新車発表の際に、魅力や性能をアピールするキャッチコピーが作られることは多い。しかし、実はそのクルマを販売するメーカーにもキャッチコピーはあるのだ。クルマ単体と会社そのものをプロモートするためのコピーはどう違うのか? 今回は古今東西の自動車メーカーが作った自社のコピーから、特にキャッチーな作品をピックアップしてみた!
文/長谷川 敦、写真/スズキ、スバル、ダイハツ、トヨタ、日産、BMW、ポルシェ、ホンダ、マツダ、三菱自動車、ランボルギーニ
感動大作か言い過ぎか!? 秀逸すぎる自動車メーカーのキャッチコピー
“ブーブー”から“ドライバーでありたい”に ―マツダ―
「Zoom-Zoom」のキャッチコピーとともに登場したのがマツダの初代アテンザ。スポーティな出で立ちのアテンザは、遊び心も刺激してくれる“ブーブー”だった
かつてはロータリーエンジンを世界で唯一実用量産化させた先駆者として、そして現在ではスカイアクティブシリーズに象徴される先進技術を開拓するチャレンジャーとして、他メーカーにはない個性を放っているのがマツダ。
そんなマツダのキャッチコピーだった「Zoom-Zoom(ズームズーム)」を覚えている人も多いだろう。
マツダが2000年代の初期に採用したキャッチコピーがこの「Zoom-Zoom」。元来は英語で「ブーブー」を意味するもので、英語圏の子どもはクルマのことをズームズームと呼んでいる。
子どもの時に感じた動くことへの感動を大人になっても持ち続けていたいという狙いで採用されたこの「Zoom-Zoom」は、英語圏に限らず世界の人々にとっても耳に心地良い響きがあった。つまり、自動車メーカーのキャッチコピーでは成功したものだと言える。
10年以上続いたZoom-Zoomは、2010年代初期に登場した「Be a Driver.」にメインコピーの座を譲っている。こちらの「Be a Driver.」は「ドライバーでありたい」「ドライバーであれ」などと訳すことができ、メーカーである自分たちもユーザーと一緒になって運転好きなドライバーでありたいという願いが込められているという。
登場からもうすぐ10年が経過するBe a Driver.は、現在でもマツダのメインコピーであり、ユーザーにも浸透してはいるが、やはりインパクトの大きさにおいてはZoom-Zoomに一歩譲る感はある。
技術力への自信を表すコピーの魅力 ―日産―
矢沢永吉氏のセリフとともに有名になった「やっちゃえ日産」のフレーズ。2021年2月にはこのフレーズを使ったCMが日テレCM大賞2020を受賞している
以前は「技術の日産」とも言われていた日産だが、このフレーズは、1960年代に日産が吸収合併したプリンス自動車が「技術のプリンス」を標榜していたことに端を発する。そのまま社名を変えたのが「技術の日産」だが、これはメーカー自らがイメージ戦略として掲げたキャッチコピーとは少々異なる。
そんな日産の最近のキャッチコピーが「やっちゃえNISSAN」と「ぶっちぎれ 技術の日産」だ。2015年に採用された「やっちゃえNISSAN」は、CMキャラクターを務めた矢沢栄吉氏のセリフでも注目を集めた。2020年からはCMキャラクターが木村拓也氏に変わっているが、「やっちゃえNISSAN」は継続して使われている。
ただし汎用性の高いフレーズだけあって、2018年に当時同社会長だったカルロス・ゴーンが逮捕された騒動の際には「やっちまった日産」などと揶揄されてしまったことも……。
「ぶっちぎれ 技術の日産」は2017年に登場したキャッチコピーで、この時期にデビューしたEV(電気自動車)のリーフ新型に合わせたものだ。技術力の強調からよりインパクトのあるイメージ重視のキャッチフレーズへと変化した裏には、日産のプロモーション戦略とともに時代の空気が変わってきたことも考えられる。
(編集部注/これはCI(コーポレートアイデンティティ)コピーではなくクルマ単体のコピーですが、1990年のセレナの広告キャンペーンで使われた「モノより思い出」というフレーズは、30年経ってもまったく色褪せず、むしろ現在まで続く自動車メーカーの商品へのあり方の基盤(「カー」だけでなく「カーライフ」を作って売る、という思想)を支えている秀逸なものだと思います)
夢の力をクルマにのせて ―ホンダ―
近年はN-BOXの大ヒットなどで注目されているホンダ。「The Power of Dreams」は創立者・本田宗一郎氏の著書に由来するフレーズで2001年から採用
ホンダが2001年から使用しているキャッチコピーが「The Power of Dreams」。直訳すれば「夢の力」だが、これはホンダ創立者である本田宗一郎氏の著書『本田宗一郎 私の履歴書 夢を力に』が出版されたことがきっかけだという。
「The Power of Dreams」は現在でもホンダ車のTV CMなどに使用され、定着しているコピーだが、2010~2012年の「負けるもんか。」も話題になった。新たな技術に挑戦し、たとえ失敗してもくじけない企業の姿勢をうたった「負けるもんか。」は、リーマンショックや災害などで沈みがちな人々の心に訴えかける何かがあった。
「負けるもんか。」に続いて登場したのが「面白いから、やる。」だ。生活や社会に関することではなく、まずは自分の好奇心を優先して物事に取り組む意志を強調する「面白いから」に触発された人も多いはず。
日本最大のメーカーは英語好き? ―トヨタ―
トヨタは2018年の新型カローラハッチバック発表の際に、かつて使用していた「Fun to Drive」のフレーズを用いて、ドライブする楽しさの再発見を提唱した
「いつかはクラウン」という印象的なキャッチコピーで知られるトヨタだが、これはクラウンという車種のコピーであり、企業コピーとは別。そこでトヨタが掲げたキャッチコピーを見てみよう。
比較的最近のものでは「Drive Your Dreams」や「FUN TO DRIVE, AGAIN」、そして「Start Your Impossible」など。どれも簡易な英語であり、日本人でも理解しやすい。ただし、英語圏の国や英語の理解度が深い国でこれらのキャッチコピーは使用されておらず、各国で別のコピーが用意された。
トヨタが日本国内で採用した日本語キャッチコピーの最後が「クルマが未来になっていく」で、これは1998年に登場。つまり今世紀に入ってからは英語のコピーのみが採用されている。さすがは“世界のトヨタ”といったところか?
カッコ良さなら東西髄一? ―BMW―
「駆けぬける歓び」は日本語のコピーとしても秀逸。原語版の「Freude am Fahren」も韻を踏んでいて、長期に渡ってBMWの代表的コピーになった
ドイツのBMWが掲げていたキャッチコピーが「Freude am Fahren(フロイデ アム ファーレン)」。ドイツ企業のBMWらしくこのコピーもドイツ語だが、まずは英語に訳してみると「Driving Pleasure」となり、日本語では「運転する楽しさ」といったところ。
キャッチコピーとしての「Freude am Fahren」が登場したのは1965年。原語となるドイツ語では韻を踏んだ表現であり、響きの良さからも長年使われることになった。
そして注目したいのが、国内では「Freude am Fahren」を「駆けぬける歓び」と訳したこと。「運転」や「操縦」、あるいは英語の「ドライビング」ではなく、あえて「駆けぬける」としたことにセンスが感じられる。
その「Freude am Fahren」に変わるキャッチコピーは2007年に発表された「EfficientDynamics(エフェシエント ダイナミクス)」で、これは「効率的な力学」とでも訳せるもの。本国でも英語を採用したことにグローバル化の波を感じる。
このほかBMWには「The Ultimate Driving Machine(究極のドライビングマシン)」というキャッチコピーもあった。
その他のメーカーはどんなキャッチコピーを採用している?
軽自動車に代表される小さなクルマを得意とするスズキのキャッチコピーは「小さなクルマ、大きな未来」。どんなメーカーなのかをイメージしやすい良コピーだ
最後は各メーカーの注目キャッチコピーを一気に見ていくことにしよう。
●「小さなクルマ、大きな未来」 ―スズキ―
軽自動車を主力にするスズキのキャッチコピーは、わかりやすさならトップクラス。シンプルなことにも好感が持てる。
●「Light You up」 ―ダイハツ―
「光」と「軽やかさ」のダブルミーニングでもある「Light」を使うことで、世界中の人々が「自分らしく軽やかに輝くモビリティライフ」を送れるようにとの願いが込められている。
●「Drive your Ambition」 ―三菱自動車―
「志を動かす」とでも訳せるこのキャッチコピーは、クルマ社会の変革期を迎えるにあたり、三菱自動車が進む道を示すメッセージでもある。
●「Confidence in Motion」 ―スバル―
スバルが2010年に掲げたキャッチコピー(ブランドステートメント)がこの「Confidence in Motion」。「革新を続けつつ、ユーザーに安心と愉しさを約束する」という意味なのだが、正直、少々わかりにくい感は否めない。
●「There is no substitute」 ―ポルシェ―
「ほかに代わるものがない」はポルシェのキャッチコピー。高性能かつ個性的なクルマを世に送り続けるポルシェの強烈なプライドを表している。
●「We are not supercars, we are Lamborghini」 ―ランボルギーニ―
「我々はスーパーカーではない、我々はランボルギーニなのだ」。このフレーズにもポルシェ同様にランボルギーニのプライドの高さがうかがえる。
今回は国内外自動車メーカーのキャッチコピーをチェックしてみたが、日本メーカーの英語率の高さと、海外メーカーの自社製品に対する誇りに注目したい。特に日本のメーカーが、母国語よりも英語のキャッチコピーのほうが多いのは、日本人の横文字好きを反映していて興味深い。
また、日本のメーカーがどちらかというとユーザーに寄り添う内容のキャッチコピーが多いのに対して、海外ではとにかく自分(自社)を前面に押し出していることに東西のプロモーションに関する考えの違いが見て取れる。
今後も各メーカーからはさまざまなキャッチコピーが登場するはずだが、キャッチコピーには企業のポリシーだけでなく時代の空気が色濃く反映されるため、コピーを見れば、現在がどんな時代なのかがわかるだろう。
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