青空を仰ぐか、静寂を楽しむか
久しぶりに、ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブルをドライブした。
【画像】唯一無二の世界観【コンチネンタルGTコンバーチブルとクーペを比較】 全127枚
全長4850mmの堂々たるボディ。ソフトトップを閉めている姿は2トーンにペイントされた瀟洒(しょうしゃ)なクーペを装っている。
サルーンの流れをくむオープンモデル、いわゆるf.h.c(フィックスドヘッドクーペ)は、「ここぞ!」というときしか幌を降ろすべきではない、と力説していたのは徳大寺有恒巨匠だ。
当時はベントリィ(巨匠は必ずそう記していた)のオーナーたる者は慎み深さを持つべき、ということだと解釈していた。
だが後年、実際に古いベントレーに触れ、電動開閉とはいえ幌の最終的な固定に人力を必要とするソフトトップの開閉を経験したことで少し考えが変わった。
都市部の喧騒を抜け、景色が開けたからと言って、すぐに幌を開け放ちたいなどという思いにはなかなか至らないであろうということだ。
もちろん現代のコンチネンタルGTのソフトトップは別物だ。
全自動だし、50km/h以下なら走行中でも開閉でき、費やす時間も20秒弱という早業である。
今回もとりあえず幌を降ろして走りはじめることにした。
思ったよりも寒ければ、もしくは渋滞がひどければ、スイッチを長押しするだけで静寂に包まれる。これこそ21世紀ベントレーの愉悦である。
極上の機構に思いを馳せ
今回試乗したコンチネンタルGTコンバーチブルはW12エンジンを搭載していた。
だがMY2022のコンチネンタルGTでW12を搭載するのは「スピード」のみとなる。
今日び12気筒という響きが少し感傷的なのは、内燃機関の終わりがいよいよはっきりとしてきたことと無関係ではないだろう。
クランクシャフトが2回転する間に12回の爆発が起こる12気筒は、内燃機関の1つの究極といえる。
こうして生まれた軸出力がギアボックスやデフを経て四輪を駆動する。
もちろん現代のそれは、走行状況やドライバーの気持ちを読み取る電制により生き物のように可変し、シャシーの側ともシームレスに連携してみせ複雑な機構を覚らせない。
時間に急かされていなければ、ベントレーで都心の渋滞にはまっても退屈はしない。
ごく低速でもW12エンジンの滑らかさは味わえるし、落ち着いてインテリアを観察することもできる。
ナビと3連メーターがドラム式に切り替わるローリングディスプレイなどは、実は単純な回転運動ではないので、メカニカル好きの想像を大いに掻き立ててくれる。
ようやく首都高速の入り口に辿り着いたので、ドライビングモードをコンフォートからベントレー推奨のBモードに変え、幌を下ろすことにした。
シートヒーターを効かせても寒さが消えるわけではない。
だがこんな蛮勇も、コンバーチブルだからこそ出会うことができる選択の余地なのである。
ハレとケが彩る世界観
後ろ髪を跳ね上げるように渦巻く風を感じながら、トラックが増えてきた夕方の首都高を南下する。
コンチネンタルGTコンバーチブルというクルマは、ベントレーという洗練された基盤の中に2つのハレとケが共存しているということで説明がつく。
幌の開けているとき、もしくは飛ばして走っているときがハレ(非日常)。
幌を掛けているとき、またはゆっくりと走っているときがケ(日常)というわけで、この2つはさまざまなシチュエーションで絡み合う。
幌を開け放ち、飛ばして走っている今が究極の非日常であることは言うまでもない。
念のために言っておくと、現行のコンチネンタルGTは、ボディの大きさから想像されるようなダルなクルマではない。
低速では滑らかさを売りにしていたW12エンジンもそう。
過給エンジンでありながら、6200rpmのリミットまで右肩上がりにパワーが高まっていく。
レブカウンターもパドルシフトも形骸的なものではないのだ。
かつて巨匠は「ダンディトーク」という著書の中で、ベントレーを「エレガントな怠惰」と表現していた。
そういった風情は、現代のベントレーにもいい意味で残されている。
だがそれだけではないという二面性が21世紀の、もしくは戦前のベントレーが備えていた本来のスタンスなのである。
ブランドのコンセプトから読み解けば、電動化された未来のベントレーも間違いなくいいだろう。
だが今現在のモデルもこれ以上ないほどの完成度なのである。
ベントレー・コンチネンタルGT(W12モデル)コンバーチブルのスペック
価格:3740万円
全長:4850mm
全幅:1964mm
全高:1399mm
最高速度:335km/h
0-100km/h加速:3.7秒
車両重量:2436kg
パワートレイン:W型12気筒5950ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:659ps/5000-6000rpm
最大トルク:91.6kg-m/1500-5000rpm
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック
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