モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が最新型『トヨタGRヤリス』を深掘り。“ドライバーファースト”の意志を貫いた開発陣たちの想いと、GRヤリスを極限まで追い込み開発サイドにフィードバックをもたらしたプロドライバー、大嶋和也選手との開発エピソードを交えながら、最新GRヤリスの改良点に迫る。
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【東京オートサロン2024開幕】トヨタ/GRが最新GRヤリスを世界初披露。レース向け&プロドライバーと共に開発
TOYOTA GAZOO Racing(TGR)は2024年1月12日、『東京オートサロン2024』で進化した『GRヤリス』を発表した。最初にGRヤリスを発表したのは東京オートサロン2020だったので(発売は9月)、4年が経過したことになる。進化型GRヤリスの発売は2024年春頃が予定されている。
通常、モータースポーツ用の車両は量産車をベースに仕立てるが、GRヤリスは逆で、「モータースポーツ用の車両を市販化する」コンセプトで開発された。発表後すぐ、GRヤリスはスーパー耐久選手権や全日本ラリー選手権に投入された。
その活動は現在も継続され、「ドライバーファーストのクルマづくり」が続いている。プロドライバーや評価ドライバー、マスタードライバー・モリゾウ(豊田章男・トヨタ自動車会長)らからフィードバックを得て、ボディや内外装の改善活動が進行中だ。2024年1月の時点における進化した形が、今回発表された進化型GRヤリスである。
東京オートサロン2024での発表を前に、サーキット(袖ケ浦フォレストレースウェイ)とダートコースで試乗の機会が得られた。
会場にはテストに用いられた試験車が2台置いてあり、うち1台には丸数字を書いたテープがあちこちに貼ってあった。聞けば、現行型から進化型への変化点だという。残念ながら時間の関係ですべての説明を聞くことはできなかったので(誠に心残りである)、変更点がいくつあったのか特定できていないが、30はゆうに超えていた。いくつか紹介しよう。
GRヤリスを極限まで追い込んで開発サイドにフィードバックをもたらしているプロドライバーのひとりは、大嶋和也選手だ。2024年シーズンは前年に引き続き、SUPER GT、全日本スーパーフォーミュラ選手権、スーパー耐久シリーズへの参戦が決まっている。
その大嶋選手は運転席側ドアに設置されているパワーウインドウのスイッチを「斜めに落とすことはできないか」と提案した。
開発陣の様子を探るように提案したのは、発売のタイミングを考えるとスケジュール的にも、開発コストを含む開発の負荷的にも厳しいことを承知していたからである。「ここ、変わらないですよねぇ~」と、探るように聞いてきたそうだ。
“ドライバーファースト”の合言葉にうそ偽りはなく、開発陣は大嶋選手の提案を受け入れ、パワーウインドウスイッチの取り付け角度を変えた。現行型は水平に配置されていたが、進化型ヤリスでは設置面が手前に傾いている。4点式シートベルトでシートにガッチリ体を拘束した状態でも操作しやすいようにするためだ。会場で新旧を試してみたが、確かに、進化型のほうが操作しやすく、ストレスがない。
開発陣はこのパワーウインドウスイッチを大嶋選手への感謝の気持ちを込めて“大嶋スイッチ”と呼んでいる。
発端は、助手席も含め着座位置を25mm下げたことにある。着座位置が変わることで、パワーウインドウスイッチとの位置関係が変わる。角度が同じでいいはずはない。そこに、プロドライバーの目線で気づいたということだ。
筆者も該当するのだが、現行型はヘルメットを被って乗車するとヘルメットが天井に干渉して窮屈な思いをする。同様のコンプレインは市場からも届いていたようで、進化型は車体に手を入れ、着座位置を下げることにした(シート形状に変更はない)。
着座位置を下げると車体に対する乗員の位置が変わるので、前面衝突、側面衝突、後面衝突などの各衝突試験をやり直さなければならない。つまり大仕事で、コストもかかる。でも、TGRはそれをやった。
ドライバーファーストの意志を貫くためだ。もっといいクルマにするためである。ストレスなく運転できるようになれば、クルマのポテンシャルをより効果的に引き出すことができるようになり、パフォーマンスが上がる。
その観点で、コックピットは大きく変更した。高い位置にあるディスプレイは乗用車としては利便性の高さにつながるけれども、サーキットを走ったり、ダートを走ったりするときは必ずしもそうではない。
そこで、ディスプレイを収めるセンタークラスター上端の位置を50mm下げた。合わせてルームミラーの取り付け位置を後退させることで、前方視界を改善している。
コックピットについてはスーパー耐久シリーズへの参戦を通じて使いやすく、操作しやすいように改良を加えており、その成果が進化型に反映されている。センタークラスターが15度ドライバー側に傾いているのは、ハーネスを締めた状態でスイッチ類の操作ができるようにするためだ。左肩を中心に半径720mm以内にスイッチ類が収まるように設計されている。
エクステリアのデザイン変更にもプロドライバーの意見が反映されている。リヤはバンパー下部にあったバックランプがリヤウインドウ下のガーニッシュに移動した。これは、ラリー競技などで石はねなどによって破損する事例を受けた対応だ。また、リヤスポイラーに内蔵していたハイマウントストップランプもガーニッシュに移動した。リヤスポイラーを交換してカスタマイズするユーザーの利便性を考えての変更である。
それだけでもなかなか大規模な変更だが、ここでもまた大嶋選手が提案した。「テールランプ、つないだらどうなるの?」と。
この発言の裏には、夜間走行中のGRヤリスはベース車と区別がつかないというオーナーならではの悩み(不満?)があった。「もうちょっと存在感出せないか」と。大嶋選手のこの発言を受ける形で、進化型GRヤリスのテールランプは横一文字になった。これならベース車とはっきり差別化できる。
開発陣はこれを“大嶋テール”と呼んでいる。横一文字テールランプ好きの筆者としては、提案した大嶋選手に拍手を送りたい気分だ。
ほんの少しだけエピソードを紹介したが、進化型GRヤリスには、ひとつひとつの変更点に「もっといいクルマにしたい」という、開発に携わる人たちの熱い想いが詰まっている。
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