Mercedes-AMG S63 4MATIC+long × Mercedes-Benz S560 4MATIC long
メルセデスAMG S63 4マティック+ロング × メルセデス・ベンツ S560 4マティック ロング
フェラーリの新時代を築く488GTB&488スパイダー。ターボ論争に決着をつける【Playback GENROQ 2017】
王者の矜持
いつの時代もフラッグシップサルーンのあり方を世界に示してきたSクラスが大幅な改良を受けた。メルセデス自慢の先進安全技術はさらなる進化を遂げ、新開発V8を搭載するなど魅力を大幅に高めている。今回はV8の上位モデルを比較し、その実力を確かめた。
「最高峰ラグジュアリーセダンの代名詞、メルセデス・ベンツSクラス」
素晴らしい出来栄えは当たり前。反対に期待に少しでも届かなかったらガッカリだと非難されるのが自他ともに認める王者の宿命である。そんな最高峰ラグジュアリーセダンの代名詞、メルセデス・ベンツSクラスが新型エンジンを搭載してマイナーチェンジを受けた。
現行のW222型は2013年デビューだが、最新の安全運転支援システムはもちろん、エレガントなインテリアで世の中を驚かせたものだ。あのSクラスとは信じられないほど、ゴージャスでまったりラグジュアリーなクルマに変貌していたのである。ただし、近年は特にエミッション対策や電子制御技術の変化のスピードが速く、時代をリードする責任を負うSクラスもタイミング次第では他に後れを取ることもある。最も洗練された先進安全運転支援システムを搭載して昨年発売されたEクラスとの関係を正すために、新型エンジンと進化したインテリジェントドライブで最新仕様にアップデートしたのが今回の新型だ。Sクラスは常に最先端でなければならない。
「Sクラスは常に最先端でなければならない」
新型Sクラスは全部で7車種だが、当面は3車種となる。ベーシックグレードのS400に加え、S560とAMGのS63、しかも後者2モデルは4WDのロングボディである。それ以外のモデル、すなわちS560ロングとS600ロング、AMG S63ロング及びS65ロングは12月頃からデリバリーが始まる予定だという。要するに真っ先に乗れるのは、3.0リッターV6ツインターボを積むS400以外は、どちらもロングボディの4マティック仕様ということになる。勇んで試乗に臨んだが、ちょっと肩透かしを食らった気分である。というのは、Sクラスクーペだけに採用されていたダイナミックカーブ機構が新たに追加されたMBC(マジックボディコントロール)はこの3車種では選べないからだ。
また、本国でラインナップされているS450/S500、S350d/S400dというモデルに相当するクルマもない。これら車種は今回のマイナーチェンジの目玉と言える最新の3.0リッター“直列”6気筒ガソリンターボ、及びディーゼルターボユニットを積むモデル。48V化されたISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を搭載したベルトレスの6気筒ユニットは、メルセデスの電動化路線でも大きな役割を果たすはずだが、日本向けは未定というか言及なし。
予定が立たないといっても、先進的であることが核心的価値のSクラスでまったくの“スルー”はいかがなものか。ディーゼルスキャンダルはいまだに欧州では燻っており、大規模なディーゼル車のサービスキャンペーン(ダイムラーも地元検察の捜査を受けている)を実行中ゆえに、藪蛇を避けたいのかもしれないが、そういう姿勢はかえって要らぬ憶測を招くもの。王者メルセデス・ベンツは、率先して堂々と今後の見通しを語るべきではないだろうか。
「Sクラスはパワーをエレガントに生み出し、繊細に制御するかが求められる」
それにしても、3.0リッターV6ツインターボのS400(367ps/500Nm)以外は、皆4WDのロングボディのラインナップである。日本ではとりわけ導入初期はV8が主力になることは分かるが、さらにロングボディを選ぶカスタマーが多いのだろうか。スタンダードのS400でもホイールベースは3m超えの3035mmという堂々たるサイズである。ロングボディは全長もホイールベースもさらに130mm長く、車重も2.2トンを超える。自らステアリングホイールを握るには正直気が重くなる図体である。ちなみに最小回転半径は5.8m(S560)とサイズの割に小さいことはメルセデスの伝統的な美点だ。これは新型カムリと同等、つまりSクラスがきわめて“切れる”のである。
試乗できたのはS400を除くロングボディの2台である。新しい4.0リッターV8ツインターボモデルに付けられた「S560」という数字に懐かしさを感じる人もいるはずだが、もちろん今ではエンジンの排気量や出力の数字とは何の関係もない。4.7リッターV8ツインターボの従来型「550」よりダウンサイジングしながらパワーアップしたことをアピールするためらしい。
M176型V8ツインターボは469ps/700Nmを発生、トランスミッションも9速ATとなり他のモデルに追いついた。Sクラスともなれば静かでパワフルなのは当たり前、そのパワーをいかにエレガントに生み出すか、また乗員に不快感をいささかも生じさせない繊細なコントロールが可能かどうかも求められる。その点、S560のV8ツインターボは文句なし。豊かな水の流れのように、いつでも滑らかに欲しいだけの力が溢れ出る。
「車重2.2トン余りの巨大なサルーンとしては驚愕ものの加速性能」
もっともこの新型V8の兄貴分に当たるのはS63に積まれるV8ツインターボのM177型のほうだ。ボア×ストロークも排気量も同一のV8ツインターボは、もともとAMG GT用(こちらはM178という)に開発されたものと基本的に同じ、従来の5.5リッターV8ツインターボに代わるもので、すでにE63に積まれている。2基のターボチャージャーをVバンクの間に配置し、ナノスライドと呼ぶシリンダーコーティングを採用して軽量コンパクトと高効率を追求した新世代ユニットで、低負荷時にはV8のうちの4気筒を休止させる機構も備わる。
一方で612ps/900Nmの怒涛のパワーを生み出し、0-100km/h加速は何と3.5秒という(欧州仕様)。駆動力を電子制御する4マティック+のトラクション性能のおかげもあるとはいえ、車重2.2トン余りの巨大なサルーンとしては驚愕もの。この数字はAMG GT Rの3.6秒を上回っているのだ。S560 4マティック ロングでさえ4.6秒というから恐れ入る。4秒台半ばの加速タイムは高性能スポーツカーレベル、4.6秒は現行型のポルシェ911カレラと同タイムである。
「S63と対照的なしっとりとした乗り味。溢れ出す豊かなパワーも心地よい」
ラグジュアリーで艶やかなインテリアの仕立ては従来型とほとんど変わりなく、新しいのはEクラス同様タッチコントロールボタンを備えたステアリングホイールぐらいだ。S560の乗り心地は当然まったり滑らかで優雅で、当代随一のラグジュアリーサルーンとして何の不満もない。本音を言えば、新たにダイナミックカーブ機構が付き、前方路面を検知する機能も改良されたというMBCも試してみたかったが、これはS560ロングにオプション、S65ロングに標準装備ということで、現状日本仕様には用意されない。これまでの経験から言うと、あちらはもうちょっとしっとり、クリーミーな乗り心地であるはずだ。
S560と同じくエアスプリングながらAMG専用サスペンションとなるS63は当たり前だがより硬質だ。それでも以前ほど硬派な雰囲気を前面に押し出したものではなく、十分に快適ではあるが、しっとりしたS560に比べれば目地段差等でのゴツゴツした反応は明確、特に低中速域では足まわりの硬さを意識しないわけにはいかない。S63のスウィートスポットはもっと高いところにあるようだ。その気になれば空恐ろしい勢いで加速するが、エンジンのフィーリングは紳士的だ。ただし、スポーツ+モードを選ぶとベリベリという獰猛な排気音を響かせる。
「先進のADASはマメに働く」
アクティブディスタンスアシスト・ディストロニックには、追従走行中に渋滞で前車が停止した場合に自車も停止して30秒以内であれば自動的に再発進する機能も加わった。実際に首都高速の渋滞の中で試してみたが、停車するたびに律儀にアイドリングストップが作動し、前走車が動き出せば再始動、再発進をきっちり繰り返す。隣のレーンのクルマが割り込む気にならないほどのタイミングと間隔をキープしたまま合流地点の渋滞を乗り切ったのだから、なかなかのマメさである。スタートしない場合は、軽くスロットルを踏むか、ステアリングホイール上のスイッチを押せばいい。
ちなみに一般道では再発進できるのは3秒以内となっている。もっとも、S63の場合はトランスミッションが標準グレードと同じ9速ではあるが、トルクコンバーターではなくより変速がダイレクトでクイックな湿式多板クラッチ式のAMGスピードシフトMCTが搭載されているせいで、自動変速でもガンッというシフトショックを感じる時もあった。
「アップグレードされたSクラスに乗り換えて裏切られることはない」
ところで、これまでディストロニックのコントロールレバーはコラム左側に生えていたものだが、新しいSクラスではステアリングホイール上にスイッチが設けられた。メルセデスはクラスを問わずレバー方式だったから、すっかり馴染んでいたのに、と残念に思う人も多いだろう。私もそのひとりだ。かつては頑ななまでにメルセデス流にこだわっていたのに、最近は柔軟というか、あまり執着していないようだ。ダッシュボード中央と定められていたハザードスイッチ位置がモデルによって異なるのはその典型だろう。
ショーファーカーとして使用する方や、とにかく一番大きい武闘派モデルを求める人はすぐにでもアップグレードされたSクラスに乗り替えて裏切られることはない。だが、せっかくなら最新装備がすべて揃ってからでも遅くはないと思う。Sクラスのように悠然と構えるべきである。
REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
メルセデスAMG S63 4マティック+ロング
ボディスペック:全長5305 全幅1915 全高1500mm
ホイールベース:3165mm
トレッド:前1645 後1640mm
車両重量:2230kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
圧縮比:8.6
最高出力:450kW(612ps)/5500-6000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/2750-4500rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前4リンク 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前255/40R20 後285/35R20
燃料消費率(JC08モード):-
車両本体価格:2491万円
メルセデス・ベンツS560 4マティック ロング
ボディスペック:全長5255※1 全幅1900※1 全高1495mm
ホイールベース:3165mm
トレッド:前1625 後1635mm※2
車両重量:2220kg※3
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
圧縮比:10.5
最高出力:345kW(469ps)/5250-5500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2000-4000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前4リンク 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前後245/50R18※4
燃料消費率(JC08モード):9.0km/L
車両本体価格:1681万円
※1AMGライン装着車は全長5285mm全幅1915mm
※2AMGライン装着車はトレッド前1630 後1645mm
※3AMGライン装着車は2230kg、AMGライン+ショーファーパッケージ装着車は2260kg
※4AMGライン装着車は前245/45R19 後275/40R19
※GENROQ 2017年 11月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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