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雑誌に載らない話vol285
2018年5月9日、トヨタは株式市場の取引時間中という異例のタイミングで2018年3月期の決算報告を行なった。決算説明会は2部構成で、1部では小林耕士副社長らが決算概要を発表し、豊田章男社長が出席した第2部ではトヨタの今期の方針説明を行なった。
今回の決算説明会は、通常のメディア、経済アナリストだけでなく、株式を保有する株主企業も出席し、そうした株主企業にトヨタの社長が直接、今後の方針を説明する場面も見られるなど、新しい試みも行なわれた。従来は40分間程度だった発表会見が90分以上に引き伸ばされ、社長スピーチを行なうなど、株式市場やステークホルダーへの情報発信を強化している。
■トヨタの2018年3月決算
トヨタの2018年3月通期の売上高は前年比プラス6.5%となる29兆3795億円で1兆7823億円の増加になっている。営業利益は36.2%増の2兆3998億円で、前年より4054億円増加し、営業利益率は8.2%だ。増収増益は2期ぶりとなる。増益の理由は為替差益が2650億円、原価改善の1650億円が大きく貢献している。
販売面で見ると、今期は896万4000台と前期より微減となっているが、グループ全体では1044万1000台と微増だ。地域別で見ると、日本市場は販売台数が微減したものの4557億円の増収。しかし北米市場は販売台数が3万1000台減少し、営業利益は1987億円の減益となっている。その他の地域では現状維持か、微増となっているので、北米での落ち込みがくっきりしており、トヨタにとってのナンバーワン市場での落ち込みは要注意点となっている。
一方、2019年3月期、つまり次期の見通しはより厳しい。販売台数の見通しは、今期とほぼ同等の895万台とし、売上高は29兆円で2018年3月期より3795億円の低減、営業利益は2兆3000億円で、998億円の減少と見込んでいる。また営業利益率は7.9%としている。
その理由は他社と同様に円高傾向により、為替レートは対ドルを105円としており、従来の111円に比べ2300億円の減収をもたらすのだ。もちろん原価低減努力などにより、これをカバーをするが減益となるのは避けられない。
また、アメリカでの販売のテコ入れで、販売奨励金が増加する傾向にある点も懸念材料だ。アメリカ市場ではセダンが急激に人気を失いつつあり、従来はドル箱であったカムリも苦戦は免れない。そのかわりに新型RAV4の投入が行なわれるが、アメリカ市場は余談を許さない。
■モビリティカンパニーになれるのか?
こうした2019年3月期の見通しもあり、豊田章男社長のスピーチや説明も、「生きるか死ぬか」、「戦い」といった言葉が多用されている。そして、今後は豊田の出発点であるトヨタ生産方式(TPS)、原価低減という2大スローガンを改めて追求するという。
TPSは無駄を徹底的に除去した効率的でフレキシブルな生産体制であり、原価低減は固定費の縮小、従来は手がつけられていなかった、事務職部門の仕事の効率化による固定費の圧縮なども追求するという。
またトヨタという巨艦であるがゆえの、意思決定の遅さにも豊田社長は危機感を募らせている。豊田社長は2018年1月のCES(アメリカのコンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で、トヨタは「モビリティカンパニーになる」ということを宣言した。これは通常の社内向けの新年のメッセージ発信という恒例行事をスルーしての異例の発信だ。
モビリティカンパーとは、単にクルマを製造する自動車メーカーではなく、シェアリングや、情報提供などモビリティに関する幅広い分野のサービス提供する企業を意味する。しかし、こうした発信は、なかなか社内に浸透し難いのも事実だ。
さらに社内カンパニー制度を導入しているが、これでも意思決定の遅さが解消できたわけではなく、自動車メーカーが迎える新次元の展開に対応するのは十分な体制ではないと豊田社長は語る。
そのため、トヨタは2017年11月に新役員体制を発表し、2018年1月から始動させている。通常は4月から始動することが通例だが、あえて前倒しした新体制移行である。
その理由を豊田社長は、「自動車業界は100年に一度の大変革の時代に入った。次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保障はどこにもない。『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている。他社ならびに他業界とのアライアンスも進めていくが、その前に、トヨタ・グループが持てる力を結集することが不可欠である。今回の体制変更には、大変革の時代にトヨタ・グループとして立ち向かっていくという意志を込めた」と語っている。
その結果、豊田社長を筆頭に、6人の副社長(小林耕士氏、ディディエ・ルロイ氏、寺師茂樹氏、河合満氏、友山茂樹氏、吉田守孝)を置き、さらにフェローとしてTRIのギル・プラット氏を起用して、新たな経営体制を作り上げている。
「電動化」、「自動化」、「コネクティッド」などの技術が進化し、異業種も巻き込んだ新たな「競争と協調」のフェーズに入っていることを認識し、トヨタはグループの連携を強化し、これまで取り組んできた「仕事の進め方改革」を一層促進するために、社長1名+副社長6名で、あらゆる事態に対応できるようにしたのだ。
副社長は社長の補佐役に加え、執行役としてカンパニー・プレジデント、各本部長を兼任し、自ら現場を指揮するとともに、次世代人材を育成する役割を担い、各現場と一体となって執行をスピードアップさせる体制だ。つまり、この7名でトヨタ・グループの運営すべてを決定することにしたのだ。
具体的にはTNGA導入によって、増大したコストの低減、TNGAからアウトプットされる性能の見直し、開発段階でコスト、時間の徹底した削減を目指すとしている。より高収益な体制を目指すということを意味するが、当然カンパニー制によって専門化を目指していたこれまでの方向とは異なるが、新しい即断即決による意思決定と、トヨタ生産方式の徹底、原価低減というトヨタの原点の掘り起こしは成功するだろうか?
■危機感の高まるスバル
スバルは5月11日に2018年3月期の決算を発表した。同期の連結販売台数は106万6900台で、前期より2万4000台の増加となり、売上高は3兆4052億円となった。前年比2.4%増の792億円の増収だ。営業利益は3794億円で、営業利益率は11.1%と、相変わらず業界最高水準を保っている。
グローバル生産台数は、アメリカのインディアナ工場で34万9000台を記録した。国内生産は68万7000台で、前期より微減しているが、インプレッサの生産をアメリカ工場に移管していることを考えると堅調といえる。
しかし、他のメーカーと同様に2019年3月期の見通しは楽観できない。計画では、販売台数は今期より3.1%増となる110万4000台としているが、売上高は1552億円減の3兆2500億円と4.6%減少すると見ている。そして営業利益は794億円、29.3%減の3000億円と想定している。この結果、ついに営業利益率は10%を切り9.2%としている。販売台数は増大する見通しだが、利益は減少する。ここ数年間のアメリカにおける夢のような成功にブレーキが掛かることは間違いない。
その原因の第一は、他社と同様に円高により為替レートをこれまでの111円から105円と見込んでいることが大きい。スバルはレガシイ/アウトバック、インプレッサをアメリカで生産しているが、販売台数が多いフォレスター、XVは日本からの輸出であり、為替レートの影響をもろにかぶる。
さらに、もしトランプ政権が関税アップを発動すればその影響を大きく受けるリスクも抱えている。また、スバルにとって唯一の大市場であるアメリカでの乗用車販売は陰りが見えており、加えてレガシィ・セダンの縮小は避けられない。アメリカ市場の停滞の影響で、ついに販売奨励金も従来の1150ドルから2018年度は2000ドル、2019年度は2200ドルへと増加する予想だ。もちろん、それでも業界では低い販売奨励金だが、これまでのような殿様商売は通用しなくなっている。
2018年夏にはインディアナ工場で生産される3列シートのミッドサイズSUV「アセント」の販売が開始され、秋に発売となる新型「フォレスター」と合わせ、大幅な宣伝費の投入も計画されている。もちろん、アセント、フォレスターの販売が好調なら大規模な宣伝費もカバーすることができるのだが。
スバルの2018年のニューモデル投入は、アセント、フォレスター、そして年末にはトヨタ・プリウスのPHV技術を投入したクロストレック(XV)プラグインハイブリッドだ。クロストレック(XV)プラグインハイブリッドの投入は、アメリカのカリフォルニア州大気資源局(CARB)との約束の第1弾で、第2弾は2021年投入予定の電気自動車だ。
国内も、レヴォーグ、レガシィ/アウトバックなどがモデル末期となり、新型フォレスターを投入するとはいえ、国内販売は前期比1万2700台(-7.8%)の台数減を見込んでいる。
スバルは中国で大きく出遅れている現状も打開できていない。現地生産ができていないため、25%の関税がかかり、中国における価格競争力はないし、ブランドとしても浸透していないのだ。その結果、2018年3月期での中国販売は2万7000台に過ぎず、前期よりも17%も減少している。唯一の救いは7月から関税が15%に引き下げられることだが、それでも現地生産のクルマと価格競争は厳しい。
スバルは厳しさを増す状況の中で、7月には新任の中村知美社長が新5カ年中期経営計画を発表することになる。これからのスバルはその中期経営計画にかかっているのだ。
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