いまもっとも注目すべき日本車はというと、トヨタ自動車が用意している次期「スープラ」だろう。2018年3月のジュネーブ自動車ショーで「GRスープラ・レーシングコンセプト」なる仕様が発表され、大きな話題を呼んだことは記憶に新しくもあるし。
さらに、7月12日のグッドウッド「フェスティバル・オブ・スピード」では市販型(ただしカムフラージュ)が、開発を指揮する多田哲哉チーフエンジニアの操縦で1.9kmのヒルクライムコースを走行し、観客の注目を集めた。
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トヨタ・スープラは、日本車では珍しいちょっと贅沢なスポーティクーペとしてスタートした。1986年に発表された初代は「ソアラ」とシャシーを共用していた。1993年の2代目はそこから大きく飛躍し、スポーツカーを謳った。実際に車体をコンパクト化するいっぽう、エンジンをはじめ、サスペンション、変速機、空力パーツなど、あらゆるところに凝っていた。
だが、2002年に2代目が販売中止になると、当時のトヨタ自動車の経営陣は、スポーツカーは割に合わないと断じたのか、後継車が作られることはなかった。
「今回は豊田章男社長の思いが実を結んだ、といっていいかもしれません」。
フェスティバル・オブ・スピードの会場で、レーシングスーツに身を包んだ多田氏はそう語った。多田氏は2007年からトヨタのスポーツモデル全般の企画統括を務めている。トヨタ86をスバルと共同開発した際の担当でもある。
「豊田社長がかつてマスターテストドライバーを務めていた成瀬 弘氏(故人)と運転の訓練をした際の“相棒”がスープラだったんです。そのときすでに中古でしたが、すごく気に入っていたようです」
多田氏はそう背景について触れる。
「オレのスープラを早く作ってほしい、という社長の思いも伝わってきて、現場のヤル気につながりました」
すでにさまざまなメディアで報道されているとおり、次期スープラはBMWとの共同開発。ミュンヘンのメーカーは次期Z4として開発を進めている。フロントに搭載する直列6気筒の3リッターエンジンをはじめ、後輪駆動のシャシーも共用となる。
「計画がスタートしたときは、まったく企業文化の違う2社だからどうなるかと思いましたが、1年ぐらい前から理想に近づいてきています。中途半端なクルマにするなら一緒に作る意味はない、というのが私たちの共通理解です」
豊田社長の思いも「ピュアスポーツカーを作りたい、でした」と多田氏。車体をコンパクトにし、ホイールベースとトレッドの比率も“黄金比”といわれる1.6あたりに落ち着かせた。車体を短くすることで俊敏な運動性能を実現する。ポルシェよりさらによく曲がりますよ、と多田氏は嬉しそうに言う。
トヨタ86は2プラス2のクーペだったが、86があるおかげで次期スープラは純粋な2シーターとするなど、振り切ることが出来たそうだ。
「86より低重心で剛性は2倍、が目指すところ。レクサスでいえばカーボンボディのLFAと同等の剛性を狙っています」
トヨタ自動車からは開発ドライバーとして、成瀬(弘)氏の薫陶を受けたレーシングドライバーをミュンヘンに常駐させるという気合いの入れかただ。
「いまは(日本政府が2050年までに日本車すべてを電動化する計画を掲げたりして)EV時代のとば口に立っているようなものです。そこで世界の自動車ファンへの最後のプレゼントというつもりで開発しています」
トルクコンバーターを使ったスポーツATを搭載し、ディファレンシャルギアは電子制御と、新しい技術も積極的に採り入れる。
「走りだして最初のコーナーを曲がったときに好きになってもらえるクルマを、と考えています」
多田氏は同じカムフラージュ模様が施されたレーシングヘルメットをなでながら、嬉しそうな表情を浮かべた。
「世界中のピュアスポーツカー・メーカーはどこも同じ想いだと思います。スープラはボディがカーボンファイバー製だとか報道されていますが、それでは(高価になりすぎて)乗れるひとが限られてしまうので、なるべく多くのかたに楽しんでもらうためにアルミニウムを使います」
フェスティバル・オブ・スピードでは、コースを軽快な排気音を立てて駆けていったスープラ。現時点では品のいい軽い音が印象的だったが、実際は、バリバリッと豪快なアフターファイア音を聞かせてくれるらしい。トヨタ自動車では来年前半より順次、世界各国で販売する予定だ。
「発売まであと1年弱あるので、その間にもっとよくしたい、と思って日々取り組んでいます。たんに速いのではなく、ドライバーが楽しめることに重点を置いて完成形まで持っていきます」
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