中国市場を意識した3代目トゥアレグ
text:Simon Davis(サイモン・デイビス)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
フォルクスワーゲン・トゥアレグは、目立ち過ぎないことを好む人にとって、丁度いい選択肢となっていた。
アウディQ7やBMW X5、メルセデス・ベンツGLEなどと並んでも、ブランドのイメージ的に、大金を大型SUVに投じたという見られ方がされにくい。社会的な成功者にとっての、羊の皮をかぶったクルマ、といったところだろうか。
3代目になったトゥアレグは、その性格付けをわずかに変更してきた。フォルクスワーゲンの人気は中国市場でこれまでにないほど高く、今では同社にとって最大の市場となっている。
2018年の北京モーターショーでは、フォルクスワーゲンは数台のサルーンを発表しているだけでなく、一部は中国市場に特化して設計されているほど。クルマを成功させたいなら、最も数多く売れる市場の人々に向けて作るべき。理にかなった方針だ。
これは、トゥアレグがフロントマスクにクロームメッキを多用していることにも影響している。少し鈍感な人であっても、十分に気付く変化だといって良い。
そうとはいえ、百花繚乱のような大型・高級SUV市場の中にあって、トゥアレグはまだ目立ちにくい側にいることは間違いない。最新のBMW X5やメルセデス・ベンツGLEなどと比べれば。
今回登場したエントリー・トリムグレードのSEは、その最たるモデル。英国での価格は4万5445ポンド(649万円)で売りに出されている。
質素さは増しても広々と機能的な車内
見た目は、トゥアレグの中で最も飾り気がない。フロントノーズの左右に伸びるクロームのグリルバーはそのままだが、バンパーの下部やサイドスカートは黒い樹脂。
高価なトリムグレードのトゥアレグほどの華やかさはない。控え目なルックスにまとまっているが、派手さを好まないフォルクスワーゲンのイメージに沿っていると思う。
インテリアは従来どおり広々としていて機能的。前席も後席も広く、荷室空間は810Lもあり、家族に嬉しい余裕がある。同時に、ハイエンドのRライン・テックでも驚きが多くはなかったインテリア素材やテクノロジー面は、更にトーンダウンされた印象。
シートにはレザーのかわりにクロスが張られ、カラーも地味なモノクロ。イノビジョン・コクピットは採用されず、15インチのインフォテインメント・システム用タッチモニターと、12インチのメーター用モニターは、9.2インチのタッチモニターとアナログのメーターに置き換わっている。
それでもアナログメーターは読みやすく鮮明。小さくなったインフォテインメント用モニターも、運転中の操作はしやすい。洗練されたグラフィックにも不満は持たないだろう。
今回の試乗車には、オプションの21インチホイールと2チャンバーのエアサスペンションが装備されていたが、SEの場合は19インチが標準。サスペンションは前後ともにダブルウイッシュボーン式だが、オプションを選ばなければ、通常のダンパーにスチール製コイルとなる。
体格のいいゴルフのように走る
このトゥアレグは比較的乗り心地が硬め。30km/hから50km/h程度では、ボディロールも大きめだし、少し落ち着きがなく感じられる。だが速度域が上がれば、ゆったりと走り始め、ずっと安楽度が増す。
標準サイズのサイドウォールの大きいタイヤなら、路面の凹凸やわだちもしっかり処理してくれるだろう。アウディQ7やボルボXC90など、エアスプリングを採用したモデルには及ばないけれど。価格差を考えれば、当然ではある。
高速道路での走りはとても快適で上質。気になる点といえば、ドアミラー周辺から発生する風切り音が、車内にわずかに響く程度。ロードノイズも車内に届き、路面の変化などが音で聞き分けられるが、長距離クルーザーとしての優れた実力を台無しにするほどではない。
郊外のカーブの続く道を、ハイペースで走らせるという考えを実行できなくはないが、実際に適しているわけでもない。軽くない車重を持つが、姿勢制御は熟考されている。
ステアリングを操れば、コーナーへ正確にクルマを進めていける。しっかりした操縦性は常に安定志向。挙動の予想も十分にできる感覚を伝えてくれる。
コーナリングスピードは高く、グリップ力も良好。実際に走らせてみると、とても体格のいいゴルフのようにすら感じられる。トゥアレグの美点だ。
搭載するエンジンはV型6気筒ディーゼルターボで、最高出力は231ps。実際の環境では不足のないパワー感があり、中回転域の十分なトルクを活かすことで、必要なだけの加速をちゃんと得られる。更にパワフルな286psのエンジンを選ぶ必要性はほぼ感じないだろう。
VWのイメージに良く合致するSE
ダイレクト感の薄いスロットル反応と、冴えない変速マナーを持つ8速ATには、改善を求めたいところ。特に追い越し時などでアクセルペダルを踏み込むと、少しの待ち時間の後に多めにシフトダウンをする場面がある。そのため、要求以上の急加速をしてしまう。
これは、従来から見られたフォルクスワーゲンの悪癖のようなもの。WLTPに適合された、アウディやセアトなどのモデルの方が、マナーは優れている。
ローエンドのトリムグレードといっても、4万5445ポンド(649万円)という英国価格は決して安くはない。ボルボXC90のベーシックグレードより8000ポンド(114万円)ほど安く、アウディQ7より1万1000ポンド(157万円)ほど安価でも、ライバルはエアサスペンションを含めて、標準装備が充実している。
だが、SEという控え目なグレードは、充分な訴求力を持っている。フォルクスワーゲンは、英国全体のトゥアレグのうち、10%程度がSEグレードになると予測している。だがフォルクスワーゲンのブランドイメージに良く合致するSEは、もう少し高い支持を得るのではないだろうか。
フォルクスワーゲン・トゥアレグ 3.0 V6 TDI 4モーション SEのスペック
価格:4万5445ポンド(649万円)
全長:4878mm
全幅:1984mm
全高:1702mm
最高速度:217km/h
0-96km/h加速:7.5秒
燃費:12.2km/L(WLTP複合)
CO2排出量:214g/km(WLTP複合)
乾燥重量:2070kg
パワートレイン:V型6気筒2967ccターボチャージャー
使用燃料:軽油
最高出力:231ps/3250-4750rpm
最大トルク:50.7kg-m/1750-3000rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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