その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第14回は内外装の刷新とともにプラグイン・ハイブリッド(PHEV)モデルを追加した三菱のスタイリッシュなSUV「エクリプスクロス」です。PHEVの追加だけではなく、全長の延長も同時に行うという文字通りのビッグマイナーチェンジの狙いについて三菱自動車商品戦略本部チーフプロダクトスペシャリスト(CPS)の上原 実さんとチーフプロダクトスペシャリストチームの山 慶之さんのお二人に話を伺いました。
“走りの進化とデザインの深化”がテーマ島崎:お時間をとっていただき、どうもありがとうございます。きょうはヨソにはまだお話しされていないこともどしどし伺えれば幸いです。どうぞよろしくお願いします。
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上原CPS、山さん:よろしくお願いします。
島崎:まず僕から、エクリプスPHEVに試乗した印象をお伝えしますと、非常に爽やかな走りのクルマだなあと感じました。PHEVだとか、SUVだとか、そういう範疇を超えて気持ちよく走らせていられますね。ステアリングを切っていくと、クルマが適度にシャープに反応してくれて、ステアリングへ返ってくるフィードバックもしっかりある。そのあたりの“頃合い”がいいですね。
上原CPS:ありがとうございます。こちらで訊きたかったことはすべてお伺いできてしまった感じです(笑)。今回のビッグマイナーチェンジの狙いは、かっこいい言葉は置いておき、我々は“走りの進化とデザインの深化”をテーマにやってきました。もともとエクリプスクロスはクーペっぽいスタイリッシュなSUVをコンセプトに発売し、スタイリングを含め思ったとおりのいい反響をいただきました。そこで今回はいろいろな声をいただきながら、スタイルは従来の方向をキープしながら、より成熟した感じに深めました。
島崎:成熟、ですか。
上原CPS:はい、シットリと。とくにリアについては「なぜここまで変えてしまったのですか?」の声もいただいたのですが、特徴的だったダブルガラスは止めて、その代わりに全長を伸ばして使い勝手をよくしながら、全体的に優雅で大人っぽいスタイリングに成熟させました。
スタイル、使い勝手、PHEV搭載の3つをクリアするための全長の延長全長を140mm延長し、リアラゲッジスペースを拡大した新型。ワイパーもウインドウ下部に設置された。
分割ウインドウが個性的な旧型のバックドア。ワイパーもルーフスポイラー格納式だった(写真:三菱自動車)
島崎:PHEVのユニットを収めてトランクスペースも確保したというお話は資料にもありましたが、全長を長くしながら、特徴的だったあのバックドアは変えない……とは考えなかったのですか?
上原CPS:どれのためにというより、すべてが“動機”でした。トータルで商品力を上げようとした時に、全長を140mm伸ばしたあの形が最適解だと考えています。
島崎:全長を140mm伸ばすのは、おおごとですよね。それでもおやりになった?
上原CPS:はい。スタイル、使い勝手、PHEV搭載の3つをクリアするには、自ずとこうなりました。なかでも荷室は長手方向を伸ばしたかったというのはありました。
島崎:そうなんですか。
上原CPS:テールゲートを開けて荷室を見ていただく時に、たいがいリアシートが一番後ろにスライドさせてあり、見た目の広さ感で損をしていた。そこで今回は長手方向の改良をしました。
固定されたリアシート、下げても使えるヘッドレスト、下から拭き取るリアワイパー島崎:お話のついでに伺うと、200mmのスライドがあった従来型のリアシートに対して、新型はどの位置で固定されているのですか?
上原CPS:だいたい、後ろ寄りの真ん中あたりです。一番後ろではありません。
山さん:旧型の一番後ろに下げたところから20mm前のところで固定しています。荷室容量と後席の足元空間のバランスを見てベストポジションかな、と思っています。
島崎:シートバックの9ノッチのリクライニングは残されていますね。
山さん:新型でもそれは踏襲しました。
島崎:とはいえシート形状は新旧で違いますね。従来はヘッドレストが格納状態でシートバックに埋め込まれていましたが、新型ではそれより高い位置に収まっています。後方視界で考えると従来型のほうがよかったのではと思いましたが。
山さん:従来型の収納ポジションはヘッドレストとしての機能を果たしていませんでした。けれど上に引き上げると、今度は収納していた場所の窪みが、お子様や小柄な方にとって不都合がありました。それを新型では下げた状態も使用ポジションとなるよう構造を変更し対応しました。
島崎:一方で新型の新しいバックドアは、パーティションがなくなり、視界がスッキリと自然になりましたよね。
山さん:ワイパーも後方視界の確保をより重視し、今回は下から拭き取るようにし、ドライバーが一番見たいところがしっかり拭き取れるようにしました。
島崎:デザイン的にもこだわっていた、従来のルーフスポイラー格納式はかっこよかったですよね。
山さん:ええ、かっこよかったのですが、雪国からスノーブレード対応の要望がありまして、それに対応しました。
ボディサイズ拡大はマイナーチェンジの計画を立てる時にこちらはマイナーチェンジ前のフロント
島崎:デザインの話に戻りますが、新型のデザインの“深化”は、より幅広い年齢のユーザーを取り込もうという狙いですか?
上原CPS:もともと作り手の方からお客様は限定しないのですが、ラインアップ的にご家族向けのアウトランダーがあり、エクリプスクロスはエンプティネスター(巣立ち世代)や若い方と、棲み分けは意識しています。今回はダイナミッククーペではありながら、より洗練された落ち着いた感じにし、狙いとしている方々に受け入れられやすくしました。
島崎:デザインは変わっても、サラッと違和感なく見える印象ですよね。
上原CPS:あの、島崎さん的にはもっと幅広い人に受けるためのデザインと思われたのですか?
島崎:いや、何というか個性的だったのは従来型ですが、よりソツなくスマートなのは新型かなと思います。ところで今回のオーバーハングの延長などは、当初から想定があったことですか? それともなかったことでしたか?
上原CPS:えーと、PHEVを載せることやこのタイミングでビッグマイナーチェンジをするといったことは計画でありましたが、細かなスペックまでは決まっていませんでした。
島崎:なるほど。ここまでの大改良は想定にはなかったと?
上原CPS:そこまで詳細なレイアウト検討は初期の開発では見ていなかった……と言うのが適切かと。もともとアウトランダーのプラットフォームを流用していることもあり、PHEVは載せられるということで計画はありました。ただそれがボディサイズをどれくらい変える必要があるのかといったことは、マイナーチェンジの計画を立てる時に考えたものでした。
島崎:そうだったんですか。
PHEVは、いきなりハッチバックやエボというわけではなく上原CPS:PHEVはわれわれ三菱自動車にとって、あらゆる戦略上、重要なパワーユニットです。なのでアウトランダーに続いて少しでも早く世の中に出して、もっとPHEVの良さを知っていただきたかった。最初に島崎さんに“PHEVとかSUVとかの範疇を超えて街中で普通に乗っても走りがさわやかだ”と言っていただき、まさに我々の思い描いたとおりで非常に嬉しかったのですが、三菱はSUVを中心にやっているメーカーなので、いきなりハッチバックというわけではなく、いわゆるSUVとはちょっと違う、街中で楽しく乗っていただけるPHEVをこのエクリプスクロスで実現したかったんです。
島崎:はい? ハッチバック? エボリューション? としますと、もう違うカタチの第3弾、第4弾のPHEVが控えているということですか?
上原CPS:いやいや……(笑)。
ヘッドライトが下に来るのは全体のデザイン戦略の流れ島崎:とはいえ改めてエクリプスクロスというクルマはボディサイズが適切ですし、Aピラーの付け根の位置もいいですし、街中でも運転しやすいなぁと再確認しました。フードの高さ、形状は変わっているのですか?
山さん:フード自体はフロントオーバーハングを伸ばしたことから作り変えていますが、高さなどはとくに変わっていません。
島崎:フロントマスクはヘッドランプとデイタイムライトの位置関係が上下で入れ替わりましたが、あれはどういう意味からですか?
上原CPS:我々は“ダイナミックシールド”をデザインコンセプトにやっていますが、1台1台、世の中に出すたびに進化させたいと考えています。ヘッドライトが下に来るのは全体のデザイン戦略の流れとご理解いただければ……。
島崎:流れ……新型アウトランダーも同様のようですしね。ただ、たとえば従来型のオーナーの方や三菱車マニアの方なら道ですれ違って、あっ新型だ!とわかるでしょうが、それ以外の人にとっては変化の度合いが控えめというか、上品にというか、遠慮がちというか、そういう気もしますけれど。
上原CPS:そういう意味ではダイナミックシールドのモチーフそのものは、そんなに突然変わるものではないので。でも我々は今回のビッグマイナーチェンジで凄く変わった!と思っていますが、ブランド全体で見ていただくと、一貫性があって少しずつ進化していることがおわかりいただけると思います。
三菱はSUVで培ってきたヘリテージを忘れたくない島崎:新しいカタログを拝見しますと、表紙をめくった最初の見開きに“4WDと、EV。二つの歴史が交わり、さらなる未来へ。”のコピーがドーンと目に飛び込んできますが、これは三菱ならではの打ち出しですね。このコピーは広告代理店の人が勝手に打ったものではないですよね?
上原CPS:三菱のモノづくりのファウンデーションだと思います。エクリプスクロスは当初から、新しく出てきたジャンルのスタイリッシュなSUVです。他社では乗用車にかなり近づけてしまった例もあり、最低地上高は気にしないとかSUV“風”にしていたりする。しかし三菱はSUVで培ってきたヘリテージを忘れたくない。たとえクーペSUVでも4WDシステムはしっかりとしたものにし、制御も他のSUVからそのまま入れてみる。SUVの機能性をもたせた上でスタイリッシュにしている。どんなクルマを作っても、三菱のSUVは四駆、ジープ、パジェロ、ラリーといったところから繋がっています。そういうメッセージをカタログのあのページに込めています。
“4輪制御技術”は悪路走破性のためだけでなく……島崎:なるほど。ところで4WDシステムのS-AWCですが、PHEVはガソリン車とは制御に違いはあるのですか?
山さん:走行モードに“TARMACモード”を専用に設定しました。乾燥舗装路上で最大限の性能を発揮するようにしたスポーツモードのような存在で、エンジンを最初からかけていていつでも最大パワーが出せるようにしていたりとか、アクセルを戻した時の回生ブレーキも“B5”でよく効くようにとデフォルトで設定しています。PHEVならではのキビキビした走りを体現した、特別に起こしたモードとしてつけています。そのほかのモードは、あらゆる路面、状況でクルマの姿勢が破綻しないよう安定させていく方向のチューニングで、考え方はこれまでと変わりません。ただ開発の専門家は「内燃機関に較べ電動パワートレインのほうが、アクセルを踏んで応答が返ってくるまでの速度が5倍くらい速く、より緻密な制御が可能」と言います。その意味では電動パワートレイン+S-AWCは、4輪制御がより理想に近づけられ、やりたいことがすべてできていると言っております。
島崎:よりSUVらしいSUVの資質、スペックを備えているということですね。
上原CPS:“4輪制御技術”と言いますが、悪路の走破性だけでなく、思ったままに走れる。そうした性能が電動車だとむしろ出しやすいということですね。
島崎:SUVだけに使っているのはもったいないですね。僕は腕が足りませんが、世の中のランエボ・ファンとか喜びそうなお話でしょうか?
上原CPS:まったくおっしゃるとおりで個人的にはたくさんやってみたいことがありまして……。
広報:あの次の予定もありますので、そろそろということで……。
島崎:あ、どこかで聞いたフレーズですね。では、どちらかでまた、このお話の続きをお聞かせいただけることを楽しみにしております。どうもありがとうございました。
(特記以外の写真:島崎七生人)
※記事の内容は2021年3月時点の情報で制作しています。
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