2019年3月10日、STIは「STIモータースポーツDAY」を富士スピードウェイで開催し、詰めかけた多くのファンの前でニュルブルクリンク24時間レース参戦する、サメ肌塗装のWRX STIマシン公開シェイクダウンテストを行なった。そこでAPらしく更なる詳細情報をお伝えしよう。
チーム体制は変更なし
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2019年のチーム体制は、辰己英治総監督の下、ドライバーはカルロ・ヴァンダム、ティム・シュリック、井口卓人、山内英輝の4選手で前年から変更ない。が、今回のシェイクダウンには、カルロ・ヴァンダム選手、ティム・シュリック選手も来日し、富士スピードウェイを走り込んだ。
チームを支えるメカニックは、北海道スバル、福島スバル、北陸スバル、静岡スバル、名古屋スバ、大阪スバル、滋賀スバル、広島スバルの各ディーラーから選抜されたディーラー・メカニックが担当する。ディーラー選抜のメカニックはこれまで6名だったが、今回から8名体制に増やし現場での作業負担を減らしている。
正式発表された2019年仕様のWRX STIの開発段階での情報は、これまで継続して掲載しているので以下のリンクを参考に見て欲しい。
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2018年のニュルブルクリンク24時間レースでは、目標であるクラス優勝こそ達成したが、予選、決勝レースで想定していなかったトラブルが続出し、気持ちよく走りきったとは言えないレースだった。こうした反省も踏まえ、今回の目標には、メカトラブルを防ぎ耐久・信頼性能の向上、そしてより高い次元の走りを追求するための性能向上というのが2019年仕様のテーマである。
パワーユニット、ECUを改良
2018年のトラブルとその対策についてまとめてみると、まず最初はECUに関してだ。2018年はレース後半で車内に雨水が侵入し、ECUが濡れるトラブルがありエンジン不調になった。実は純正ECUは一定レベルの防水対策がされているが、レースで使用しているモーテック製ECUは防水対策がなかったのだ。
そこで、今回は水上バイク用のECU本体を採用し、さらに接続される配線にも防水対策を行ない、確認実験では水槽の中にECUを入れた状態できちんとエンジンを制御できることも確認されている。ヴァンダム選手は「まるで潜水艦みたいになった」と語ってる。
また今回使用するモーテックのECUは最新仕様となり、CPUの演算速度、配線を通しての通信速度が従来タイプより8倍もアップし、エンジンレスポンスの向上も実現している。また従来はDCCD用、パドルシフト用に別体のECUを使用していたが、それをエンジン制御ECUひとつに統合して、通信遅れをなくしている。
通信遅れがなくなったECUの制御速度アップを活かし、シフト時のショックの低減、ギヤチェンジの時の、車速の落ちを少なくする対策が行なわれた。これまではシーケンシャルギヤの変速ショックが大きく、特にコーナリングではドライバーが不安を感じるほどだったのだ。そこで、各ギヤ比を見直してステップ比を小さくし、軽量なクラッチ/フライホイールを組み合わせることで、シフトショック、変速時のエンジン回転数の低下を少なくしている。変速時のエンジン回転数の低下は抑えられ、結果的に1回の変速で0.0065秒短縮できたた。これは1周で65回のシフトチェンジがあり、合計で0.42秒速くなり、24時間では約1分短縮となるのだ。
この他に、予選時には低フリクション・エンジンオイルを使用し、全回転域でレスポンスの向上と出力アップを狙うという。
万全のトラブル対策
また2018年の予選時には、パワーステアリングのオイルホースからオイル漏れというトラブルも発生している。そのため2019年仕様は量産車と同等の品質管理のもとでホースを製作し、同時にホース・ジョイントの点数も減らしている。
もちろん既報のようにラジエーター/オイルクーラーもサイズアップし、より冷却性能を向上している。今回の24時間レースは6月開催のため、欧州では真夏のレースになる。そのため、これまではギリギリだったクーリング性能をより高め、余裕を持ってレースに臨めるようにしている。
またエキゾーストのサイレンサーも新作した。2018年は音量規制にひっかかり、レース中にエンジン回転数を抑えざるを得なかったため、今回は新たにサイレンサーをフジツボに依頼して製作。さらに、より消音性能の高いサイレンサーも念の為バックアップ用に製作している。
シャシーでは、フロントのスクラグ半径を縮小した。幅広タイヤを使用しているため、ホイールのオフセット量は+オフセットになるが、2018年仕様はそれが大きすぎ、転舵時のタイヤの負荷が大きく摩耗を早めていたこと、また加減速時にアンダーステアが出やすくなっていた。対策としてハブキャリアの厚みを変更し、スクラブ半径の縮小を行なっている。
ホイールは、マグネシウム製からアルミ製に変更し、さらに前後ホイールを異形状としている。フロント用のホイールはリム部の高さを1mm高くし、タイヤのビード/フィラーの保持特性を向上させ、有効接地面積を増やし操縦性を高めるようにしている。
サメ肌塗装が持つ空力的な意味
ボディのカラーリングは見た目はマット塗装、つまりつや消し塗装になっていて、これまでとかなり印象が違っている。これが「サメ肌塗装」で、塗料メーカーに依頼して塗装表面が微小な凹凸になる塗料を採用しているのだ。
この発想は、エアロダイナミクスの分野で「境界層制御」と呼ばれるものだ。水はもちろん、空気にも粘り(粘性)があり、空気中を動く物体の表面に空気が粘りつく。一様な空気流の中では物体の表面に層流と呼ぶ粘性を持ち、空気の流れが遅い層(層流境界層と呼ぶ)ができる。しかし、クルマの形状は理想的な流線形ではなく、不連続な形のため、走行中に各所で層流境界層から乱流境界層に変化せざるをえない。その層流から乱流に変化する遷移時に抵抗が発生する。
さらにもっとボディ形状が角ばった場所では層流境界層が剥離し、剥離した場所から後方で大きな空気抵抗を発生する。こうした乱流発生、気流の剥離による空気抵抗は高速走行時には無視できないレベルになるのだ。
そのためボディ表面に最初から微小な凹凸をつけておくことで、その表面に微小な乱流境界層を作り、結果として乱流遷移の発生を少なくし、よりスムーズに気流が剥離することで発生する空気抵抗を小さくすることができる。これが「境界層制御」と呼ばれるテクノロジーだ。この境界層制御の手段が表面がざらついた、極小の凸凹のあるサメ肌塗装なのだ。
5月のクォリファイ・レース出場に向けて
2019年仕様のマシンはアウターパネル部分はすべて新しくしているが、骨格部は2018年仕様と同じだ。その利点も生かして、従来と比べテスト走行の回数が増えているのも今回の特長だ。
2018年末までに3回、2019年に入って2月下旬、そして3月9日~11日とテスト走行を繰り返し、2019年用に投入したアイテムの確認やセッティングを煮詰めている。これは例年に比べ異例なテスト回数だ。今回、富士スピードウェイを走ったヴァンダム選手も、シュリック選手ともにマシンは走り易くなっているという。
また、辰己総監督によれば富士スピードウェイでのテスト走行で、2018年のテスト時より約1秒速くなっていることがわかり、セッティングとしては良い方向であることが確認できたという。唯一、できなかったのがウェット用タイヤのマッチングテストだけだ。
3月9日~11日は、ディーラー選抜メカニックにレース車の取扱に関する集中トレーニングも行なわれている。3日間のトレーニングで動きや仕事ぶりが良くなっていて目に見える成長があったという。
この先のWRX STIの予定は、VLNレースには出場せず、5月18日~19日に行なわれる24時間レース出場チームのための公式レース「クォリファイ・レース」に出場する。
辰己総監督の今季の目標について、「クラス優勝はもちろんですが上のクラスを少しでも食えるような戦いにしたい」と語っている。日本車ではSP8Tクラスでトヨタ GRスープラもニュルブルクリンク24時間レースに初参戦するが、上のクラスに戦いを挑むWRX STIの走りは期待できそうだ。
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