グリーンレーベルとレッドレーベル
古く大きく重いラグジュアリーな4ドアサルーンに、クルマ好きが惹かれるというケースは多くない。それでも、ベントレー・アルナージには神秘的な魅力が備わっている。円熟味を増した、独特の風情がある。
【画像】ベントレー・アルナージ 進化を遂げた現行コンチネンタルGTとフライングスパー ほか 全76枚
開発が始まった1990年代、ベントレーは英国の製造業大手、ヴィッカーズ社の傘下にあった。だが1998年のアルナージ発売時点では、フォルクスワーゲン・グループの一員になっていた。ところがエンジンは、BMWの4.4L V8ツインターボを搭載していた。
複雑さを回避するため、1999年にフォルクスワーゲン側はベントレー・ターボR譲りの旧式化した6.75L V8ターボエンジンを登用。ボディシェルを強化しつつ、2000年にはBMWエンジンをラインナップから外した。
この頃のアルナージを区別するため、ベントレーはBMWエンジンを搭載したモデルをグリーンレーベルと命名。ターボR用のロールス・ロイス・エンジンを載せた方は、レッドレーベルと名付けられた。
2001年にはシリーズ2へ進化し、ホイールベースを25cm延長したアルナージ RLが登場。同時にエンジンは改良を受け、ツインターボ化と燃料インジェクションの採用などで、排出ガス規制の強化に向けた対応が施された。
2002年に、レッドレーベルはアルナージ Rへアップデート。さらにパワフルなアルナージ Tも登場し、最高出力460psと最大トルク89.0kg-mという、スーパーカー級の動力性能を獲得した。そして2007年には、500psと101.8kg-mへさらに増強された。
コーナリングも秀逸なビッグ・ベントレー
それでも、登場から20年以上も経過したコテコテのブリティッシュ・サルーンには惹かれない、という読者もいらっしゃると思う。しかし、大きくパワフルなだけではない。
筆者のオススメは、6.75Lのツインターボ。エレガントなボディに押し込められたV8エンジンが生み出す極太のトルクで、アルナージ Tは0-97km/h加速を5.5秒でこなす。最高速度は288km/hがうたわれ、高速道路でも圧倒的だった。
全長は約5.4mあるが、コーナリングも秀逸。もし充分なスキルと、不足ない道幅があれば、豪快なドリフトでタイトコーナーを抜けることも可能。ちょっと面白そうだな、と思った読者もいらっしゃるのではないだろうか。
ドアを開けば、贅沢にウッドパネルがあしらわれ、柔らかいレザーで包まれたインテリアが迎えてくれる。車内空間は現代モデルと比べれば広いと感じないかもしれないが、豪華さではまったく引けを取らない。
もしかすると、内装パーツの一部が走行中に落ちるかもしれない。それは古いベントレーでは珍しくないこと。味の1つだ。
アルナージを維持するには、それなりの財力も必要になる。しかし、絶滅危惧種といえる大排気量のラグジュアリー・サルーンを保護し、将来へ残すなら絶好の機会にある。今なら、取引価格は想像以上にお手頃といえる。
現行モデルのベントレー・コンチネンタルにフライングスパー、2020年に生産終了を迎えたミュルザンヌは、素晴らしい進化を遂げた。源流に当たるアルナージで、その前触れを楽しむのも悪くない。
新車時代のAUTOCARの評価は
プッシュロッドでバルブを動かすV8エンジンが、ベントレーに搭載されてから48年。それでもアルナージは、0-97km/h加速を5.5秒でこなし、最高速度は288km/hに達する。クラシックだと感じることはまったくない。
ビッグ・ベントレーは滑らかに、忠実に走る。2500kgある車重が長所として活かされている。直進性も素晴らしく、極めて正確にラインを辿れる。狭い道でも、タイトなコーナーでも、狙い通りだ。
インテリアの仕立ても素晴らしい。高めのドライビングポジションから、周囲を不足なく見渡すことができる。(2006年9月1日)
専門家の意見を聞いてみる
ナイジェル・サンデル氏
「アルナージの欠点を生んでいる原因は、工場が生産を開始した当初、充分な資金力がなかったこと。基本的なDNAはBMWに通じています。古いベントレーやロールスロイスとは異なり、従来の知識などは通用しません」
「近年は部品の入手も困難になりつつあり、メンテナンスには多額の費用が必要です。わたしたちの場合は、多くの部品を特注でオーダーしています。ですから、既に多額の予算でしっかり手入れされてきた例を選ぶべきでしょう」
「BMWのV8エンジンの場合、ガスケット交換にはエンジンを降ろす必要があります。そうしないと、ツインターボにもアクセスできません。価格はお手頃だとしても、住宅を買うのと同じです。事前に、専門家によるチェックを受けることをオススメします」
購入時に気をつけたいポイント
エンジン
オイル交換のインターバルは、後期型で1年毎か1万6000km毎。ダッシュボードの表示で、交換時期を教えてくれる。
BMWのツインターボ・エンジンは、カムシャフトが不調になることがあるものの、もはや部品の入手は困難。ウェイストゲート用ブッシュも、新調しないと手に入らない。ヘッドガスケットは、可能性が少ないとはいえ交換が必要になることも。
エンジン後部のエアインジェクション・システム用パイプは、トランスミッションを降ろさなければ交換できない。Vバンク内にある、ブレーキポンプとエアラム・パイプは、目が届きにくく放置されがち。
サスペンションとブレーキ、タイヤ
フロント側のロワーウイッシュボーン・ブッシュは、10万kmほどで駄目になる。重いクルマを止めるブレーキディスクとパッドの状態は、定期的に確かめたい。
18インチの正規サイズのタイヤは、入手が難しい。19インチの方が一般的に売られており、乗り心地やハンドリングでも優れる。
電気系統
正しいサイズのバッテリーを2本、良好な状態に保ちたい。メインの機器用に100ランクのものが、スターター用に75ランクのものが載っている。
ボディ
ドアハンドルやウインドウ・フレーム周辺にサビが出やすい。フェンダー内側も要注意。
インテリア
ヒーターのファンブロワーが正常に速度を変えて動くか確かめる。ステアリングコラムのレバーと、パワーウインドウ系は弱点。助手席側のエアバッグセンサーが壊れることも珍しくない。
エアコンの修理には、センターコンソールとダッシュボードを外す必要がある。作業には1週間は必要だろう。
知っておくべきこと
ベントレーを得意とする専門ガレージが見つかれば、維持費は多少下げられる。だが、フォルクスワーゲン・グループの他のクルマと同じように扱うべきではない、と専門家は警告する。
電気系統の不具合は2006年以前のアルナージで起きやすいものの、定期的な充電でバッテリーの状態を保っていれば、未然に防ぐことができる。
先出のサンデルによれば、エアインジェクションとブレーキの整備だけで、9000ポンド(約146万円)掛かった例もあるという。しっかりメンテナンスを受け続けてきた1台を探すことが賢明だ。
燃費は、BMWのV8ツインターボで、高速道路なら12km/L近くまで伸びることもあるらしい。平均で5km/L前後だったとしても、驚く結果ではない。
英国ではいくら払うべき?
1万5000ポンド(約244万円)~1万9999ポンド(約325万円)
初期のBMW製4.4Lエンジンを載せたアルナージを英国では探せる。走行距離が伸びた6.75L版も出てくる。
2万ポンド(約326万円)~2万9999ポンド(約488万円)
状態の良いグリーンレーベルとレッドレーベルや、2005年式までのアルナージ Tやアルナージ Rが英国では購入できる価格帯。走行距離は10万km以下がほとんど。
3万ポンド(約489万円)~3万4999ポンド(約569万円)
アルナージ Rとアルナージ Tで、走行距離の少ない例が出てくる。後期型もあるが、走行距離は長い。
3万5000ポンド(約570万円)以上
2005年以降の、状態の良いアルナージ Rとアルナージ Tを英国では探せる。
英国で掘り出し物を発見
ベントレー・アルナージ T(英国仕様) 登録:2006年 走行距離:10万2900km 価格:2万6990ポンド(約439万円)
引き締まったグレーのボディに、ブラックのレザーで仕立てられたアルナージ。アルミホイールも全体を引き締めている。
ピクニックテーブルにラムウールのマット、オリジナルのブックセットが付き、完全な整備記録が残っている。専門店による販売で、1年間の保証も付くという。お買い得かも。
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