マイナーチェンジを受けたアウディのフラグシップ「A8」に、最高級ヴァージョンの「ホルヒ」が設定された。かつて存在したホルヒ・ブランドとは? 武田公実が解説する。
ホルヒの歴史
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今年11月2日、ドイツのアウディ本社から、同社のリムジーネ(セダン)のトップレンジである「A8」のマイナーチェンジを伝えるプレスリリースが、全世界に向けて配信された。
その進化の内容は、フロントマスクおよびリアエンドのデザイン変更、あるいはインフォテインメントシステムの刷新などにとどまったが、注目すべきは、中国マーケット限定ながら、伝統のネーミングを冠した最上級バージョン「ホルヒ」が設定されたことであった。
中国マーケット専用モデルの「A8 L Horch(ホルヒ)」がそれだ。まずはこの「ホルヒ」というサブネームの由来について説明したい。
ホルヒは、ダイムラーと合併する以前の「ベンツ」社で工場長を務めたのちに独立したエンジニア、アウグスト・ホルヒが19世紀末に設立した。同社は1901年から自動車生産を開始する。創成期のホルヒから生み出された自動車は、アルミ合金製エンジンの採用など、当時としては先進的なテクノロジーを投入するいっぽうで、品質の高さを身上としていたという。
ところが、着々と成長する会社の運営方針をめぐってホルヒは重役たちと衝突し、自ら創業し、自身の名を冠した会社と決別することを決意する。新たに起こした新会社は、当初は創業者の姓と工場のある地名から「ホルヒ・ツヴィカウ」を名乗ったものの、古巣のホルヒ社から社名の使用権についての裁判を起こされてしまった結果、翌1910年には社名を「アウディ」へと変更せざるを得なくなった。
いっぽう創業者ホルヒが去ったのちのホルヒ社であるが、そのテクノロジー至上主義は以前と変わらず、第1次世界大戦後には高級車メーカーとして一定の成功を収めることになる。当時のドイツではまだ珍しかった直列8気筒エンジンを搭載する「303」を1926年に発売したのち、1930年にはV型12気筒エンジン搭載の「670」も発表。さらに1930年代中盤以降は、新たにV型8気筒エンジンを搭載する高級プレステージカー「830/930」、そして直列8気筒エンジン搭載の高級パーソナルカー「853」なども投入し、「マイバッハ」とともにメルセデス・ベンツ以外の高級車を求める顧客から支持を得ていた。
しかし、世界大恐慌による慢性的不況のもと、オペルなどアメリカ系自動車メーカーに対抗することを強いられたドイツ民族資本メーカーの「DKW」、「ヴァンダラー」、「アウディ」、そして「ホルヒ」は4社で合同し、新たに「アウトウニオン(AUTOUNION:自動車連合)」を結成する。ザクセン州ケムニッツに本拠を置くとともに、4社協力体制を表し、現在はアウディの象徴でもある「フォー・シルバー・リングス」のエンブレムも定められた。
ところが、このアウトウニオン入りによって小康状態を得たものの、第2次世界大戦の勃発によって1940年ごろにホルヒの乗用車生産は終了となった。ドイツの敗戦後は、旧アウトウニオンの本拠であるザクセン州が旧ソ連の支配下に入ったこともあって、高級車専業メーカーとしてのホルヒのブランドは、現在に至るまで途絶えてしまっているのだ。
全長は5.45m!
中国市場限定でデビューした「アウディA8Lホルヒ」は、アウディの最高級リムジーネである「A8」よりも、一段上のプレステージ性が与えられたスペシャルモデルといえるだろう。
ホルヒ・ブランドの復活はここ数年、業界筋では噂となっていたが、そのかたわら今年春にはホイールベース/キャビンともに拡大されたことが明らかにわかる、カムフラージュ済みの次期A8プロトタイプの写真も出まわっていた。
そして今回初公開された市販型のA8Lホルヒのホイールベースは、標準型A8Lからさらに130mm延ばされ、全長は5.45mにまでスケールアップされていた。写真から判断する限りでは、延長分のすべてが後席コンパートメントに充てられているようだ。
エクステリアは、スタンダードのA8以上にクロームメッキを多用したラジエターグリルや複雑なLEDデイタイムランニングライトを備えたデジタルマトリックス・ヘッドライトによって差別化している。オプションのパノラマルーフも、後席の乗客のためにより大型化されているようだ。
また「Hクラウン」と呼ぶディッシュタイプの専用20インチ軽合金ホイールを装着し、そのハブキャップやCピラー基部にはホルヒの「H」エンブレムが入れられる。
いっぽうインテリアは、現代の超高級プレステージカーでは定番化しているダイヤモンドキルティング仕上げのレザーハイドを、シートとドアのインナーパネルに使う。前後席は8モードのマッサージ機構を組み込んだリラクゼーションシートとしているほか、フレグランス機能も盛り込んだマイナスイオン空気清浄システムを装備しているという。
さらにはBang & Olufsen社製3Dステレオサウンドシステムや空調システムなどを操作できるインフォテインメント・ディスプレイが設置されるという。
3.0リッターV6ターボのみの設定
と、ここまではメルセデス「Sクラス・マイバッハ」やベントレー「フライングスパー」など、同じマーケットで競うことになると推測されるライバルたちにそん色のない仕立てとなっている。ところが、現時点でA8 Lホルヒに用意されるパワーユニットは、A8のベーシック版「A8 55 TFSIクワトロ」と共通の、3.0リッターV型6気筒ガソリンターボチャージャーつきガソリンエンジン+48Vマイルドハイブリッドの組み合わせのみ。
最高出力340ps、最大トルクは500Nmを発揮することから、主に中国都市部でのショーファードリブン用途が見込まれるA8Lホルヒには充分と判断された結果と思われるが、もしもこの先ヨーロッパやアメリカでの商品化が行われるならば、メルセデスS580マイバッハのようなV型8気筒ガソリンツインターボ+48Vマイルドハイブリッドが追加される可能性も、完全には否定できないと思われる。
ともあれ、ダイムラー・グループの「マイバッハ」が今世紀初頭のブランド復活に躓いたのち、現在ではメルセデスのサブブランドとして落ち着いた経緯を、アウディはしっかりと見定めたうえに、今回のホルヒ版設定に至ったのは間違いのないところであろう。
まずは中国マーケット以外への導入もあるのか……? そしてメルセデスGLSマイバッハのごとく、たとえば「Q7Lホルヒ」のようなサブブランド展開もあり得るのか……?
110年前からつづく因縁の「アウディ」と「ホルヒ」の先行きには、興味が尽きないところである。
文・武田公実
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