軽自動車の本質を追求してシンプルさを徹底
最初に車名を聞いた時には、てっきりアバルトなどでもグレード名で用いているイタリア語の「esseesse(=SS)」から来ているのだと思った。けれど2005年12月の発表当時に配布された広報資料に目を通すと、英語の「ESSENCE」(本質)が由来なのだという。「贅沢とは違う、さりげないこだわりでセンスの良い生き方を求めている人々が増加。毎日の暮らしの中に、さりげなく自分らしい豊かさを表現したい」(広報資料より)が時代の意識だとしたうえで、肩肘張らず、シンプルに、自分らしく生きる人たちへ(同)向けたクルマとして当時のダイハツが誕生させたのがこの「エッセ」だった。なお車名の4文字には、Eco、Simple & Smart、Easyの意味づけがなされていた。
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さりげなく通好みのルノー5をネタ元に(?)
発表当時にきっとそう思った人も少なからずいたはずだが、筆者も第一印象は「初代ルノー5っぽいじゃないか」と思った。とはいえこの……「じゃないか」の語尾のニュアンスは決して非難しようと語気を強めたのではなく、どちらかというと歓迎の意味に近かった。
つまりヨーロピアンミニ的なクルマというと、大抵はイギリスの「ミニ」を模範にするケースがほとんど。ところがエッセは、そうではなく「ルノー5」という日本では知る人ぞ知る車種をネタ元としてきたのだった(もちろんネタ元とは断定はできないが、台形のフォルムを見ていればそう思えた)。
そんな「通」っぽさが筆者にはササったし、もしも自分で乗るならドアパネル下部を適切な幅でグレーに塗り分けて(全幅に影響しないのであれば、自分で貼ることができる幅広のモールを見つけて貼ってそれらしくして)なんちゃってルノー5として楽しみながら乗ってみたい……そう思わせられたくらいだった。
乗りやすさと使いやすさはリッチな仕上がり
とにかくエッセの「さり気なくいいカタチ」は、数ある軽自動車の中でも傑出した出来だったと今でも思う。エッセが登場した2005年というと、メインストリームの「ミラ」は6代目(2002~2009年)が現役。このミラとエッセは、ホイールベースが共通の2390mmということからもプラットフォームは共通と理解できた。
ところがエッセが実用を疎かにしたクルマなのか? というと、決してそんなことはなかった。全高はミラが1500mm、エッセが1470mmながら、ミラに対してエッセはAピラーがより立ててあり、ボンネットもミラのような強いスラントをもっていないために車両感覚が掴みやすい。なので、ミラほどのアップライトな運転姿勢ではないものの自然な着座感覚に組み立られていたために、サッと乗り込めて楽な体勢で運転できるクルマに仕上げられていた。
およそ90度まで開くドアも乗降性の良さに貢献、やや傾斜の付けられたバックドアは相対的にヒンジがルーフ側の奥に位置するため、開閉の軌跡が手前にせり出す量が小さくなり、操作する人の邪魔になりにくいといったメリットもあった。
センターメーターのインパネもスッキリ使いやすい
インパネのデザインもじつにスッキリとしたもの。中央には見逃しようがないサイズのメーターが据えられ、あとはオーディオ(ラジオのプリセットボタンも大きめ)、3つのダイヤルを並べた空調スイッチなどがじつに判りやすく並ぶ。
左右方向にややウェーヴをかけたデザインは内装色が明るいベージュの場合、少し女子向けの雰囲気がなくはなかった。だが、大きな「単位」でデザインされたインパネは、チマチマとした溝やディテールがなく、見た目にもスッキリしていたし、ウエスで一気呵成に拭き取れば掃除も完了するなど、機能も踏まえたデザインでもあった。なおフロントドアのスピーカーグリルには、遊び心として8分音符があしらってあった。
ちなみに改めてカタログに目を通すと、シートの色はボディカラーに合わせて全7色の組み合わせとじつに豊富な用意があった。ボディカラーのバリエーションも全8色で、パステル調の人に優しい色使いだったのもエッセらしさを表現したものだった。
圧倒的なコスパと低燃費エンジンも自慢だった
ところでエッセはシンプルでサッパリとした持ち味が特徴だったが、発表当時(実際の発表展示会は2006年1月だったようだ)の価格設定は65~101万円(消費税抜)と、驚くほど手頃な商品に仕上げられていた。発表当時に試乗したクルマの筆者のメモを見ると、L・2WDの装着タイヤはHANKOOKと記してあり、ドアガラスは中国製といったメモも残っていた。
燃費26.0km/L(5速MT)の新開発KF-VE型ツインカムDVVT・3気筒12バルブ660ccエンジンは発表当時、軽ガソリン車トップレベルをうたっており、低排出ガス、低燃費、そして低価格を達成。実質的にもスマートなクルマになっていたところもポイントだった。
* * *
今や軽自動車は乗用車の全販売台数の4割を占め、さらにその半数以上はスーパーハイト系だという。たしかにスーパーハイト系は一度その便利さを味わうとなかなか手放せないのも本当のところかもしれない。だが、エッセのような、日常使いに気ままに乗りこなせる気の利いたセダンタイプの軽が今は少ないのは少々寂しいところ。だからチャーミングな外国製クラシックカーとこのエッセの2台持ちを今も実践中のAMW編集部Tさんのような生活スタイルは、筆者もいいなぁと思う。
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