車の電動化が進む今日でも「EV」=エコ一辺倒のイメージは根強い。実際、肝心の航続距離や充電にもネックがあるし、何せ走りが楽しくないといった“定評”からユーザーの食指はなかなか動かないことも事実。そんな電気自動車の主力車種となるリーフが「e+(イープラス)」を追加した。
リーフ「e+」の特徴は、駆動用リチウムイオン電池の容量を40kWhから62kWhに拡大し、1回の充電で走れる距離が伸びたこと。40kWhの航続距離は新しいWLTCモード走行で322kmだが、62kWhは458kmに達する。比率に換算すれば、62kWhは約1.4倍の距離を走れるようになった。
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もうひとつのメリットは動力性能の向上だ。40kWhは最高出力が150馬力、最大トルクは326kgmだが、62kWhでは218馬力・34.7kgmになる。
航続距離とパワフルさを増した新しいリーフは、EVのネックを払拭できているのか? EVとしてだけでなく、“クルマ”としてみた性能も含めて乗ってわかった実力を解説します。
文:渡辺陽一郎
写真:池之平昌信
結構驚くパワフルさ!? 特に中間加速のノビが秀逸
気になる動力性能は、予想以上に力強い。停車時にアクセルペダルを深く踏み込むと、次の瞬間には駆動力が立ち上がって一気に速度を高める。しかもモーター駆動だから、回転の上昇感覚がスムーズだ。
状況によっては自然吸気の4Lエンジン相当のパワーを感じる。エンジンではアクセルペダルを踏み込んだ後、回転の上昇に伴って動力性能を高めるが、モーターは一気に高い性能を発揮するから反応も鋭い。
モーター駆動の特徴が顕著なのは、40~60km/hで巡航中にアクセルペダルを踏み増した時だ。駆動力が急激に高まり、路面の状態によっては走行中でもホイールスピンを発生する。単純なアクセルペダルの踏み増しで、ここまで駆動力が高まることは珍しい。
しかもモーターは、エンジンと違って動力性能が高まってもノイズはあまり増えない。無音に近い状態を保ちながら、加速力が急増するから独特の迫力を生み出す。
速度の伸び方も従来のリーフに比べて進化した。先代型はモーターの特性として、回転を高めると速度の伸びが次第に鈍くなったが(極端にいえばディーゼルの性格に似ていた)、62kWhの新型「e+」では少なくとも法定速度域では伸び悩みを感じない。現行型の40kWhになって、速度の伸びが持続するようになり、62kWhではさらに鋭い加速が長時間続くようになった。
ノートやセレナのe-POWERと同様、ワンペダルドライブも行える。「e-Pedal」のスイッチを入れると、アクセルペダルを戻すと同時に、積極的な回生充電を開始する。駆動用モーターが効率の良い発電を行い、駆動用電池に充電すると同時に、強めの減速力を発生させる。アクセルペダルを踏んだり戻すだけで、速度を自由に調節することが可能だ。
リーフでは、アクセルペダルの戻しによる通常の減速はモーターだけで行うが、雪道のような滑りやすい路面では、4輪のディスクブレーキも併用する。安定した減速が行えるようになった。アクセル操作だけで、強力な加速から減速までをコントロールできるのは、運転感覚としても楽しい。
車として見た基本性能の長所と短所は?
走行安定性は、EVというキャラクターを考えると、良く曲がる印象が強い。操舵角に応じて車両が内側を向きやすく、旋回軌跡を拡大させにくい。峠道などを走りやすく、スポーティな印象だ。
この背景には、駆動用電池を低い位置に搭載する重心の低さに加えて、「インテリジェントトレースコントロール」の効果もある。カーブを曲がる時に、内側のブレーキを制動して、旋回軌跡の拡大を抑える制御だ。
良く曲がる代わりに欠点もある。危険回避を想定して、カーブを曲がっている最中にハンドルをさらに切り増しながらアクセルペダルを戻す操作をすると、後輪の接地性が下がりやすい。
この性格は40kWh仕様が強く、62kWhの「e+」はボディ剛性の向上やサスペンション設定の最適化で安定性を高めたが、それでも同様の傾向は残る。駆動用電池の容量を拡大したことで、車両重量が40kWhに比べて約160kg重くなったから、挙動の変化が拡大しやすい面もある。
現行リーフのプラットフォームは先代型と同じで、ボディ骨格も部分的に共通化した。62kWhの強力な動力性能は、現行リーフのボディには許容範囲ギリギリという印象だ。開発者は「62kWh以上の高出力をリーフのボディに与えることは難しい」という。これ以上パワフルにしたら、ボディと足まわりが負けてしまう。
こういった点を考えると、リーフ「e+」のパワーユニットは、さらに上級のEVに相応しい。低回転域の駆動力からアクセル操作に対する反応、高回転域の伸びまでレベルが高いから、Lサイズの上級セダンにも搭載できる。
走行安定性は「不満」も乗り心地は「快適」
ラインナップで不可解なのは、専用のサスペンションや18インチタイヤを装着したリーフ 「NISMO」が、現時点では62kWhの「e+」に対応していないことだ。この性能に相応しいのは、どう考えても足まわりとタイヤを強化したNISMOだから、「e+」の設定と同時に用意すべきだった。
「e+ NISMO」は今後設定されるが、タイミングが遅い。今の日産は、国内で発売される新型車を1~2年に1車種と極端に減らしているから、限られたニューモデルはもっと周到に発売して欲しい。
それから「e+ X」のタイヤは、16インチ(205/55 R16)になる。グリップ力と動力性能のバランスを考えると、「e+ G」と同じ17インチにすべきだ。
走行安定性は不満だが、乗り心地は快適だ。40km/hを下まわる速度域では少しコツコツと硬めに感じたが、この領域を上まわると、路上の細かなデコボコを伝えにくい。乗り心地に関しては、車両重量の増加が良い方向に作用した。
エンジン車の燃費に相当する交流電力量消費率は、WLTCモードで40kWh仕様が155wh/km、62kWh仕様は161wh/kmだから、1km当たりの消費量は少し増えた。それでも62kWhは、前述のように駆動用電池の拡大で、1回の充電により約1.4倍の距離を走れるメリットがある。
日産によれば、WLTCモードで458kmなら、1日当たりの走行距離は十分にカバーできるという。とはいえ、ガソリンエンジン車の実用燃費が15km/Lで、35Lの燃料があれば525kmを走行できる。458kmでは長距離を走れるとはいえないが、実用面の不都合は生じないとしている。
62kWhでは、急速充電器の使い勝手も向上する。40kWhと同じ時間充電すると、62kWhなら1.4倍の電気を蓄えられる。高出力タイプの急速充電器も利用可能だ。
EV特有のネックは減った? リーフe+の「買い得度」
最近の日産ディーラーは急速充電器の設置を進め、全国に1890基を設けた(日産の国内店舗数は約2100箇所)。これを受けて「自宅に充電設備を持てないマンション住まいのユーザーでも、リーフを所有できる」と宣伝している。
ただし、そうなるとディーラーの急速充電器を頻繁に使う。先代リーフの時は、開発者が「急速充電器の連続使用は好ましくない」とコメントしていた。
そこで62kWhの現状を改めて開発者に尋ねると「理想的には普通充電も併用した方が好ましい。ただし急速充電だけを行っても、耐久性に不都合が生じない信頼性を得ている。そして62kWhは、40kWhに比べて、急速充電による劣化がさらに少ない」という。
試乗した「e+ G」の価格は、本革シートも標準装着するから472万9320円と高い。「e+ X」は416万2320円で、40kWhの「X」を50万1120円上まわる。ただし、オプションとなる6kWhの普通充電器を標準装着したから(Xに装着されるのは3kWh)、実質価格差は約39万円に縮まる。
補助金額は2018年度の実績で40万円だ。電気自動車ではこの金額が上限で、40/62kWhともに同額になる。
以上のように62kWhの「e+」は航続可能距離が長く、動力性能も高まり、急速充電器の使用による劣化も抑えられるなど、複数のメリットを備える。この対価が約39万円だ。パワフルで乗り心地も快適、航続可能距離も伸びるから、高速道路を使った移動を頻繁に行う用途にも適する。
そして、今後「e+ NISMO」が設定されると、パワフルでスポーティな走りも楽しめるようになる。リーフを何台も乗り継ぐファンにとっては、待ち遠しいモデルだろう。
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