直6といえば世界中のクルマ好きが大好きなエンジンだ。独特の回転フィール、さらに理論上は完璧なバランスなど、常に理想のエンジンとしてとらえられてきた。しかし近年はエンジンの重量を避けたい、より効率的なエンジンへの転換などが進み、どんどん直6を搭載した車種が減っていっているのが現状だ。しかしここにきてベンツがSクラスに直6を搭載。しかもハイブリッドだ。こんなおもしろいクルマはあるのか!! ということで、実際に触れてみました。ジャーナリストが評する「Sクラス+直6+ハイブリッド」。この方程式はどんな解になるのか、迫ります。
文:鈴木直也、国沢光宏、松田秀士、ベストカー編集部/写真:平野学
いま自動車界に必要なのは「名勝負」だ!! ランエボ対インプが遺したもの
■ベンツが直6にマイルドハイブリッドを搭載した意義(ベストカー編集部)
ベンツはいつでも革新的だ。新しい技術やコンセプトが確立すれば、前言撤回(!?)など厭わず果敢に挑戦する。しかも「我々はそれがベストだと判断した」と強気にそれを推進する。
もちろんこれは賞賛の言葉である。つまり、常に技術的なベストを追求すれば、日進月歩のテクノロジー進化により、20年前には考えられなかった技術が現代ではベストの解となることなど、いくらでもある。
自分たちの前言にとらわれて、ベストの選択をできなくなるより、〝今のベスト〟を最優先する姿勢に、ベンツの潔さと技術に対する絶対的な自信を感じたのだ。
20年ぶりの直6エンジンの復活。6気筒エンジンをV型に移行する際に、ベンツは「長くて重い直6エンジンは、衝突安全性の面などから不適である」という趣旨の説明とともにV6への移行を一気に実行した。
直6エンジンが搭載されているとは思えないほどコンパクトなエンジンルーム。向かって左にターボ、右側に電動スーパーチャージャーなどが搭載される
しかし最新の2999ccM256型エンジンは直列6気筒を"あえて"採用することで新時代のパワーユニットとしての可能性を示したのだ。
最大の特徴はクランクシャフト直結の、スターターモーター及びオルタネーターを兼用する16(約19ps)/250Nm(約25.5kgm)を発揮する48Vモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドだということ。
2.5Lエンジン級の250Nmというトルクを考えると「どこがマイルド!?」ともいえるのだが、48V電装を使うことでエアコンコンプレッサーやウォーターポンプなどを電動化。補機駆動ベルトを廃したことでとてもコンパクトな直6エンジンとなっている。
また、この直6はターボ過給なのだが、低速域を電動スーパーチャージャーで補うツインチャージャーとなっているのも特徴的。
つまり発進はモーター、低回転域はスーパーチャージャー、ある程度回転が高まったらターボ過給でトルクを補うというシステムで全域トルクフルな、余裕のドライバビリティを作りだしているのだ。
■ベテランジャーナリストはこう見る "ここがすごい!! 直6マイルドハイブリッド"
【ベンツのエンジニアはやっぱり"内燃機関"が好き】(鈴木直也)
20年ぶりのストレート6復活、48Vマイルドハイブリッド採用で話題を呼んでいるメルセデスベンツS450。新型直6の第一印象は「やっぱりV6とはちょっと味わいが違うゾ」というものだった。
駆動モーター(ISG)によって瞬時に始動するエンジンは、500rpmそこそこのアイドリング時でも「ほんとにエンジンかかってるの?」と確かめたくなるほど滑らか。アイドル停止に入る際も、いつ停まったのかわからないくらいエレガントに振る舞う。
静かにアクセルを踏み込むと、まずは16/250Nmのモーターが発進をアシストし、さらに加速力が必要なら即座に電動スーパーチャージャーがトルクをブーストする。
このへんのトルク感やドライバビリティは、従来のV6ターボとは明らかに異なる。すべてのレスポンスがより活発で、すっきりとしたフリクションのない吹き上がり感が特徴だ。
3000rpmを超えて回転を上げてゆくと、このエンジンのいちばん気持ちいいゾーンが待っている。
回転上昇とともにレシプロ内燃機が生み出すさまざまな音や振動が澄んだ音色に整ってきて、最後には「シューン」というひとかたまりのサウンドとなってドライバーを魅了する。
もちろん、音のボリューム自体は小さくて、遮音された室内からは遠くに聞こえるに過ぎないのだが、上質で洗練されたそのエンジンフィールは「ほんとうはこの味を出したいから直6に戻したのでは?」と勘ぐりたくなるほどセクシーだ。
ドライビングは概ね高評価だ。直6の新解釈として今後のベンチマークになるかもしれない
あえて注文をつけるとしたら、市街地レベルでは9速ATのシフトがややビジーな印象があったこと。シフトプログラムやアクセルレスポンスの「カドをもっと丸めて」、上のギアをキープしてしずしず走るモードがあってもいい。Sクラスはショーファードリブンも視野に入れたような高級車なんだしね。
【アイドリングストップからのエンジン再始動がなめらか】(国沢光宏)
最大の驚きは「滑らか」であること。アイドリングストップ最大の「う~ん」がエンジン始動時の音と振動。Dレンジだと前後方向のギクシャク感もあるのだが、Sクラスは驚くほど滑らかにエンジンがかかる。ここが48Vの大きなモーター使っているメリット。
そして低い回転域から太いトルクを出しているのも驚き!! やはり電動スーパーチャージャーの効力なんだろう。さらに回転数上げていくと、必要にして充分なパワーと滑らかな回転フィールに感心しきり。
これで実用燃費がどのくらいまで伸びるのか気になるところ。東京都内でコンスタントに10km/L以上走り、100km/h巡航でも12km/L以上走ったら激賞しておく。
残念ながら試乗した車両はブレーキの制御がイマイチで停止時にカックンという揺れ戻しあり、発進からのアクセルレスポンスも敏感過ぎる感じ。これは決定的な弱点じゃなくセッティングの問題かと。そう遠からず改良されると思う。そしたらカンペキだ。
【ベルトレスで抵抗低減 それがメルセデスの狙いか!?】(松田秀士)
S450は比較試乗した4LV8ツインターボのS560 4MATICロングに比べて、低速域のフレキシビリティがすこぶるいい。
極低速域はモーター(ISG)でグイッと来て、低中速域は電動スーパーチャージャー、そしてターボと、エンジンを回していくと三種の神器のバトンによって力強く加速する。
目隠しして後ろに乗せられて「どっちがS560?」って聞かれたら、きっと「S450」と答えて"三流評論家"の烙印間違いなし。それくらいよく走ります。しかも燃費よし。
リアにハイブリッドなどを誇示するエンブレムなどはない。今後のスタンダードパワーユニットになりそうだ
で、S450が搭載する48Vのマイルドハイブリッドだが、電圧が60V以下だと事故などのトラブルの時に自動電源切断などの安全保護機構が要らない。48Vで感電死する可能性が低いからで、システムを簡素化できるメリットがある。
よくよく考えると、このマイルドハイブリッドのメリットはいわゆる補助動力としての役割よりも、回生発電した電力でスーパーチャージャー、エアコンコンプレッサー、ウォーターポンプなどを電動化して、ベルトレスにすることで抵抗を減らすことにあるように感じる。
高回転大出力どっかんターボを採用することでダウンサイジングしても充分なパワーを得て、低中速域をスーパーチャージャーで補う。そのスーパーチャージャーの動力源をマイルドハイブリッドに求めた、と考えます。この考え方、賢いです。
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