北米で支持を集めたオープン2シーター
初代フォード・サンダーバードとは異なり、ジャガーXK140にはATやパワーステアリングという快適オプションはない。それでも、エンジン・レイアウトのおかげで、身長の高いアメリカ人も快適に座れる車内空間が与えられていた。
<span>【画像】初代サンダーバードとXK140 同時期のライバル、C1コルベットも 全65枚</span>
ステアリングラックはラック&ピニオン式で、伸縮式のダンパーも獲得。先代のジャガーXK120以上に速いだけでなく、操縦性にも優れていた。
ボディは2シーターのフィックスドヘッド・クーペ(FHC)とコンバーチブルのドロップヘッド・クーペ(DHC)、より軽量なソフトトップのオープン2シーター・ロードスター(OTS)が選択できた。北米で特に好まれたのが、ロードスターだ。
実際、XK140のOTSは右ハンドル仕様で73台しか作られていないが、左ハンドル仕様は3281台もラインオフしている。北米へ輸出するために。
3442ccの直列6気筒エンジンは、標準で192psを発生。最高速度は193km/h以上とうたわれ、今回ご登場願った例のように特別仕様となるSE(スペシャル・エクイップメント)のXK140なら、200km/h以上を期待できる動力性能を誇る。
鮮やかなレッドに塗られたXK140は、1956年に西海岸のディーラーで販売された1台。Cタイプのシリンダーヘッドにクロームメッキのワイヤーホイール、レアなオーバードライブを装備する。英国に戻ってから、ディスクブレーキにアップグレードされたという。
広いスーパーマーケットの駐車場でも当たり負けしないよう、ガードレールのように無骨なバンパーを前後に装備する。鋳造のフロントグリルも、XK140の特徴となっている。
対象的な2台のスタイリング
他方、ターコイズブルーが眩しい初代フォード・サンダーバードは、1955年式。ワイヤーホイール風のキャップがスポーティに見えるが、状態も極めて良い。
戦闘機のキャノピーのうに大きく回り込んだフロントガラスに、短いホイールベースが絶妙なプロポーションを生んでいる。ボディにはフィンだけでなく余計なカーブもなく、ボンネットのエアスクープはちゃんと空気を吸い込んでくれる。
対象的に、ジャガーのボディはどこを切り取っても曲面。テールに向けてサイドラインが降下し、大きくえぐられたサイドと、リアエンドへ流れていく。サンダーバードよりXK140の方が全長は25mm長いが、全幅は140mmも狭い。
英国のスポーツカーらしく着座位置は低く、直径17インチ(約430mm)の4スポーク・ステアリングホイールとバケットシートというペアは、筆者には見慣れたもの。黒地に白文字の6眼メーターが機能的だ。
サンダーバードのメーターパネルは別世界。中央に扇型のスピードメーターが鎮座し、ドアパネルへ滑らかにつながるソフトパッド付きのダッシュボード・トップに、レブカウンターと時計が埋まっている。
運転席は足もと空間が広いものの、ステアリングホイールとシートとの間に身体が挟まったような感覚を受ける。西海岸の陽気な空気が似合いそうだが、どこかぎこちない。サンダーバードを購入した英国人は、別世界のクルマだと感じたことだろう。
気筒数と点火多順序が生む個性的なノイズ
このクルマには、オプションのパワーウインドウは選ばれていないが、4ウェイのパワーシートは付いている。1950年代の英国車の多くは、シートをリクライニングすらできなかったことを考えると、驚くほどの豪華装備といえる。
幅の広いベンチシートは、細身の大人なら3名が座れる。フロアMTだから、中央に座った友人の太ももを、ドライバーは頻繁に触れることになるが。
大きなボンネットの内側には、マーキュリーや警察仕様のフォードにも搭載された、Yブロックと呼ばれるオーバーヘッドバルブのV8エンジンが載る。洗練されたカムヘッドを備えるXK140の直6と比べると、デザインはかなり無骨だ。
ジャガーもフォードも、始動性は良い。文明的なアイドリングをすぐに始める。だが気筒数や点火多順序の違いがもたらす、個性的なノイズを響かせる。
XK140のスムーズなサウンドは、筆者にとってはお馴染み。サンダーバードのV8らしいビートも心地良い。クルマが止まっていても回転数数の変化でボディが揺れるほど、サスペンションが柔らかい。
V8エンジンは4000rpm以上回しても、さほど意味がない。直6は5000rpm以上まで回してシフトアップすることで、豊かなトルクとともに幸福を感じる。
ジャガーのモス社製トランスミッションから、寝た角度でレバーが伸びている。回転数の上昇とともに、ストレートカット・ギア独特の唸りが聞こえてくる。変速時にギアの回転数を同調させるシンクロメッシュが付くが、丁寧にタイミングを図る必要はある。
この続きは後編にて。
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