2019年にデビューした新世代スズキ・KATANA(カタナ)に、二輪ジャーナリストの中村友彦さんが試乗した。旧KATANAからどのような変化があったのか? じっくりと解説してもらおう。
文:中村友彦/写真:富樫秀明
低/長/柔な元祖モデルと、高/短/軽な新世代
2019年にデビューした新世代スズキKATANAに対する第一印象は、「やっぱり乗り味に、先代カタナとの共通点はなかった」だった。低く、長く、重厚な先代とは異なり、新世代KATANAは、高く、短く、軽快なのである。
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もっとも、往年の名前を冠したネオクラシックモデルで、乗り味に昔ながらの雰囲気を感じる機会などめったにないから、先代と新世代の違いに疑問はなかった。とはいえ、再現や復活という意識でKATANAに接していたら、多少の戸惑いは感じたかもしれない。
では、開発ベースとなったGSX-S1000/Fとの違いはどうかと言うと、これは意外に大きいのだ。最も重要な違いは、着座位置が15mm上/80mm前方に移動したことで、ハンドルの近さやアイポイントの高さを考えると、KATANAはちょっとスーパーモタード的。だから荒れた路面の舗装林道などは、ヒョイヒョイッと軽やかに走れる。だがその一方、見通しのいい峠道では、何となくコーナリングフォームが決まらないような、フロントまわりが落ち着かないような、微妙な違和感を覚えることがある。
まずはの市街地走行で嬉しくなったのは、GSX-Sの短所だったエンジンの唐突な反応、ドンツキが解消されたこと。その理由は真円→プログレッシブ式に変更されたスロットルプーリーで、KATANAは全閉からスロットルを開ける際に、意外に無造作な操作ができる。
そうした事情もあって、KATANAで走る市街地はすこぶる快適だ。エンジンも車体も乗り手の操作に対する反応が従順で、狙った場所にスパッと移動できるから、ストレスが溜まらない。もちろんGSX-Sと比較すると、スロットル操作がイージーで、アイポイントが高いおかげで、KATANAのほうが気分は楽々。ただし、KATANAのバックミラーは左右への張り出しがかなり大きいので、スリ抜け的な走りは得意ではなさそうである。
高速道路に上がると、走行風の「いなし方」に大いに感心させられる。このバイクはルックス重視で、快適性なんか意識してないはずと思いこんでいたのだが、コンパクトなカウル+スクリーンの整流効果は秀逸で、前方からの走行風を、ライダーの周囲にほどよく散らしてくれる。
もちろん、高速域での車体の安定性は抜群で、この点はかつてのカタナに的と言えなくもない。ただし、かつてのカタナがキャスター/トレールやホイールベースといったディメンション(いずれも長かった)で安定性を構築していたのに対して、KATANAはガチッとした剛性のフレーム+スイングアームが、安定性の主役という印象だ。
続いては峠道の話。前述した微妙な違和感は距離が進むにつれて解消していった。まず、コーナリングフォームは、オーソドックスなリーンウィズが適しているようで、体重移動を最小限に抑えたら、以後はスムーズに走れるようになった。そしてフロントまわりの落ち着きの悪さは、フォークのプリロードを1回転強くし、伸び側ダンパーを2クリック締め、ついでにリヤショックの硬さを解消するべく、こちらはプリロードを2段階弱くしてみたら、自分好みのハンドリングが得られた。
誤解のないように書き足すが、KATANAは決して乗りづらいバイクではない。と言うか、一般的なペースで走っている分には、アップライトな乗車姿勢とプログレッシブ式スロットルプーリーのおかげで、GSX-Sより扱いやすいと感じることもある。でも、スポーツライディングを楽しむためには、KATANAは乗り手の意識と車体に、何らかのアジャストが必要なのだ。その特性をどう感じるかは人それぞれだが、走り込みながらバイクとの距離を縮めていくのは、僕にとってはすごく楽しい行為だった。
こうしてKATANAでさまざまな状況を走ったわけだが、試乗後に思い浮かべたのは質実剛健という言葉。ちなみに辞書で質実剛健を調べると、「中身が充実していて飾り気がなく、心身ともに強くてたくましいさま」と記されている。飾り気はさておき「中身が充実」と「心身ともにたくましい」は、KATANAにピッタリ来る言葉じゃないだろうか。そしてそういう資質が備わっているからこそ、このバイクは潜在能力を引き出して走るのが楽しいし、飾り気を強調する手段として、カスタムに対する意欲も湧いてくるのだろう。
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スズキ・KATANA Detailed Description【詳細説明】
LEDヘッドライトの明るさは必要にして十分。ローで上、ハイで上下が点灯。軽快なハンドリングを意識した結果かもしれないが、スクリーンはもっと大きくてもいいような……。
かつてのカタナが、独創的で唯一無二のコンビネーションタイプだったのに対して、KATANAの液晶メーターは現行GSX-R1000用がベース。キーをオンにすると「刀」のロゴが現れる。
カスタム業界では多くのパーツメーカーがロータイプを開発しているものの、個人的には純正ハンドルはなかなかの好感触。バックミラー鏡面の位置は、もっと低く、狭くしたい。
今のスズキ車は、内足と接するニーグリップ部の面の構成にこだわりを感じる車両が多いのだが、デザインを優先した結果なのか、KATANAのフィット感は僕にはいまひとつだった。
GSX-Sと共通の並列4気筒エンジンは、マニアの間で名機と呼ばれているGSX-R1000K5~8の発展型。本領を発揮するのは高回転域だが、低中回転域だけで走っていても相当に楽しい。
着座位置が約80mm前進したことで、GSX-Sと同じステップは、相対的に位置が後退しているはずなのだが、座面が約15mm上がっているせいか、下半身にタイトさは感じなかった。
表皮がツートーンで後端に3本のリブが刻まれたシートには、かつてのカタナに対する敬意が感じられる。シート高はGSX-Sより15mm高い825mmで、この数値は海外仕様も共通。
シート下の収納スペースは皆無なので、ETCユニットの置き場には悩みそう。シート裏面には格納式ループ、タンデムステップ部にはフックが備わるものの、使い勝手は今ひとつ。
専用チューニングが行われたタイヤはダンロップ・ロードスポーツ2。GSX-S1000のタイヤは、先代ロードスポーツのOEM仕様となるD214だが、今後は共通化が図られるかも?
スプリングレートを見直したリヤショックは、GSX-Sより柔軟性を感じるものの、運動性と快適性の向上を求めるなら、フルアジャスタブルのアフターマーケット製が必要だろう。
スズキ初のスイングアームマウント式リアフェンダーは、国内では賛否が分かれている模様。かつてのカタナに執着しない現代的なデザインは、個人的にはアリだと思う。
パイプ製のシンプルなサイドスタンドは、GSX-Sと共通。ただGSX-Sとは異なり、KATANAは高額車なのだから、できれば高品質なサイドスタンドを専用設計してほしかった。
スズキ「KATANA」の主なスペックと価格
[ 表が省略されました。オリジナルサイトでご覧ください ]
記事協力:ヘリテイジ&レジェンズ
※本企画はHeritage&Legends 2019年9月号に掲載された記事を再編集したものです。
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フロントのデザインはともかく、アップ過ぎるハンドルに尻切れトンボの様なリア、S1000と同じ内容でここまでの価格差…残念ながら欲しいとは思わない。