ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説してくれると好評だ。
第二回となる今回は2021年12月14日に行われたトヨタの「バッテリーEV戦略に関する説明会」を取り上げる。
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その規模もさることながら「大幅な戦略の転換」との見方も広がった今回の発表を中西氏はどう見たのか?
※本稿は2022年12月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真/TOYOTA、ベストカー編集部 ほか、撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY
初出:『ベストカー』2022年1月26日号
[gallink]
■「スケール」と「方向性」 2つの意味で度肝を抜いたトヨタのBEV戦略 3つの新事実
「電気自動車(BEV)に消極的ではないか」と懸念されてきたトヨタ自動車がついに本気を見せるBEV戦略をアップデートしました。主要な新事実は以下の3点にあります。
第1に、2030年での年間の世界のBEV新車販売台数を350万台とし、2021年5月に発表した200万台(燃料電池車を含む)から大幅な上方修正としました。
2030年のBEV構成比は推定35%となり、VWの50%やフォードの40%の同計画に匹敵するものとなります。
発表済みのbZ4Xとeパレット以外に、今後のBEV全15車種を初公開したトヨタ。いつの間にこんな準備をしていたのか! と世界を驚かせた(撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY)
第2に、レクサスはBEVブランドを志向し、2030年までに欧州・中国・北米における新車販売の100%、2035年までにグローバルでも100%のBEV化を目指します。これは大きなサプライズです。
第3に、2030年までに電池2兆円、BEV車両2兆円の、BEV領域合計で4兆円もの投資(研究開発と設備投資の合計金額)を実施します。
2030年の電池生産能力は従前の200ギガワット時(GWh)から280GWhへ上方修正となります。
ちなみに同時期の電池生産計画は、ステランティスが260GWh、フォード、VWが240GWhですので、トヨタは世界最大の電池生産能力を有する自動車メーカーとなります。
■「戦略の転換」ではない
なぜ、これほどの強気な計画に転じたのか。
突然、強気に転じたわけではなく適切な、公表時期を見定めていたと筆者は考えます。トヨタがBEVシフトの戦略転換をしたと考えるのは誤解でしょう。
トヨタの脱炭素の基本戦略とは、ハイブリッド、燃料電池車、水素エンジン車も含めて「全方位」にあり、これは不変です。全方位戦略を維持しながら、BEVでもトップを目指すという考えを示したと受け止めています。
トヨタがBEVに消極的と言われてきたのは誤解されていた面が強く、それには2つの背景があります。
第1に、日本に政策提言を行ってきた日本自動車工業会としての姿勢が、トヨタの電動化戦略と混同されてきたことがあります。
第2に、BEVへの準備は着実に進めてきましたが、外部に対し公表はやや控えめなトーンに抑えてきたのです。出遅れと見せかけながら量産で優勢に立つのはトヨタの常套手段ではないでしょうか。
そもそも、5月の前回発表数値目標が低すぎたとも言えます。当時、米国はバイデン新政権がパリ協定に復帰するやいなや、米国国民の雇用(特に労働組合員)と米国産業の強化を目指した経済政策「インフラ計画」が打ち出されていました。
カーボンニュートラルの実現が企業責任となる場合、燃費性能の低いピックアップやSUVを事業の柱に置く米国メーカーは存亡の危機を迎えます。
バイデンの「インフラ計画」とは米国自動車産業と雇用される労働組合員の防衛を目的とした保護政策と言って過言ではありません。
『なにも敵に塩を送るようなメッセージを自ら発することもない』という考えでしょうか、控えめすぎる台数計画をトヨタは発表しました。そのメッセージが世界から違和感を持って受け取られたのです。
『ベストカー』2021年9月10日号記事内での国産メーカー各社のEV計画(執筆は8月となります)
■効率を犠牲にする覚悟
この2つの背景を繋げるとトヨタはBEV抵抗勢力というイメージが浮かび上がり、さらに世界との対立軸という構図を用いて、日本の将来課題への懸念を表すメディアが誤解に拍車をかけました。
しかし、トヨタがBEVを大切に考え、カーボンニュートラルへのソリューションと、日本経済と産業の未来を考えていることは疑いありません。
グローバル・フルラインのトヨタが全方位で選択肢を顧客に提供する基本戦略は不変です。そうならば、顧客には選択肢、トヨタはリスク分散、日本は雇用を維持することの意味が内包されています。
全方位戦略を維持しながら、BEVでもトップを実現することは、効率を犠牲にするという大きな課題に直面します。
ここは、お家芸であるトヨタ生産システムの原単位の縮小、リードタイムの短縮、開発・生産の柔軟性、バリューチェーンビジネスの拡大でカバーしていく考えです。
これを本当に実現できるのであれば、世界最強の自動車メーカーの一角を担う未来図が見えてくるでしょう。
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
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みんなのコメント
「全方位で準備はしておく、しかし選ぶのはお客様、そこは我々メーカーにはどうにも出来ない」
メーカーは需要有るものを供給する、これが市場の原理。
現状のEVブームは需要の不確定という現実を無視している、基本的に世界の多くの消費者は内燃機関車で何の不便もしておらず、EVなど求めていない。
EVブームは必ず終息する、世界の自動車メーカーの再編、競争はそこから始まる、テスラすら大手自動車メーカーの傘下になる可能性は高い。