車の最新技術 [2023.03.17 UP]
水素カローラの火災の顛末?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●トヨタ
新型プリウス VS 7大ライバル《アクア/ノートオーラ/クラウン/シビック etc.》
3月18日・19日、つまり今週末、鈴鹿サーキットで開催される「ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 Powered by Hankook第1戦 SUZUKA S耐 5時間レース」に参戦を予定していた「#32 ORC ROOKIE GR Corolla H2 Concept」(水素エンジンカローラ)の欠場が発表された。
3月8日に富士スピードウェイで行われた専有テスト走行で、発生した車両火災が原因だ。エンジンルーム内の一部焼損の修復が間に合わなかったからだ。レースには、代わりに「ORC ROOKIE GR Yaris」(ガソリン)が出走する。
ニュースとしてはそれだけの話なのだが、トヨタ側はこの件の取り扱いにだいぶ気を使っている。昨今少し落ち着いてきたとは言え、水素といえば連想ゲームでヒンデンブルグ号を思い出し、爆発リスクを懸念する報道が出かねない。
水素社会の実現に向けて動いてきたトヨタから見れば、欧州も中国も、従来方針で諸問題に突き当たり、バッテリー一択から水素を含むマルチパスウェイへと方針を転換し始めたこの大事な時に、風評被害が燃え広がることだけは避けたい。
そもそも気体水素の、路上における車載燃料としてのリスクそのものは理論上ガソリンやバッテリーより低い。原則論で言えば、水素とガソリンは、酸素と隔離されている限り燃えない。どちらもタンクや配管の破損がなければ火災に至らないのだが、バッテリーだけは火災の要因が内部完結している。内部で金属結晶が析出すればショートして燃えてしまうし、この析出は外部から確認することが難しい。
水素とガソリンの比較においては単純にガソリンの方がエネルギー密度(重量あたり熱量)が高い。後述するが拡散性の差で水素の方が若干有利である。ただし、その優劣を持ち出して、際立ってどれが危険という意図はない。むしろ、水素も含め、どれが特別危険というものでもないという話をしているだけだ。
そもそもそれぞれ違う物性を持つので、リスクは条件次第だ。例えば水素は、閉鎖空間で漏れ、濃度が4%以上、温度が550度を超えると爆発や燃焼リスクがある。通常開けた場所で使うクルマの場合は水素はあらゆる元素の中で最も軽いため、空中に素早く拡散し、そう簡単には濃度的な燃焼条件を満たさない。少なくとも路上では、水素が漏れても発火には至りにくい。そのためリスクは低いと言えるが、例えば地下駐車場の様な閉鎖空間でのリークがあると、これはもちろん濃度問題が発生して危険である。
リスクの話で、むしろ心配なのは、700気圧という高圧タンクの存在で、中身の気体がたとえ不燃性の窒素や二酸化炭素であったとしても、他にほぼ例を見ないほどの高圧気体はあまり人の近くに置きたいものではない。一般に高圧タンクは、何らかの原因で亀裂が生じた際、そこに応力が集中して、切り欠き部を起点に素材が一気に裂け、高圧が瞬時に解放され、爆発に至る。
トヨタはカーボンケブラー繊維を使って、極端に切り欠き感度が鈍感なタンクを生産してこれに備えている。銃で撃たれてタンクに穴が空いても、その穴を起点に素材が裂けない。こういう特性を「切り欠き感度」という指標で表現する。切り欠き感度が鈍感なら、空いた穴から水素が噴き出すだけで、素材が裂けて爆発しないことになっている。のだが、頭ではわかってもやはり、そこまでの高圧タンクはちょっと怖い。
さて、少し脱線した。トヨタの発表によれば、鈴鹿では従来の高圧タンクを使った気体水素から、超低温タンクを使った液体水素に燃料が切り替わる予定だった。狙いはワンストップあたりの航続距離向上であり、車両の速さが同等なら、より高い順位を狙えることになる。当然、液体化に伴う変更部分を原因とする火災を疑う人はでてくるだろうが、それが原因ではない。
従来と同じ仕様のエンジン近辺の水素配管が緩んで水素が漏れ、閉鎖空間であるエンジンルームで、引火濃度に達し、エキゾーストマニフォールドを熱源として発火、運悪くブレーキのリザーバータンクを溶かし、アルコール系のブレーキフルードに延焼、これがエンジンルームの配線などを焼き、修復に時間がかかるほどに被害を広げたのである。
ちなみにこれまで水素を動力源とする移動体は実質的にほとんどないので、水素配管系の部品は本来定置用に設計されたものしか存在しない。これまでの実績であるMIRAIは燃料電池車で、ほぼ無振動、タイヤ駆動力の反力を受けるのはモーターの仕事なので、水素配管が繋がるFCスタックはほぼ動かない。対して水素内燃機関の場合、タイヤの反力を受け止めたエンジンが、アクセルのオンオフでそもそも盛大に揺り動かされる。しかもプロドライバーによるサーキットレベルの操作が前提だ。その動くエンジンに水素を供給するための配管は、フレキシビリティで全ての動きを許容しなくてはならない。これが漏れが起きた主要因である。
トヨタでは水素のリークを検出後0.1秒で水素を遮断するフェイルセーフ回路が正常に働いたとするが、それならばエンジンルーム内で燃焼条件に達する水素濃度4%に至るとは思えない。なので3月1日にGRカンパニーの新プレジデントに就任した高橋智也氏にそこを質問すると、軽い水素の検知のために配管の上部にセンサーを配置していたが、今回下側からリークし、極めて運悪く、エンジンルームで唯一発火条件温度を満たす熱源であるエキゾーストマニフォールド付近で発火したということだ。
つまり今回は下側からのリークによっては気体の軽さという基本要件から考えうる物理特性とは違う状況が発生しうるという知見を得たことになる。フェイルセーフ回路が働いたというのは、火災がタンクまで逆流して大惨事に至る様なことを防いだと言う意味だろう。なお、高橋氏は、万が一水素が漏れてもエキゾースト周辺に回らない様に隔壁を設ける対策を行うとコメントしている。
さて、トータルでこれをどう見るかだが、トヨタにとって、レースは最も厳しい開発現場のひとつであり、いろいろな開発を行ってテストし、問題を洗い出していく場である。テストで問題が発覚して、それに対策を行うという極々当たり前のルーティンであり、日常的風景である。どう考えてもスキャンダル的に扱う意味はないと思う。
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みんなのコメント
現に水素ステーションは大爆発事故を起こしてるし車載タンクの耐久性も疑問視されてる
当然車載用も高圧が掛けられるし大事故にならなかったことは不幸中の幸い
日本のトヨタ包囲網はマスコミからこう言った能書き伯父さんまで抱え込んでるから手に負えないねw