N-BOX、スペーシアやルークスといった軽スーパーハイトワゴンの売れ行きが好調だ。売れている理由の一つに、乗降性の良さが挙げられる。スライドドアがあるので、狭い場所でも開閉性、乗降性に優れている。
そこで本稿では、乗降性の良し悪し、売れているクルマの共通点や、購入時のポイントなどを解説する。
これが新型アルトの実力! 日本車の進化の主役はアルトだった!!
文/渡辺陽一郎
写真/平野学、中里慎一郎、トヨタ、ホンダ、スズキ、ダイハツ、日産
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クルマの乗り降りが地味に重要だった??
スズキのスーパーハイトワゴン、スペーシアのスライドドアを開けた状態
クルマの乗り降りに要する時間は、乗車中に比べると大幅に短い。一瞬の出来事ともいえるが、実際に乗降性の悪いクルマを使うと、意外なほどストレスが溜まる。この背景には複数の理由がある。まず、クルマを日常的な買い物などに使うと、狭い駐車場で頻繁に乗り降りすることだ。
特にクーペのように長い横開きのドアは、隣に駐車する車両にドアをぶつけないように気を使いながら、体をよじるようにして乗り降りする。2/3ドアクーペのGT-Rやスープラなどは、ドアが長く、駐車場での開閉もしにくい。つまり乗降性が悪い。
逆にスライドドアは、駐車場で乗り降りしやすい。開いた時にドアパネルが外側へ張り出さないからだ。軽自動車やコンパクトカーは、横開きのドアでもドアパネルの長さが短いから、狭い場所での開閉性と乗降性が良い。
特にN-BOXやスペーシアのような軽自動車のスーパーハイトワゴンは、後席側はスライドドアで、前席側の横開きドアも長さが短い。軽自動車は全幅も1475mmと狭いため、乗降性は抜群に優れている。買い物などにも使いやすく、スーパーハイトワゴンが売れ行きを伸ばす大切な理由になっている。
乗り降りの決め手はシートの位置と床の高低差だった?
低い着座位置となっているGR86。スポーツ走行にも耐えられるよう、サイドサポートも大きめに張り出している
着座位置の低いクルマも乗り降りしにくい。乗降時の腰の上下移動量が大きいためだ。着座位置の低いクルマは、概してスポーツ指向が強く、サイドサポート(乗員を支えるために設けられたシートの端の盛り上がり)も大きめに張り出す。着座姿勢が乱れにくい代わりに、乗降時にはサイドサポートを乗り越える必要があるから、ますます乗り降りがしにくくなる。
この着座位置の低いクルマもクーペに多い。販売を終えたS660、新型になったGR86やBRZでは、着座位置の低さがスポーティで楽しい運転感覚を生み出す大切な要素になっているが、重大な欠点として乗降性の悪さも挙げられる。
サイドシル(乗降時にまたぐ敷居の部分)も、乗降性を悪化させる要素だ。特に今は側面衝突時の安全対策の影響もあり、サイドシルが床面から大きく持ち上がり、しかも幅が広い。乗降時にはこれをまたぐ必要が生じる。
サイドシルの張り出しは、メルセデスベンツやBMWといった欧州のプレミアムセダンが概して大きい。特に後席は着座位置が低めで腰を落とし、同時に大きなサイドシルをまたぐため、乗降性をさらに悪化させてしまう。
このように着座位置が低めだと乗り降りしにくいが、逆に極端に高い場合も乗降性が悪化する。悪路向けのSUVやミニバンには、床の位置が高い車種も多い。
SUVは悪路のデコボコを乗り越えるために、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)が高く、床も持ち上げている。特に後輪駆動をベースにした悪路向けSUVのランドクルーザーと同プラドは床が高い。車内に入る時には、高い床によじ登る感覚になってしまう。
逆にフォレスターは、最低地上高は220mmを確保するが、床は比較的低い。足を大きく持ち上げないで乗り降りできる。
床を高く保った設計となっているアルファード
ミニバンは3列目シートの床と座面の間隔を充分に確保して、車内の移動性も向上させるため、床を平らにする必要がある。そこで燃料タンクをカバーできる位置まで床を持ち上げるから、乗降性が悪化しやすい。
特にアルファードは、現行型になってプラットフォームを刷新したが、あえて床を高く保った。床と併せて全高も1900mm以上に設定して、外観を立派に見せるためだ。同時に着座位置も高く、周囲を見降ろせる乗車感覚を重視した。路面から床までの位置は450mmに達しており、セレナもプラットフォームの設計が古く、同様の寸法になる。デリカD:5も設計が古く、最低地上高にも余裕を持たせたから床が高い。
逆にオデッセイは床を平らに仕上げながら、床面地上高は350mmまで下げた。ヴォクシー&ノアやステップワゴンも400mmを下まわる。床が低ければ、乗降性だけでなく、低重心になるから走行安定性や乗り心地も向上する。天井が下がり、空気抵抗が減るから燃費でも有利だ。
つまり必要な室内高と最低地上高が確保されていれば、クルマの全高は低いほど良いのだが、販売面では逆になることも多い。アルファードは2021年1~11月の1か月平均登録台数が8200台に達するが、床を低く抑えてさまざまな機能を向上させたオデッセイは1800台だ。アルファードの約20%しか売れていない。ホンダは優れたオデッセイを開発して、トヨタは売れるアルファードを造った。
また少数派だが、ミニバンで後輪駆動を組み合わせたグランエースは、床面地上高が約550mmと大幅に高い。後輪駆動では駆動システムが室内側に張り出し、これを避けるように床を高めたからだ。同様の理由で商用車のハイエースやキャラバンも床が高い。
なお床の高いSUVやミニバンには、サイドステップ(乗降時に使う小さな階段)が装着されるが、子供や高齢者は踏みはずす心配もある。乗降時には、同乗者に寄り添ってケガをしないように注意したい。
デザインと乗降性を両立するクルマは販売が好調か
セダンでも乗降性に優れているクラウン
ドア開口部の形状も乗降性に影響する。前後のウィンドウやピラー(柱)が寝ていると、頭を下げて乗り降りせねばならない。先に挙げたクーペは、フロントウィンドウとピラーも寝ているので、乗降時に気を使う。後席は、天井を後ろに向けて下降させた車種の場合、乗降性が悪化する。
5ドアハッチバックのプリウスやアクアはこの典型で、後席に乗り降りする時は頭を下げねばならない。セダンでは、レクサスISの乗降性が悪い。全高が1450mm(2WD)と低く、前後席ともにウインドウとピラーを寝かせたからだ。後席のドアを備えたクーペと考えた方が良い。
そのいっぽうでセダンでも、後席を重視するセンチュリーの乗降性は抜群に優れている。クラウンは従来型に比べると少し悪化したが、それでもセダンでは乗り降りがしやすい。総じて売れ行きを優先させたデザインが乗降性を悪化させるが、クラウンなどは、乗り降りしやすくて販売も堅調だ。
それならばメーカーは、売れ行きを伸ばせるデザインと乗降性の両立を真剣に考えるべきだ。現行フィット以降のホンダ車は、遅ればせながら、乗降性に配慮するようになった。設計の新しいホンダ車は、全般的に乗り降りしやすい。
後席については、足元空間の広さも乗降性に影響を与える。足元空間が狭いと、乗降時に足を置く位置も決まってしまうので、乗り降りしやすい自由な姿勢を取りにくい。後席の狭いヤリスやマツダ2などは、後席の乗降性が悪い。
またこれらの車種は後席を重視していないので、足元空間が狭いだけでなく、ドアの開口部も下降している。乗降時に頭を下げる必要も生じるから、乗降性がさらに悪化する。
逆に同じコンパクトカーでも、前述のフィットやノートは、全高を立体駐車場を使いやすい高さに抑えながら乗り降りしやすい。背の高いスライドドアを備えたルーミーやソリオは、乗降性がさらに向上する。
クルマ購入時には乗降性も確認するとなお良し!!
以上のように乗降性は、前後のウィンドウやピラーの形状、足元空間の広さ、床の高さ、サイドシルの張り出し方、シートの着座位置とサイドサポートの形状など、さまざまな要素が影響を与える。
そしてドア開口部の上端が下がっていて、乗降時に頭を下げる車種は、乗り込んだ後の居住性も全般的に悪い。頭上の空間が乏しく、側方視界も悪いためだ。このような後席は、閉鎖感と圧迫感が伴うため、クルマ酔いも誘発しやすい。
つまり後席の乗降性は、その車種の後席に対する配慮を示すバロメーターになり得る。後席の乗り降りがしにくい車種は、概して後席の快適性も低いのだ。
さらに後席のサイドウィンドウが狭い閉鎖感の伴う車種は、ドライバーから見たときの後方視界も悪い。後方視界は安全を左右する大切な機能だから、購入時には、後席の乗降性や居住性と併せて縦列駐車なども試したい。視界や取りまわし性を確認しておく。
特に年配になると、乗降性の悪いクルマは、運転するのにも気が重い。逆に乗り降りしやすい車種は、ユーザーへの気配りや配慮を感じる。乗降性を確認すると、その車種を開発した人達の優しさも伝わってくる。
従って新車を購入するときには、乗降性も必ず確認していただきたい。販売店の展示車でも簡単に確かめられる。そのクルマの本質と開発者の気持ちに触れて、嬉しくなることもある。
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セダン・コンパクト・軽自動車などは分かりますが、2/3ドア車・スポーツタイプ・SUVを購入する人は、乗降性云々で「失敗した。」とは思わないのではないでしょうか?
そんなの分かった上での購入でしょう!