エンジンルームを美しく見せることを目的に採用されるようになったエンジンカバー。そのきっかけや進化の方向性を考察してみた。
メンテナンスフリー化が大きな転換点となった
ボンネットフードを開けると、キレイなエンジンカバーが付けられているモデルがある。このカバーにもエンブレムが付けられてデコレーションされているクルマもあれば、メーカーによってはパイプのような膨らみなどデザインとして取り入れ、気筒数を示していることもある。
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こうした豪華なエンジンカバーが装着されているのは、ほとんどがプレミアムモデルだ。とくに輸入車のデザインは凝っていて美しさを感じられるが、エンジンそのものや補機類を直接見られない点でちょっと残念にも思う。
カバーが装着され始めたのは1990年代からだ。世界的な排出ガス規制の強化もあって燃料の供給装置は電子制御式のインジェクションタイプになり、軽自動車や一部のコンパクトカー以外はキャブレターを使わなくなった。これ以前の1980年代に入ると「白金プラグ」が登場する。従来のスパークプラグは走行2万km前後での交換を推奨されていたが、一気に10万km無交換になった。
インジェクション化と白金(プラチナ)プラグの登場によってエンジンメンテナンスの頻度が格段に少なくなり、エンジンカバーを装着しても整備性に問題がなくなった。このような条件がそろってプレミアムモデルからエンジンルームを豪華に美しく見せる流れが生まれた。それは同時にエンジンオイル交換以外のメンテナンスフリーの象徴にもなった。
また、このカバーに機能性を持たせているものもあり、それがノイズの低減である。ガソリンエンジンはもちろんだが、ディーゼルエンジンにも高い静粛性が求められるようになり、BMWではエンジン音を音響解析してボンネットフードの裏側の遮音材を立体加工する研究が行われてきた。1990年代後半からディーゼルエンジンにコモンレールを採用されるようになると、インジェクターの作動音が気になるようになり、カバーはエンジンの遮音を高める目的でも使われるようになった。
プレミアムモデルでのカバー採用が進むと、この流れはコンパクトカーにも波及するものの一時的な流行に終わった。現在、コンパクトカーなどはカバーを装着しないモデルが増えた。これは製造コスト低減と同時にさらにメンテナンスフリー化が進んだ結果でもある。様々な部品の交換サイクルが長くなるとボンネットフードを自分で開ける人も少なくなり、カバーの必要性は小さくなってきた。最近登場したヤリスはハイブリッドでもカバーはなく、エンジンがよく見える。フィットも同様でカバーはないが、エアクリーナーボックスをエンジン上に配置して、そこに「EARTH DREAMS」と記されたプレートを付けてカバー風に見せている。
このようにエンジンルームのデザインにも流行があるが、最近のプレミアムモデルの流行はカプセル化だ。エンジン下のアンダーカバーは空力性能を高めるために従来から付けられてきたが、最近は遮音性を高めるためエンジンルームの気密性を高める工夫がなされている。バルクヘッド上あたりから両側にかけてゴムシールが付けられていて、ボンネットフードの遮音材と密着するようにして音がキャビン方向に漏れないようにしている。カプセル化にはそれなりのコストがかかることを考えると、コンパクトカーには採用されないだろう。そもそも、コンパクトカーにはそこまで高い静粛性が要求されていない。
エンジンカバーは静粛性を高める機能性を持っているが、ボルボのそれはちょっと変わっている。見た目はブラックの普通のカバーだが触ると柔らかいのだ。スポンジ状の樹脂によってエンジンなどノイズを吸収して車内や車外騒音の低減を実現している。全車電動化を推進するボルボは、48Vマイルドハイブリッドシステムを採用する最新のXC60 B5から、さらに厚みを増したカバーを採用した。
主な目的はノイズ対策だが、安全性にも配慮されたものである。歩行者との衝突時にボンネットが跳ね上がるポップアップフードで衝撃を吸収しきれなくても、エンジンルーム内の高い位置に配置されたスポンジ状のカバーがクッション材になるという。安全を優先するボルボらしい対策だ。(文:丸山 誠)
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