2022年シーズンのF1は新規定によるマシンの導入で勢力図もレース展開も昨年から大きく変更。その世界最高峰のトップバトルの詳細、そして日本期待の角田裕毅の2年目の活躍を元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で振り返ります。今回はついに実現した3年ぶりの開催となるF1日本GPについて。前編は中野氏が現場で感じた3年ぶりのF1鈴鹿、そして予選で注目を浴びたベッテル、さらに日本GP中に発表されたガスリーのアルピーヌへの移籍とデ・フリースのアルファタウリ加入についてお伝えします。
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3年ぶりの開催となった2022年F1第18戦日本GP、僕も鈴鹿サーキットに行きました。まずその現場で感じたことは、お客さんたちの本当に熱気といいますかエネルギーがすごかったことです。やはり3年という間隔が空き、待ちに待ったF1日本GPが鈴鹿に帰ってきて、しかもその場に日本人ドライバーの角田裕毅(アルファタウリ)が走るということで、すごく大きなエネルギーを感じました。
今年の日本GPは3年前の2019年とは違う雰囲気も感じました。お客さんの楽しみ方もちょっとこなれてきたといいますか、『F1はこう楽しむ』みたいな、新しい楽しみ方をきっちりと確立してきている感じもありましたね。
日本人ならでは独特な楽しみ方といいますか、コスプレとかオンボードカメラを模倣したヘルメットの装飾とか、すごく凝り性だったり、手先の器用さ、細かさなども存分に活かされていました。本当に芸が細かい作品の数々が見られましたね。今年でF1引退を発表しているセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)のヘルメットを被っている方も何人かいましたし、みんながそれぞれ思い思いの衣装やコスプレをしていて、すごく場の雰囲気を華やかにしてくれていました。
そんな雰囲気で迎えた日本GPは、金曜日が雨で土曜日は晴れ、また日曜日は雨というすごく難しいコンディションになりました。ひさしぶりの鈴鹿、かつマシンレギュレーションが変わってからの初めてレースになるので、そういった意味ではあまり多くのデータがない状況で初日は雨になってしまいました。
ただ、日曜日が雨予報ということはレースウイーク前からからわかっていたことなので、そういった意味では、初日の雨の走行に関しても日曜日のデータ取りという部分もあり、みんな一生懸命、走っていました。
そして土曜日は晴れたわけですが、翌日の日曜日は変わらず雨予報なので各チーム、クルマのセットアップをどのような感じで進めるのかなと思いましたけど、やはりレースに向けて予選順位が非常に重要だということはわかっていたので、翌日の雨予報は関係なしにドライコンディション向けのセットアップでアタックを行っている感じでした。
もしかしたら決勝の雨を予想しているセットアップで予選を戦ったチームもあったかもしれないですけど(パルクフェルメ規定で基本的に予選と同じセットアップで決勝を走らなければならない)、決勝のスピードを見ていると、特別どのチームが完璧な雨セットに寄せているなというクルマはなかった印象です。決勝のクルマの動きを見ていると、やはりドライの予選での順位に結構、集中していたように見えました。
今回の鈴鹿では、今年からの新レギュレーションのマシンを初めて見ることができました。その第一印象は『デカいな~』ということですね(苦笑)。それと同時に、昨年以前のマシンに比べると、全体的にシンプルになって昔に戻ってる印象も受けました。大きいという印象がありましたけど、すっきりしていて僕は好きでしたね。現代F1マシンの良さと昔のF1マシンのシンプルさが両方うまくミックスされていて、パッと見はすごくいいなと感じるクルマの形をしていました。
●予選日に光ったベッテル。日本のファンにスペシャルメッセージ
予選ではマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が速さをみせましたが、注目を集めたのは鈴鹿でのF1ラストランとなるベッテルでした。最後の日本GPということもあり、予選アタックでは特別どこか速かったというわけではありませんでしたけど、本当にうまくまとめていました。鈴鹿が得意ということもあると思いますけど、鈴鹿は1周が長いのですべてを完璧にまとめ上げることは難しいなか、本当にミスをせずに予選アタックをまとめました。
本当に今年一番じゃないかなと思えるくらい完璧に予選の1周をまとめて、ベッテルはしっかりとQ3まで進出しての日本語での『ありがとうございます』の無線です。ベッテルはこれで鈴鹿が最後のアタックということが本当に寂しくて、でもまだ翌日も走行するということで、鈴鹿に対する愛みたいなことをリップサービスではなく、本当に出てきた言葉だったというコメントもありました。
ベッテルにそういったイメージはあまりなかったので、それだけに見ていてすごく心温まる無線でした。どこまで日本が好きなのかはわかりませんが、金曜日から『一番』のハチマキを巻いていたりして、ベッテルの意外な一面を見ましたね。
ドライの予選ではレッドブルとフェラーリのマシンが上位を分け合い、今回の予選では正直互角だなと感じました。一発のタイムを出しにいくということを考えると、むしろフェラーリの方が楽にプッシュできるクルマに見えました。クルマのパッケージ的には、意外にレッドブルはリヤも結構出ていた(滑らせていた)のでナーバスなクルマに見えました。
フェルスタッペンはQ3の2回目のアタックのときにリヤを滑らせていて、あのシーンを見ていても、クルマ的に一発のタイムを出すという部分では、結構際どいところまでいかないとフェラーリに勝てないという面は見えていました。
チームメイトのセルジオ・ペレスのタイムを見てもそのことは証明できると思いますが、今回のレッドブルはそこまで楽に乗れるクルマではありませんでした。その部分ではやはり、フェルスタッペンの走らせ方や能力がうまく機能をして、何とかポールポジションを獲ることができたという感じに見えました。ドライの予選ではフェラーリも結構いい勝負をするなと感じましたし、速さだけ見ると決勝は結構、面白い戦いになりそうだなという雰囲気は予選からありました。
そのほかではアルピーヌの速さも気になりました。金曜日のフリー走行ではインターミディエイトタイヤでも速く、ドライでもフェルナンド・アロンソが好調そうな印象で、鈴鹿の速度域や路面ミューの高さなどがアルピーヌのクルマとすごく合っている印象でした。エステバン・オコンも速かったですし、予選で2台とも好調なアルピーヌの速さも印象に残りました。
そして決勝日を迎えるわけですが、その朝のタイミングでピエール・ガスリーのアルピーヌ移籍とニック・デ・フリースのアルファタウリ加入が同時に発表されました。
●鈴鹿での会見で感じたデ・フリースのクレバーさ。角田裕毅の強力なライバルに
少なくとも今週は裕毅の週末だと思っていたので、『このタイミングか!』とは思いましたけど(苦笑)、おそらくアルピーヌ側が早く発表をしたかったのでしょうね。それを抑えきれない感じで同時発表ということになったという印象でした。アルファタウリとしては日本GPでの発表は、できれば避けたかっただろうなと思います。
ガスリーの移籍とデ・フリースのレギュラーデビューはF1界のことを考えると面白いなと思います。オコンとガスリーという結構仲の悪いふたりが同じチームで走ることが凶と出るか吉と出るか。ガスリーがアルピーヌに来ればオコンはもっと頑張るでしょうし、そういった意味でいい方向に行けば相乗効果でアルピーヌは伸びる可能性もありますが、ギスギスしてしまうと一気にネガティブな方向へ行ってしまいます。
来季のアルピーヌはチームとドライバーがオールフランスという体制になります。自分のプロスト・グランプリ(1997年)での経験上、普通に考えるとうまくいかない気もしますが(苦笑)、その部分をどうやって舵取りするかというのはチーム代表のオットマー・サフナウアー次第です。
アルファタウリに関しては、デ・フリースの鈴鹿での会見も僕も聞きに行きました。デ・フリースはもっと若いかと思いましたけど、ガスリーと同じくらいなんですね(ガスリー26歳。デ・フリース27歳)。裕毅とは年齢が離れているのでいいかなという気はしますし、逆に裕毅と同じくらいの年齢だとやりづらいかと思います。
ただ、デ・フリースの会見でのコメントを聞いているとかなりしっかりしていて、めちゃくちゃ頭も良いドライバーであることを感じました。そして、アルファタウリもチームのリーダーシップをデ・フリースに任せるような雰囲気があることも感じました。それはアルファタウリというよりも、おそらくヘルムート・マルコ(レッドブルのモータースポーツコンサルタント)がそんな感じの言葉も投げているのかなということを匂わせるコメントもありました。
もともとフェルスタッペンが同じオランダ人のデ・フリースをマルコに紹介した経緯もあり、レッドブル陣営内としてもデ・フリースは戦いやすい環境が揃っているかと思います。デ・フリースは裕毅と仲もいいらしいので、その部分は心配いらないでしょうけど、かなり手強い相手になると思います。
デ・フリースはかなり負けん気も強そうですし、もう『自分は自分』というタイプのドライバーなので、今までのガスリーと裕毅の兄弟みたいな感じとは違う形になるのかなと思います。
今の裕毅はガスリーとの関係性である意味のガス抜きができていた部分もあると思うので、デ・フリースとは今は仲が良くても、シーズンが始まったら結構バチバチのライバルになる可能性もあります。いい方向に行けばライバル意識丸出しでお互いを高め合うことができるでしょうし、僕としてはそのなかで裕毅は勝ち抜いてほしいと思っています。そこで勝って初めて、本物のF1ドライバーになっていくのかなと思っています。
そういった意味で、デ・フリースと裕毅はすごく面白いコンビになるなと思います。裕毅にとって本当の意味での戦いはここから始まる感じがします。
裕毅はもう3年目でもあるので、1年目のデ・フリースに対してアドバンテージはある。そのアドバンテージをさらに大きくしていくためには、裕毅はもうひとつギヤを上げていかないといけません。そういった意味でも、さらに裕毅が成長できるかどうかということも掛かっているので、裕毅とデ・フリースは結構面白い組み合わせだなと思います。
後編につづく
中野信治(なかのしんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24
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