2人のドライバーがコンビを組んで参戦するスーパーGTならではだが、新たなコンビが誕生するときに「新コンビが生むケミストリーは……」などというフレーズで語られることがある。ケミストリー(chemistry)とは“化学反応”とか“化学現象”のことで、新たなドライバーと組むことで自分自身が変革して(進化して)いくことを表現している。中でもGT300クラスでは若手が抜擢され、ベテランが育てていく図式が定着していて、ケミストリーが氾濫している。
でもそれって化学反応じゃなくて、若手は進化していってもベテランは若手の進化を助ける、単なる“触媒”じゃないの? そう思っていたが、若手を育てる名人、名伯楽との呼び声高い高木真一(#96 K-tunes RC F GT3)は「(ベテランだって)成長してますよ!」とコメントしている。「若いドライバーにレース運びとかタイヤマネージメントなどの“巧さ”を伝える代りに彼らの若さからくる、ちょっと無謀なほどの“速さ”に刺激を受けていました」と続けた。
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そうか、ベテランだって、ドライバーとしてまだまだ成長していけるんだ。そう聞いて安心したけれど、パドックを見回してみると、もっともっと激しいケミストリーがあった。それが#88 Weibo Primez ランボルギーニ GT3の小暮卓史。2003年から18年まで16年間にわたってホンダのワークスドライバーとしてGT500で活躍。2010年にはドライバーチャンピオンにも輝いているトップドライバーの一人だ。ただしワークスチームの“若返り”から2019年にはGT300の古豪プライベーター、JLOCに移籍することになった。
そのJLOCでは、若手から中堅になろうとしていた元嶋佑弥とコンビを組むと、先ずはその元嶋が化学変化を起こすことになる。「天然系のキャラはそのままですが」と苦笑しながらも元嶋は「小暮さんは、とにかく速いです。GT500のワークスで走っていた人だから、GT300は体力的には何の問題もないと思いますが、ともかく速いし、今でも進化しています」とべた褒めだ。
そして「チームメイトに負けっ放しじゃドライバーとしても終わりなので、僕も緊張感をもって走っています。少しずつでも小暮さんの速さに近づけたらいいと思うのですが、でも小暮さんは僕が速くなろうと頑張っているのを助けてくれています」と、小暮の速さに影響されて自分自身も着実に成長してきた、と自己分析している。それにしても「今でも進化しています」とは……。
これについて小暮は「元嶋選手は、もう若手というよりも中堅としてバリバリ活躍できる選手。だから僕自身も刺激を受け、お互いに切磋琢磨しながらレースを走っています」と2人の関係を認識していた。しかし小暮の起こしたケミストリーは、それだけではなかった。彼を招聘した則竹功雄チーム代表兼総監督は「小暮君が来てくれたことで、チームがピリッとしてきました。もちろん、最近の好結果はタイヤ(のアップデート)が大きいのですが、チームが一回り強くなったことも見逃せません」と小暮効果を高く評価している。
また今年からチームに招聘された元無限(M-TEC)の名物監督だった、熊倉淳一新監督も「今年からチームに呼ばれていますが、やはり好成績はタイヤの効果が大きいと思います」としながらも「でも、チーム自体も(外から見ていた以上に)しっかりしていましたね」と評価している。
小暮のパートナーである元嶋だけでなく、もう1台のウラカン(#87 Bamboo Airways ランボルギーニ GT3)をドライブする松浦孝亮/坂口夏月のコンビも、考えてみれば鈴鹿サーキットのレーシングスクール(現・ホンダ・レーシング・スクール)の優秀な卒業生(在籍年次は違っているが)で、ホンダで“同じ釜の飯”を食った間柄。そこに元無限の熊倉監督が新たな化学反応を誘発したら……。タイヤの進化だけでなく、このような分析からも、今年のJLOC、2台のウラカンGT3からは、目が離せなくなりそうだ。
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