最高速度は320km/h以上 一癖あるスタイリング
かつて、革新的な設計のスーパーカーを提供した自動車メーカーが、英国には存在した。少し時代遅れな、量産車を提供していた時代もあったけれど。
【画像】無名のスーパーカー ブリストル・ファイター 一癖ある450と412、405 ダッジ・バイパーも 全113枚
今回ご紹介するファイターは、良くないブリストル・カーズのイメージを塗り替えるのに充分だった1台。新しい経営体制のもとで、不足ない開発予算が与えられ、まったく新しいスーパーカーが生み出された。
最高速度は320km/hを軽く超え、2シーターのボディにガルウイングドア。過去のブリストルと同じく、最高水準の品質が目指されていた。ただし、一癖あるスタイリングも従来どおりといえた。
空気抵抗には気が配られていたが、高速域でダウンフォースを生み出す処理は与えられていない。ハイパワーをなだめる、電子制御システムも備わらない。そのかわり、高度な設計技術で、優れた操縦性のバランスを実現していた。
高級感漂うインテリアには、飛行機のように天井側にもメーターが並ぶなど、デザイン的な特徴も備わる。この空間に身を委ね、何時間でも遠くを目指したいと思わせる。製造品質は、ハンドメイドの英国車水準。理解できる人が、納得すれば良いといえた。
発表は2004年。生産数は年間20台が計画されたものの、現実的に提供されたのは極少数に留まった。
ツインターボで1026psと362km/hの「T」も
アルミとカーボンで構成されたボディをまとう実際のファイターは、写真で見るよりカッコいい。アルファ・ロメオTZへ似た雰囲気も漂わせるが、20年前のスーパーカーの水準でも、全高は1346mmと高め。全幅は1795mmしかない。
それでも、空気抵抗を示すCd値は0.28と小さく、すこぶる速かった。車重も1600kgと比較的軽量で、532psを発揮する7990ccの自然吸気V型10気筒エンジンなら余裕しゃくしゃく。0-100km/h加速は4.0秒、最高速度は337km/hが主張された。
運転席へ座ると、重低音を奏でて回るV10エンジンに圧倒される。着座位置は高めだが、視界は広い。6速MTのシフトレバーはドライバー側へ傾き、72.4kg-mのトルクを操りやすくしている。
ボディは、塊のようにソリッド。乗り心地はしなやかで、ブレーキは強力に効く。特に印象的だったのがステアリング。ロックトゥロックは2.7回転と適度にクイックで、重み付けは理想的といえた。ダイレクトな感触が、高速域へ筆者を誘惑した。
2005年の価格は、532psの通常のファイターで22万9000ポンド。637psのファイター Sは、25万6000ポンドだった。ツインターボで過給し1026psまで高めたファイター Tも存在し、こちらの最高速度は362km/hに達した。
ブリストル・カーズが最後に提供した、個性的なスーパーカーがファイターだ。当時のターゲット層の心を掴みきれなかったことが、残念でならない。
新車時代のAUTOCARの評価は
エンジンを始動すれば、10気筒の強烈な重低音が充満する。動力性能は見事のひとこと。操縦性は落ち着いており、不安感は小さい。コーナーを攻め込んでも乱れにくく、長いホイールベースが不意のテールアウトを抑えている。
飛行機メーカーを起源とするブリストルは、現代的なクルマを生み出すことに成功した。周囲とは異なるモデルを求める人を惹き付けるのに充分な、個性と能力を備えている。(2005年5月24日)
専門家の意見を聞いてみる
リチャード・ハケット氏:SLJハケット社
「子どもの頃、父がブリストルに乗っていました。それが、このブランドとの付き合いの始まりですね。ブリストル・カーズでは、20年以上勤務してきました」
「ファイターは突出したクルマです。驚くほど速いのに、扱いやすく、作りも上質です。時代が進むほど、スタイリングは美しく感じるようになってきたと思います」
「信頼性が高いことは、うれしい事実。多くの部品が、まだ入手可能という点も同様でしょう。取引価格は、上昇しつつあるようです」
購入時に気をつけたいポイント
ボディとシャシー
マフラーは、サイドシルを通って後方へ導かれている。目立ったスポイラーは存在せず、最低地上高は高め。フロントのバルクヘッドとフロントガラス・フレームなどが一体になった、スチール製ボックスセクション・フレームでシャシーは構成される。
フロアにはハニカム素材が用いられ、ドアとリアハッチはカーボンファイバー製。ルーフとボンネットはアルミニウム製だ。負荷のかかるサスペンションには、スチールが用いられている。荷室は広く、フルサイズのスペアタイヤも載る。
エンジン
フロント・ミドシップのV10エンジンは、ダッジ・バイパーのユニットをブリストルがチューニングしたもので、信頼性は高い。最高出力532psがうたわれるが、高速走行時はラムエア効果で、25psほど向上する。
メンテナンスしやすいよう配慮され、点火プラグやスターターモーターの交換は簡単。スペアパーツの供給にも滞りはないという。
トランスミッション
ファイターは、バイパー譲りの6速MTか、4速ATを選択できた。だが、ATを載せた例は1台しか作られていない。目立った弱点はないとか。ギア比が高いおかげで、110km/hを1500rpmでこなせる。
ステアリング
フロントタイヤの切れ角が大きく、ロンドンタクシー並みに小回りが利く。ワイドなフロントタイヤにも関わらず。
知っておくべきこと
ブリストル・カーズは情報を余り出さない習慣があり、正確な生産数はわかっていない。少なくとも、英国では9台しかナンバー登録されていない。シャシーは20台ぶん製造されたが、13台しか完成しなかったという情報がある。
SLJハケット社は、残ったシャシーや部品を入手し、復刻版のファイターを製作している。既に2台は販売済みだという。もし興味をお持ちなら、早めに連絡してみてはいかがだろう。
また同社は、ブリストル・カーズがほぼ開発を終えていた、シリーズ2のファイターも所有している。ツインターボのV10エンジンを前提に改良が加えられていたものの、市販されなかった。
英国ではいくら払うべき?
20万ポンド(約3720万円)以上
執筆時、英国市場に販売中のファイターは存在しなかったが、20万ポンド(約3720万円)以上の予算は見込んでおきたい。殆ど乗られていないような、コレクターズ・コンディションの場合は、30万ポンド(約5580万円)程度は覚悟したい。
ちなみに、2022年にSLJハケット社は2台を販売している。写真は、その1台となる2006年式。ブリストル・カーズのデモ車両で、走行距離は7万7000kmを超えていたが、状態は完璧だったという。取引価格は今後も上昇傾向にあるようだ。
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ライト周りが昔のインテグラに似てる