ボブ・ウォレスがモータースポーツで活躍することを夢見て、創業者のフェルッチオ・ランボルギーニの知らぬところで開発したと言われる幻のスーパーカー、イオタ。今年8月のモントレー・カー・ウイークでその名が復活した。それが「ランボルギーニ・アヴェンタドールSVJ」だ。ランボルギーニ伝統の「スーパーヴェローチェ(超高速)」を表す「SV」に、「J(イオタ)」が冠せられたのだ。
「J(イオタ)」の由来は、モータースポーツ用車両を目指してワンオフで生産されたことから「FIAの車両規則J項から名付けられた」という説を含め諸説ある。オリジナルは1台きりしか作られず、しかもすぐに事故で消滅した……などイオタはミステリアスな部分が多く、だからこそ、惹きつけられる人間が多いのだが、「モータースポーツ用車両」という部分は確かなようだ。それゆえ新世代のフラッグシップモデルであるアヴェンタドールもSVで終わらせず「超高速なモータースポーツ用車両」としたのだろう。
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その証として同社が示したのが、ニュルブルクリンク北コースで記録した6分44秒97という市販車最速のラップタイムだ。何しろ同社の歴代V12エンジン搭載車として最高出力の770hpを発揮し、0→100kmは2.8秒、最高速度は350km/h超というハイスペックぶりである。
いや、そんな数値を競うのはスーパーカー時代でとうに終わっているはずだ。もちろんターボなどの過給器に頼らず、自然吸気でこのスペックは凄まじいが、アヴェンタドールSVJの神髄は、最先端の空力技術と最高のパフォーマンスを引き出すためのエンジニアリング技術のほうにある。
ウラカン・ペルフォルマンテに初めて搭載された独自の空力システム「ALA(アエロディナミカ・ランボルギーニ・アッティーヴァ)」は、前後スポイラーに設けられたフラップを動かして空気の流れを変える。いわば走りながら空気を自在に操るシステムだ。
アヴェンタドールSVJに搭載するため、このALAがさらに進化してALA2.0となった。これを電子制御ユニットの「LDVA(ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・アッティーヴァ)」がリアルタイムでコントロールして、コーナリング時には曲がる方向に合わせて左右のダウンフォースを変え、直線でフル加速する時はダウンフォースを解き放ち、フルブレーキングでは一気にダウンフォースを発生させる。
ALA2.0やLDVAを有効に活用するためにもエクステリアデザインの改良は必然だ。フロントバンパーにはエンブレムを挟むように2つのエアインテークが新たに設けられた。拡大されたサイドのエアインテークとともにロッカーパネルの存在感が増し、V12エンジンを覆うカバーは軽量のカーボンファイバー製の新形状となり、しかもレースカーのようにクイックリリースクリップで取り外せるようにした。リアウイングは真後ろから見るとギリシャ文字のΩ(オメガ)のようで、改良されたリアディフューザーとともに今回のダウンフォース改善の30%を担ったという。
ほかにも細かく改良されているが、いずれにせよ「形は機能に従う」という同社の思想に沿ってデザインされている。ともかく、こうした成果として、アヴェンタドールSVと比べると前軸・後軸とも40%ダウンフォースを増加させている。
サスペンションはサーキットパフォーマンスを重視して車体とホイールの制御の向上が図られ、4輪操舵システムは高速安定性とコーナリングの俊敏性を目指して改良された。4輪駆動システムもSVよりさらに3%のトルクをリアアクスルに向けられるようにして、サーキットなど刻々と変化し続ける状況下での平均速度を高めた……とまあ、スーパーカー時代の「イオタ」から、もう50年もの歳月が流れたのだという現実を、これでもかと見せつけてくれるのがアヴェンタドールSVJだ。
モントレー・カー・ウイークでランボルギーニは懐かしの名車「イスレロ」と「エスパーダ」も展示した。もちろん幻のイオタが姿を見せることはなかったが、代わりに最新のイオタがお披露目された。幻のイオタとは違い、対価を払えば誰でも購入でき、しかも同じ「モータースポーツ車専用」の「J(イオタ)」だが、街中でも優雅に走ることができるスーパーカーだ。
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