かつて国産車には多数のB級デザインカーと言われる「ちょいブサ」から「超ブサ」なクルマたちがいた。なくなってしまうと惜しくなるのが人間の性。今こそB級デザインの系譜を振り返り、ラブコールを送ろうではないか!
※本稿は2023年6月のものです
文/清水草一、小鮒康一、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2023年7月26日号
セドリックの魅力はちょいブサ!? 当時ウケが悪かったけど……今は愛おしいB級カーたち一気見
■セダンはB級デザインカーの宝庫!
日産 セドリック/グロリア(Y30 1983年)。1979年登場の430系(5代目)から直線基調だったが、6代目のY30系はさらにコテコテに四角くなった
B級デザインカーの王道はおっさんセダンだ! なぜって、20世紀の国産車は、おっさんセダンがスタンダードだったから! セダンユーザーは保守的で、斬新なデザインを好まなかった。自然、どれもこれもB級デザインに!
数が多すぎてどれを取り上げるべきか迷うが、ひとつのパターンが、1980年代の四角四面系である!
1970年代までのおっさんセダンはプレスの甘い、どよ~んとした曲線をまとっていたが、1980年代は直線だらけのカクカクデザインが大好評! クラウンとともに、セドリック/グロリアも四角四面の箱型になりました!
四角い=B級ってわけじゃないけれど、こいつらのカタチにはセンスがない! 海外でまれに見かけると、「日本はまだ発展途上国なのか?」と思うほどにB級だった。
ところが今、Y30セド/グロの写真を見ると、そのB級ぶりがめちゃカッコイイ! 昭和の家具調ブラウン管テレビみたいでシビれる~! もし実物に遭遇したら、コーフンのあまり失神しそう。
おっさんセダン界においては、昭和の家具調テレビ路線は非常に根強く、脱却を目指しては回帰を繰り返した。その典型がマツダの高級セダン、2代目センティアだ。
初代センティアは、B級デザインからの完全脱却を目指し、「広島ジャガー」と呼ばれるスタイリッシュなセダンにリボーンしたが、極度の販売不振にあえいだ。よって2代目は、おっさん路線に完全復帰! 無理に付けたようなおっさん風のフロントグリルがあまりにもダサく、その堕落ぶりに涙が出た。
1995年に登場した2代目クラウンマジェスタには、なぜかアメ車風のテールフィンがついていた。顔や体形は純然たる昭和セダンなのに、テールだけアメ車風! ナゼ? ソバ屋とファミレスが合体したようなものですか?
■5ナンバーサイズのちんまりしたボディに顔だけが洋風に
トヨタ プレミオ/アリオン(最終型 2016年)。2007年に登場し、2021年の消滅まで、14年間の長きにわたっておっさんセダンの伝統を守った。プレミオ後期型(写真)は、現在アジア圏で大人気、中古車が高騰中
21世紀に入ると、国産おっさんセダンの凋落が激しくなる。かといって、斬新なデザインにするとおっさんに受け入れられないため、おっさんセダンはおっさんのままジリ貧となった。
そんななか、究極の開き直りを見せたのが、2007年に登場したプレミオ/アリオン(最終モデル)だ。なかでもプレミオは、クラウンの下に長年鎮座したコロナ直系ということもあり、登場当初は、ゼロクラウン風のヘッドライトを持つミニクラウン的なルックスで登場。その時代錯誤感が、カーマニアの涙を誘った。
2016年のマイナーチェンジでは、ショボかったルックスが一新され、ゴージャス系に変身。メッキを多用した立派なフロントグリルは、クラウンというよりドイツ車的に。
でも体つきは相変わらず短足胴長の5ナンバーサイズで、その虚勢を張りまくった雰囲気は、昭和の家具調テレビの伝統を正しく受け継いでいた。消滅から2年を経た今、プレミオの中古車がアジア圏で大人気と聞き、目頭が熱くなる。
そして、国産おっさんセダンの掉尾を飾ったのが、ホンダ レジェンドだ。北米メインの国際商品なのにB級デザインという例は稀有! ある意味国宝である。
2015年の登場時のフロントグリルも、メッキの化け物のようで凄まじかったが、2018年のマイナーチェンジでお顔がカラス天狗に変身。時空を超えたB級デザインぶりは、他の追随を許さなかった。
その最終レジェンドも、ウルトラ販売不振によって2年前に消滅。おっさんセダンの絶対王者たるクラウンもクロスオーバー化した。
こうしてB級デザインのおっさんセダンは、この世から絶滅したのである。いま街で見かけたら、もれなく駆け寄って抱き付きたいでちゅ~っ!
【番外コラム】私がブサイクカーを愛するわけ
『西部警察』で爆発炎上車両の主役を張った330型セドリック。この影響で小鮒氏はブサイクカー愛好者に
筆者がクルマに興味を持つようになったのは、幼稚園時代に見た『西部警察』がキッカケだ。幼稚園児ゆえストーリーはまったく理解していなかったが、今でも語り継がれるほどのド派手なカーアクションが、幼少期の筆者の脳裏にこびりついたのである。
ただ、私の脳裏にこびりついたのは、スーパーZでもマシンRS軍団でもなく(これらももちろん印象的ではあったが)、その背後でドッカンドッカン横転爆発炎上を繰り広げる、型落ちのサエないセダンたちだったのだ。
当時、爆発の憂き目にあっていたのは230~330型のセドリック/グロリアで、タクシー上がりの低グレードがベースだったため、多くは丸目4灯のブサイクフェイス仕様だった。
しかしなぜか足元にはバチバチのエンケイアルミホイールが備わっており、そのアンバランスさも興奮に拍車をかけることとなったのは言うまでもない。
結局、幼少期の原体験というのは罪なもので、その後、無事運転免許を取得した筆者は、王道の車種よりも、スキマでニッチな車種を愛でるようになってしまった。
王道車が素晴らしいことは百も承知だが、ブサイクな脇役車にも愛嬌があり、長く接していると不思議と愛着が湧くもの。ということで先日ずんぐりむっくりカーのプジョー207SWを新たな愛車に迎え入れたばかりなのだ。
(TEXT/小鮒康一)
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マジェスタにテールフィンなんか付いてたか?