2023年10月25日の初日(プレスデー)を終え、いよいよ一般公開(10月28日~11月5日)を控える「ジャパンモビリティショー2023」。東京モーターショーから名前を変えて「第1回」となる今回のショーについて、日本自動車工業会の豊田章男会長が、意義や見所を解説してくれた。ショー会場で開かれた質疑応答を整理してお届けします。章男節(モリゾウ節)全開の会見で、文字起こししたら7000字を軽く超えました! 心してお読みください!! だんだん面白くなって、「あれ? よく考えるとこれ、メディアが怒られてませんか?」というあたりが最大の山場です!!!!
文、画像/ベストカーWeb編集部
豊田章男会長「物語を受け取ってほしい」ジャパンモビリティショー開幕!! いざ東京ビッグサイトへ!!
【ジャパンモビリティショー2023公式サイト】
■「ゴール」だったイベントが「スタート」に
記者/日本では、2019年から4年ぶりのオートショー開催となりました。本日会場を回って、この4年間を経た「変化」をどのように感じたでしょうか?
豊田章男自工会会長(以下、豊田会長)/はい、名称が「東京」から「ジャパン」に変わり、「モーター」から「モビリティ」に変わったわけですが、名前だけではないな、中身も変わってきたな、という印象を受けました。
たとえば(前回の)2019年の時は、トヨタブースでは1台もクルマを出さなかったわけですが(編集部注/市販車や市販前提車の出品がなかった)、今回は社長も代わって(苦笑)、ちゃんと(トヨタブースにも)車両が出ていたりして、やっぱり「モーターショー」の香りがするところから、「じゃあクルマのスペックがブースの魅力の中心か」というと、どちらかといえば「クルマを使った生活体験はどう変わるのか」というような表現になっていて、ああ、テーマが変わったなと思います。
記者/なるほどなるほど。
東京ビッグサイトで開催されているジャパンモビリティショー2023の西展示棟1Fで開催中の「Tokyo Future Tour」。豊田章男会長も「ぜひ最初はここへ」と太鼓判。巨大スクリーンから始まる体験型のコンテンツです
豊田会長/ぜひご注目いただきたいのですが、(西展示棟1Fで開催されている)自工会の「Tokyo Future Tour」で、ゴジラがやってきて(街をめちゃくちゃに壊して)近未来の災害と救助を体験できるところがあります。あそこでOEMの仲間たちと、いわゆる電気系の企業さんだとかベンチャー系の皆さんだとか、いろんな人が集まって、災害復興や人命救助の場面が体験できます。そういうのを見ていると、ああ、わたしが目指していた「ジャパンモビリティショー」に一歩近づいているのかな、と思いました。
「みんな」でやっていく、結果、みんな「ありがとう」と言い合って、みんなで笑顔になる、そういうところに、ものづくり企業の協力体制のいいところが凝縮されているんだろうなと思います。
記者/そのすぐ横にはスタートアップ企業が集まる「Startup Future Factory」もありました。
豊田会長/あそこ、いいですよねえ。あのブースには「商談ルーム」があって、企業同士でビジネスの話ができるんです。これまでの「モーターショー」は、クルマを作って展示してお客さんに見てもらって、(出展社にとっては)ある意味「ゴール」でした。それが、もしこの会場で誰かと誰かが結び付いて新しいビジネスが生まれれば「スタート」になるわけで、そういう「場」になっていることを感じました。
記者/豊田会長は以前から「(どこか1社ではなく)みんなでやろう」「この指とまれ」と、このイベントに協力してくれる企業を募っていました。それもあって今回、出展社が前回の2倍以上の約500社が集まりました。このことについてどう思われますか。
豊田会長/開催日数だとか場所だとか、いろいろ条件があると思いますけれども、ここ日本では毎日たくさんイベントがあって、そのなかで「100万人集めましょう」というのってモーターショーだけなんですね。「これは最近すごく流行っているなあ」と思っているイベントでも20万人くらいと、そういうレベルです。それが「モーター」から「モビリティ」になったことで、約500社に集まっていただきました。本当にありがたい。
やっぱりこれは「自動車業界」という、非常に波及効果が高い、えー、産業が固まっている総合産業であるがゆえに、多くの、さまざまな人が集まってくれたんだと思います。
これは先日の(経団連)モビリティ委員会でもコンセンサスが得られたのですが、皆さん「我々(自動車関連メーカー)だけで未来を作るのは無理です、限界を感じました」という話に同意してくれました。だからこそ、こうして多くの方々と協力することによって、なにか未来を作れるのではないか、という話に「勇気」をいただきました。これも「モーター」から「モビリティ」へ変えたことの効果だと思います。
トヨタブースを始めとした自動車メーカーの多くは東展示棟に出展。「もうすぐ発売されそう」というクルマがたくさん出展されています
■コツコツ真面目にやっていれば報われる社会を
記者/今回多くの出展車両が「電気自動車(BEV)」でした。それも遠い将来の乗り物、というより、条件が整えば市販できるようなコンセプトカーが多かったように感じます。この電動化をめぐる状況の変化についてはどうお考えでしょうか?
豊田会長/「やっと現実を見ていただけたんだな」というふうに思っています。わたくしは常々「マルチパスウェイが大事なんだ」と言ってきましたが、とはいえ「マルチパスウェイだけが正解で、BEVの一本足打法は不正解だ」ということを言いたいわけではありません。ただやっぱり実際に使う方、ユーザーがいろいろな選択を持って、それぞれの国や地方の道路事情やエネルギー事情に合わせて、「カーボンニュートラルへの道、山の登り方はいろいろあるよね、現実はこうですよね」ということを言い続けてまいりました。そういう現実の話が、やっと少しずつ理解されつつあるなと思っています。
(たとえばBEVに関して)「理想論」で規制を作られたら、一番困るのは一般ユーザーです。そしてやっぱり、一般ユーザーが喜ぶ現実を、誰かが伝えなきゃいけない。「BEVだけがたったひとつの選択肢だ」といわれていた時代に、(「マルチパスウェイが必要だ」というような)ああいうことを言っていたのはなかなかつらい思いをいたしました。ですけど、今は、前回のG7(広島サミット/2023年5月開催)でも、非常に現実的な意見を、日本政府に言っていただきました。 それに共感した国も多かったと思います。
ですから、そういう意味で、皆さまがた、メディアの皆さんには、ぜひとも「誰に情報を伝えるか」ということを考えていただきたい。やっぱりサイレントマジョリティ、コツコツ、コツコツ、真面目に生活しておられる人たちが、真面目にやっていれば報われるというモビリティ社会を作っていく、えー、そんな日本自動車工業会でもありますので、ぜひとも応援していただきたいと思っております。
記者/「モーター」から「モビリティ」に変わった、と聞いて、「もしかしてクルマはあまり出ないんじゃないか」と思って会場に来たら、実際にはわくわくするようなコンセプトカー、市販前提車がたくさん出ています。この点について、クルマ好きで知られる豊田会長はどうお感じになりましたか。
豊田会長/それは「モリゾウ」に聞いてますか? それとも「豊田章男自工会会長」ですか?
記者/では「モリゾウ」で。
豊田会長/今日ここではちょっと言いづらいなぁ(苦笑)。
記者/で、では豊田会長で。
豊田会長/はい、今回は(前回出展しなかったメルセデスベンツやBYDなど)海外からもご出展いただき、また、海外から記者さんやお客さんもたくさん来ていただけると思います。そうして来られる大半の方は、「どんなクルマでわくわくさせてくれるんだろう?」と思っていると思うんですよ。それで「モビリティに変わった」と言っても、そういう(クルマ好きの)方々の期待も裏切らない内容になっていて、本当に、出展社の皆さんには感謝申し上げております。
ただ、ひとつだけ言わせてもらうと、皆さん「電動化」と「知能化」ばかりで、それがちょっとどうなんだろうなと思います。どこもかしこも同じことを言っていたら面白くないでしょう。やっぱりそこに個性が出てほしかったなというのは思いますね。
記者/うちのサイトで(初日の段階で)一番人気はマツダのロータリーエンジンを搭載したコンセプトカー(「アイコニックSP」)でした。「そういうクルマをもっと」ということですよね。
当サイトでも多くのアクセスが集中した、マツダのサプライズカー「アイコニックSP」。2ローターエンジンを搭載してバッテリーを充電し、動力はモーター。ガルウイングでリトラクタブルライトの流麗な2ドアクーペという、「クルマ好きへ向けた全部盛り」
豊田会長/そうそう。スバルさんも水平対向エンジン車を出してほしかった(笑)。
記者/飛行機が出てましたよ。
豊田会長/ああそうか、飛行機がありましたね!
■税金は高い、ただ「払いたくない」と言いたいわけではない
記者/自動運転車もたくさん出展されていました。そのことについてはどうでしょう。
豊田会長/はい。自動運転は、すこし前まで「それを言わないと相手にされない」というような雰囲気でしたよね。「もうすぐ、2年くらい先には、100年前に馬車が自動車へ変わったように、全部自動運転車へ変わるんだよ」というようなことが平然と言われていた。それが今回くらいで、「ここからここまでなら(自動+無人で)行けますよ」というように、つまり非常に現実的になったと感じています。
そもそも自動運転については、「無人で走るクルマを作る」という技術力の競争も大事です。それはつまり、人間では限界がある「安全な交通流を作ること」、そして、同じく人間では限界がある、「トレーニングを積んだ上級レベルの運転でしか実現できなかった大量の輸送が(自動運転で)可能になる」ということだと思います。
そういう(必要な技術進化段階での)「実験」が、すこしずつ「実装」に近づいてきた、最近は「それ」ができた国もでてきたな、ということです。
たとえばアメリカなどの一部都市では、こういう「実装」がすでにすごく進んでいます。
で、日本の場合は、各メーカー「自動運転車を作ってくれ」と要求するだけでなく、道路インフラだとかルール(道交法)の定義、それから「自動運転を広める目的はこうだよね」というところを、今まさに、もう少し声を上げる段階に来たんじゃないのかなと思うのです。
記者会見ではメディア側にもきっちり「こういうことをやってほしい」と突きつける豊田会長。和やかな会見で勉強にもなり、記事としてバリューも高いが、こういう話を聞くたび襟を正します
記者/メーカーだけでなく、政府や自治体に対して「自動運転を積極的に推進してください」と言っていく、ということですね。
豊田会長/はい。たとえばアメリカではすでに無人タクシーが何百台単位で動き始めていて、それを可能にするルールができています。そうすると、そこでは日々データが蓄積され、日々技術が磨かれていて、あっという間に新しい自動運転技術が日本を含む全世界へ押し寄せる可能性があります。
そしてそれを日本メーカーたちがどう受け止めるか、という話になる。ただそれをきちんと受け止めるためには、日本メーカーの頑張りだけでは難しいんじゃないかと思うのです。
そこで、本日お集まりいただいた皆さんのような、メディア各社にお願いしたいのは、そういった(交通)ルール、そしてインフラの整備と、相まってやっていく必要がある、という点をご理解いただきたい、ということです。
近年、自工会ではさんざん、日本の自動車関係所税が非常に高いよ、ということを言ってきました。それは「高いから払いたくない」と言っているわけではなく、そのお金がどう使われているのか、ちゃんと未来へつながるような、たとえば自動運転へつながるインフラ整備やルールの組み立てに使われるような、有効な使い方をしてください、と言っています。そういう中長期的な「軸」を持った論議を、メディアの皆さんにもお願いしたいと思うわけです。
■「もう2時間、伸ばしてもらえないか」
記者/先ほど豊田会長は、「このイベントがゴールからスタートになった」と仰いました。これは、今回のイベントで得られた「組み合わせ」の知見を、次回、次々回に生かしていく、どんどん変えてゆく、という意味だと受け取ってよいでしょうか?
豊田会長/それは今回に限らずもちろんです。こんなことを言ったら問題になるかもしれませんが、今回は「2年に1回」でしたけれども(2019年→2021年はコロナ禍でスキップ→2023年開催)、たとえば「ここでこんな新しい物語が生まれました」というのであれば、よりアジャイルに(機敏に)進めようということで、「毎年やろう」という声が出てきたとしても、それは成功のひとつではないかなと思います。
記者/これは読者の方からも要望があったんですが、「開催時間を2時間伸ばしてほしい(現在は平日、土曜祝日は19時まで、日曜日は18時まで)」、「そうすれば仕事終わりに行けるのに」という声があります。それはいかがでしょうか。
豊田会長/そうですよねえ…これでも今回はちょっと伸ばしたんですけども……。
(質問を引き取って)自工会モーターショー委員会長田准委員長/これはですね、開催時間を延ばすと、そのぶんの(各ブースおよび会場運営スタッフの)労働時間の確保が難しい…という問題がありまして…。とはいえ、仰ることもそのとおりだと思いますし、いままさに内部で議論しているところです。ぜひ前向きに検討いたしますので、もう少々お待ちいただければと思います。次回にはぜひ、はい。
豊田会長/いいんじゃない。次はおれ(自工会の)会長じゃないし。
記者/いやもっと続けてくださいよ。
■「最初に自工会ブースへ行って、後工程を決めてほしい」
記者/豊田会長は以前、「スポーツカーのBEVは好きじゃない」「運転していて物足りない」と仰っていました。いま現時点でスポーティBEVの可能性について、どのように感じていますか。
豊田会長/はい、5年ほど前のBEVについては、確かにそう(「スポーティBEVはつまらない」と)思っていました。それが近年では変わってきました。やっぱりそれは、長年の「クルマ屋」としての経験が反映されているんだろうなと思います。ガソリンであれハイブリッドであれ、クルマ屋の「走る、曲がる、停まる」という分野での、経験と失敗があったからこそ、バッテリー屋さんと組んで、BEVのスポーツモデルが結構な数、出てきたんだと思います。
記者/本日ここにたくさん記者が来ていて、この話を帰ってすぐ記事にすると思うですが、ええと、いよいよジャパンモビリティショーが一般公開されます、もちろんたくさんのお客さんに来てほしいと思うんですが、豊田会長は特にどんなお客さんに来てほしいとお考えですか? また、これは自工会会長としては言いづらいかもしれませんが、お薦めのブース……というか、来てくれたお客さんに、まずどこのブースから見てほしいでしょうか?
豊田会長/これ、聴いたらそのまま記事にしようとしてますね?(笑)
記者/それは、しますよ(笑)。
豊田会長/えー、それでは…、「どういう方に来てほしいか」というよりは、ここに来てくださった方がみんな、クルマ好き、バイク好き、モビリティっていいなぁ…というような後味を持って帰っていただきたい、と思っています。ですからたとえば、ここに来る前は「おれクルマには別に興味ないよ」っていう方も、「なんか友達に連れられてここに来てみた、クルマ、クルマかぁ、って思っていたけど、モビリティって考えると面白いね」というような感想を持ってもらえることが大事なんじゃないのかと思っています。
それと「まずどこのブースに」という話であれば、やはりまず自工会のブース、『Tokyo Future Tour』です。あそこはまず大画面で物語、ストーリーを体験するんですが、その映像で「未来」を感じてもらいたい。そこにはさまざまな未来の姿がありますが、よく見るとところどころに今回出展している企業の製品や、目指す姿が登場します。なので、あの映像のどの部分に注目したか、どの部分にワクワクしたか、で、今回のイベント全体の「後工程」を決めていただければと思います。
Tokyo Future Tourの「Life」には、さまざまなモビリティとパフォーマンスが体験できる。ぜひ楽しんでもらいたい!
それと、今回コロナ禍も終わって、いろんなブースでステージパフォーマンス系の演出が増えてきました。そういうショーも楽しんでいただきたい。こういう「業界のイベント」だとどうしても商品が中心になりますが、ぜひとも演者さんの演技だとか、込められたメッセージなどを感じていただければと思います。たとえば20分のショーのなかで、ひとつのストーリーがありますから、そのストーリーを感じていただければ、ご自身の新たな扉が開くと思いますので。
(ここで再びマイクを取って)長田委員長/いま会長が紹介した『Tokyo Future Tour』の「Life」という区画では、たくさんの演者さんがパフォーマンスしてくれています。ここはちょっと今回チャレンジだったんですが、義足のモデルの方にもご出演をお願いしています。そういうところも、ダイバーシティであるとか、そういうメッセージが込められておりまして、多様性もモビリティの未来のひとつだと感じていただければと思います。
記者/今回、豊田会長はある意味「東京モーターショーをぶち壊す」、「モデルチェンジさせる」というような思いで作り替えたと思うんですが、ただその結果、「よりモーターショー的な成分が濃くなった」というようにも思えます。そこらへんはどうお考えですか?
豊田会長/それは…わたしがやっぱりクルマ好きだからでしょう(苦笑)。古い人間なんだと思います。それを踏まえて、やっぱり理屈を超えた突き抜けた部分、「クルマが好きだ」というような気持ちを出して何かをやっていると、「ああ、それなら一緒にやろうか」と言ってくれる方も出てきて、共感が生まれると思うんです。そういう「好きなことを、好きな人がやっている」ということが、日本を元気にさせたり、それを世界へ発信するということも大事なんだと思います。
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