■カッコ悪い? それとも個性的? 賛否両論となりそうなフェラーリたち
フェラーリは、自動車の世界における「美」の象徴であり、時空を超えた美しさこそがスーパーカー界の盟主として長年君臨する重要なファクターとなっていることは、クルマ好きであれば誰もが認めるところであろう。
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しかし、そんなフェラーリであっても例外がないわけではない。ことに、オーナーの個人的な嗜好や、想定される使用目的に応じてビスポーク的に製作されるワンオフ(一品製作)車両では、常人がフェラーリに抱くイメージを大きく超えるような事例、つまり、個性が強すぎてカッコ悪くも見えるようなモデルが、しばしば生み出されてきたのである。
今回VAGUEでは、筆者の独断と偏見による「賛否両論を巻き起こしそうなフェラーリ」を3台ピックアップして、紹介することにしよう。
●1967 フェラーリ「330GTシューティングブレイク by ヴィニャーレ」
まず紹介したいのは、1967年にワンオフで製作されたフェラーリ「330GTシューティングブレーク」だ。
アメリカ東海岸側におけるフェラーリの正規ディーラーで、フェラーリがスポーツカー耐久レースにエントリーする際には、サテライトチームとして活躍した「N.A.R.T.(North America Racing Team)」のオーナーでもあったルイジ・キネッティ親子が、自社顧客のリクエストに応え、1965年型「330GT2+2」をベース車両として、イタリアの名門「カロッツェリア・ヴィニャーレ」に依頼して製作されたといわれている。
名匠アルフレード・ヴィニャーレが率いるカロッツェリア・ヴィニャーレは、ピニンファリーナがフェラーリのコーチワークを(ほぼ)一手に引き受けるようになる以前には、「トゥーリング・スーペルレッジェーラ」と並んで、数多くのフェラーリにボディ架装をおこなっていたカロッツェリアである。
1950年代には、盟友ジョヴァンニ・ミケロッティのデザインによる個性的なボディをフェラーリ各モデルに架装していたが、このシューティングブレークではヴィニャーレが自らデザインワークも主導していたとされる。
個性的なスタイリングは、ジョット・ビッザリーニ技師がフェラーリを退職したのち、1962年に製作したレーシングGT「フェラーリ250GT SWBブレッドバン」の影響を受けたともいわれている一方で、21世紀にシューティングブレーク・スタイルで登場する「FF(フェラーリ・フォー)」に影響を与えたとする見方もあるようだ。
ベースモデルとされたフェラーリは、1964年から1968年まで生産された330GT 2+2。4リッターV型12気筒SOHCユニットを搭載する4シーターモデルである。
ホイールベース2650mmという、当時のフェラーリではもっとも豊満なシャシを生かして、ヴィニャーレは先鋭的、かつダイナミックな4シーター・ワゴンボディを創りあげるに至った。
そして、ヴィニャーレ製330 GTシューティングブレークにおける重要なトピックとして挙げたいのは、アルフレード・ヴィニャーレがこの世を去る前にデザイン・製作を手掛けた最後のフェラーリであるということだ。
加えて、フェラーリ・コレクターとしても知らせる世界的ポップスター、「ジャミロクワイ」のジェイ・ケイ氏が、2011年から約4年間にわたって所有し、フェラーリ公式HPにも登場したというエピソードも、この個性あふれるフェラーリを彩る重要なトピックといえるだろう。
●1987 フェラーリ「モンディアルPPGペースカー」
賛否両論を巻き起こしそうなフェラーリ3選の2台目は、1987年に「モンディアル」をベースとし、1台のみが作られた「モンディアル PPGペースカー」を選んだ。
このクルマは、アメリカのフォーミュラレース最高峰「インディカー」シリーズの冠スポンサーだった化学メーカー「PPG」の主導により、1980年から1997年にかけて、様々なジャンルのレースで認められた14人の女性ドライバーによるチームを擁して運営された「PPGペースカープログラム」の一環として製作されたものとのことである。
ボディデザインは、この時代におけるフェラーリの定石であるピニンファリーナではなく、フィアット・グループの保護のもと1978年に設立されたデザインスタジオ「I.DE.A(イデア)」が担当したといわれている。
同時代のイデア作品「フィアット・ティーポ」を連想させるような、ややずんぐりとしたフォルムは、たしかに好みが分かれるだろう。しかし、ピニンファリーナのオリジナルよりもキャビンの拡大を図ろうとした、新しいパッケージングへの試みや、ラジエーターグリルなどに見受けられる、クラシック・フェラーリのモチーフを導入したスタイリングには、1990年代以降のフェラーリへの影響も感じられる。
もうひとつ興味深いのは、製作年次が「モンディアル3.2」時代に相当する1987年から1988年であるにもかかわらず、翌1989年にデビューする「モンディアルt」の縦置きミドシップ・レイアウトと、3.4リッターのエンジンが先んじて導入されていることである。当時撮られた写真を見ると、たしかにフェラーリ「348tb/ts」にも共通するV8エンジンが縦置きされていることが確認できる。
これは筆者の推論に過ぎないのだが、このPPGペースカーではスタイリング/エンジニアリングともに、次世代の2+2ミッドシップをピニンファリーナ以外の選択肢とともに模索する目的も含まれていたかに感じられるのだ。
ともあれ、実戦配備されたこのユニークなフェラーリは、米国「PPGインディカー・ワールドシリーズ」各レースのペースカーとして活躍したのち、1990年代中盤までヨーロッパ中のさまざまなサーキットおよびショーイベントにも登場したという。
蛇足ながら、世界でただ1台のモンディアルPPGペースカーは、2004年7月に「クリスティーズ」社のオークションに出品され、7万500ポンドで落札。現在でもその時の落札者が保有しているとされるが、当時の為替レートからすれば1500万円前後で入手できたというのは、クラシックカーのマーケット相場価格が暴騰してしまった今となっては、とてもリーズナブルな買い物だったかにも思われる。
■こんなフェラーリもあった!? シリーズ生産されなかったのも納得
3台目にセレクトしたのは、フェラーリ「412」のコンポーネンツを使用したスペシャルモデルだ。ミラノ近郊に拠点を置き、現在ではスーパーカー/高級クラシックカー専門ディーラーとして活動を続けている「パヴェージ(Pavesi)」が企画・製作した、4シーターのカブリオレである。
●1989 フェラーリ「412 ヴェントロッソ by パヴェージ」
パヴェージ社は「スクーデリア・フェラーリ」と同じ、1929年に創業された時から「カロッツェリア(Carrozzeria:ボディ架装工房)」を名乗っていた。当初は霊きゅう車などの特装ボディなどを製作していたそうだが、第二次世界大戦後はオリジナルボディを製作することはほとんどなくなり、自動車メーカー製の既成ボディをベースに改装を加えることが主な生業だった。
20世紀後半は、アルファ ロメオ製ベルリーナ(セダン)をベースとするワゴンボディや、デ・トマゾ各モデルのオープン版など、自動車メーカーの準カタログモデルの少量製作を引き受ける一方で、フェラーリについては「365GTB/4デイトナ」をベースとするタルガトップ風スパイダーモデルを独自に製作。さらに1980年代後半には「400i」や「412」をベースに18台のカブリオレを改装して、当時のフェラーリ本社から公認も受けていたという。
そんなパヴェージが、久方ぶりに手掛けた完全自社製ボディのクルマが、1989年にフェラーリ「412GT(5速マニュアルトランスミッション付き)」をベースとして架装した「ヴェントロッソ」だった。
「Ventorosso(=赤い風)」の名が示すように、真紅のボディはパヴェージの自社デザインとのこと。すべてのボディパネルは新たに作り直され、同時代のスーパースター「テスタロッサ(Testarossa)」を意識したかのような、ウェッジシェイプを強調したスタイリングとされている。
一方、幅広のラジエーターグリルを組み込んだフロントバンパーは、328シリーズやモンディアルを思わせる形状で、バンパーと一体化したフロントスポイラーは、テスタロッサや348系にも似ている。テールエンドにも、テスタロッサのスタイルを導入したと思われるガーニッシュが取り付けられ、その直下に4灯丸型のテールランプが取り付けられた。
また、オリジナル412のポップアップ式から、固定式とされたヘッドライトはより乗用車然としたデザインに変更されている。
パヴェージ社では一定数のオーダーさえ入れば、少量ながらシリーズ生産も目指していたとされるが、やはり個性的すぎる(?)スタイルゆえか、この1台のみで終わってしまったとのことである。
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みんなのコメント
この頃のフェラーリはよくも攻めたデザインが際立ってる。