そもそもドラッグレースは、公道で始まった。第二次世界大戦後、急速な経済発展を遂げたアメリカで、若者たちが仲間うちでの娯楽として始めたのだ。60年代に入ると、マスタング、カマロ、チャージャーなどの6リッターや7リッター級V型8気筒エンジン搭載のマッスルカー市場が盛況。60~70年代には、こうしたマッスルカーを改造したクルマで競技を行うレースの場として、ドラッグストリップの建設が全米各地で進んだ。また、ドラッグレース専用車として、トップフューエルやファニーカーといった分野が登場してくる。
現在、NHRAに代表されるドラッグレースでは、プロフェッショナルドライバーは存在するが、副業や趣味でドラッグレースに参加する人が多い。
また、90年代末から2000年代初頭にかけて、ホンダのシビックやインテグラ、日産S14型シルビア、トヨタ80型スープラなど、日本車によるドラッグレースに注目が集まった。映画『ワイルドスピード』の初作が公開されたころだ。だが、いまではそうしたブームは完全に消え去ってしまった感がある。やはり、ドラッグレースの主役は、アメ車なのである。
90年代後半をピークにNASCAR人気は下火へ
次に数が多いレース場は、楕円形をしたオーバルコース。このうち、ダートオーバルのほうがペイブド(舗装)オーバルより数が多い。ダートオーバルの多くは1周がクオーターマイルメートル未満の小規模。市販のアメ車を改造した車両や、パイプフレームで作成したダートオーバル専用車で走る。だが、こうしたレース人口は近年急減に減少しており、ダートオーバル場を売却して宅地やショッピングモールになるケースが目立っている。
そして、ペイブドオーバルの主役といえば「NASCAR」。レース場では1周2.5マイルからハーフマイルまでがあり、全米各地に存在する。
NASCARは1950年代に米南部で発祥し、60年代に入ってフロリダ州デイトナで大型オーバルコースをNASCAR本部自らで建設。70~90年代中盤までは、米年部を中心とした一部のファンが熱狂するに留まるマイナーな存在だった。ところが、90年代後半、テレビ放送を含むエンタテインメント性を活用したことで大ブレイク。観客数もテレビ視聴率もウナギ上りとなり、2000年代にはMLB(野球)、NFL(アメリカフットボール)、NBA(バスケットボール)、NHL(アイスホッケー)と並ぶ、アメリカンスポーツの中核的な存在となった。
だが、そうした急激な人気上昇によって、チーム間の競争が激化し、チーム運営費が急騰。スポンサー契約料も上がったが、費用対効果の評価が難しく、大手スポンサーが撤退することも少なくなかった。
また、レース場側も観客の急増に対応して観客席を新設、またはレース施設の全面会改良など巨額の投資を行ったが、NASCAR人気の低下によってレース場経営にも暗雲が立ち込めてきている。
人気低迷の背景にアメリカ人の”クルマ離れ”
NASCAR以外にも、欧州のコンストラクターやドライバーの参入が多いインディカーや各種耐久レースなどでも、人気は伸び悩み、または低下の傾向がみられる。こうした、アメリカンモータースポーツ全体における人気低下の背景にあるのが、アメリカ人の”クルマ離れ”だ。
ここでの”クルマ離れ”とは、クルマへの関心がなくなってきている、という意。アメリカ人にとってクルマは日常の足、というのは今昔も変わらない。だが、スポーツカーやアフターマーケットに対する関心は、若い世代を中心に急激に冷めている。
VRゲームなど仮想現実を楽しむことに浸る人たちも増え、実車に対する興味も減少。日本のみならず、アメリカでも”若者のクルマ離れ”が進んでおり、それがモータースポーツに大きな影響を与え始めているのだ。
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