少し場違いな雰囲気を漂わせるFシリーズ
2024年の英国で、フォードFシリーズは少し場違いな雰囲気を漂わせる。アメリカ中部のトウモロコシ畑が、良く似合うだろう。深夜の道を走っていると、UFOの強烈な光で運転手が呆気に取られるような、B級映画のワンシーンも浮かんでくる。
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今回のクルマは、約36万台が生産された1950年式の1台で、ステップサイドの0.5t仕様。インターネットの普及で、グレートブリテン島へ並行輸入されるクラシックな商用車は、増える傾向にあるようだ。
20年ほど前にアメリカでレストアを受けており、宣伝に使う目的でロンドンへ運ばれてきた。2008年にその役目を終え、現在のオーナーが引き取っている。
垂直に立ち上がったシンプルなフロントグリルと、その横に並ぶ丸いヘッドライトが、1950年式の特長。ボルボPV444にも雰囲気が似ている。テールゲートには、筆記体でFordと誇らしげに刻まれている。
後期型では、太い水平のバーに3本の「歯」が付いた、フロントグリルに変更された。こちらの方が、見覚えのある方は多いだろう。
乾燥した地域で生まれ、乗られてきたためか、ボディパネルは工場出荷時のまま。派手なカスタムを好む、ホッドロッド・ファンのベース車両になることが多く、オリジナル状態を保っている例は珍しい。スチールホイールが、4本のボルトで固定されている。
トルクフルで洗練されたフラットヘッドV8
ボディのクロームメッキは最小限。フロントバンパーは、前方から突き出たシャシーレールへ固定された、フラットなスチール板だ。荷台にも、殆ど傷は見られない。建設業者や農家、スクラップ業者によって、道具として扱われてきたような形跡はない。
ボンネット横に切られた、左側のエアアウトレットへ隠れたラッチを解除すると、大きなシェルが持ち上がる。ラジエターは巨大。フラットヘッドのフォード・ユニットは、発熱が大きい。シリンダーヘッドとエグゾースト系の熱伝導が大きいためだ。
圧縮比は6.8:1で、最高出力は101ps/3800rpm。排気量は239cu.in(約3920cc)あり、トルクフルで洗練されたユニットといえる。クランクシャフトを支えるメインベアリングは3枚で、ブロックは鋳造。製造コストを抑えるよう、設計されている。
このユニットのベースは、1932年に提供が始まった8RT。ヘンリー・フォード氏が存命の間に生み出された注目すべき技術として、最後の1つに当たる。しかし、Fシリーズの量産ラインの完成を目にすることは叶わなかった。
大きなエンジンルームの低い位置に収まり、小さなキャブレターと巨大なエアクリーナー・ボックスが積み重なっている。ボルトが並ぶバルブカバーは、フラットヘッドの特徴の1つ。キャブレターの直後で、機械式の燃料ポンプが回る。
驚くほど鋭いアクセルレスポンス
インテリアは、ボディより使い込まれた感が漂う。とはいえ、スプリングが仕込まれたシンプルなベンチシートのビニールレザーは、当時物のようだ。
ダッシュボードには、時速100マイル(約161km/h)まで振られたスピードメーター。フォントが可愛い。その隣に燃料と油圧、水温、電圧の補助メーターが整列している。
ドア側のパネルは、ボディと同じ色で塗られたスチール製。足元には、丸いクラッチペダルとブレーキペダルが、フロアから突き出ている。天井の内張りは、黒く塗られたボール紙。燃料タンクは、キャビンのすぐ後ろに載っている。
着座位置はかなり高めで、背中は起き気味。ランドローバー・レンジローバーのそれに遠からず。全高も高く、サイドウインドウの下端は、ポルシェ911のルーフラインと殆ど同じだろう。前方を見ると、カブトムシの背中のようなボンネットが広がる。
フラットヘッド・ユニットは、クリーミーに回る。特徴的なサウンドを放ち、アクセルレスポンスは驚くほど鋭い。当時の英国製トラックを軽く凌駕する、活発な直線加速を披露する。
最高速度はギア比の都合で128km/h程度だが、見た目を裏切るほど勢いが良い。スポーツカーのドライバーも、信号ダッシュで驚かせられるかもしれない。
戦後のアメリカの国民車
コラムシフトの3速で、シフトレバーはソリッド感が薄いものの扱いやすい。テキパキとシフトアップし、V8エンジンの太いトルクを活用する走り方が向いている。
ステアリングはローレシオで軽く回せるが、正確性は著しく低い。ドライバーは漠然とした向きを決めるだけで、F-1が自らラインを決めているような感覚がある。ブレーキは、70年前のクルマとして想像を超えない効きだ。
英国の戦後の国民車がモーリス・ミニ・マイナーで、ドイツがフォルクスワーゲン・ビートルだとすれば、アメリカではフォードFシリーズだったといってもいい。当時の人々の、移動に対する欲求へ見事に応えていた。
Fシリーズは、北米市場の嗜好を生み出した先駆者にある。強力に成長するアメリカを、進化しながら静かに支えてきたクルマだ。テールフィンやマッスルカーの流行と、フルサイズの衰退を目撃しながら、2024年にも本来の存在価値を守り続けている。
2023年に、現行のFシリーズは70万台が売れたらしい。多くのアメリカ人の暮らしに不可欠な、クルマだといっても良いだろう。ノーFシリーズ、ノーライフなのだ。
協力:ザ・クラシック・モーター・ハブ社
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