■ハイスペックe-POWERシステムの特徴は「マルチモーター・オールホイールドライブ」
3月5日に開幕したジュネーブモーターショーからは各社がプレスカンファレンスを実施するごとに刺激的な情報が届いています。その中で印象深いのは電動化への対応でしょう。欧州でCAFE規制(会社ごとの平均燃費基準)がいっそう厳しくなることが予想される中で、もはや電動化を無視していては自動車会社の持続可能性を守っていけないという状況です。
日産が欧州でのe-POWER投入をアピールするコンセプトモデル「IMQ」をお披露目
一部の高価格車にプラグインハイブリッドを展開してきたドイツ系メーカーに対して、日本の自動車メーカーは低価格帯の普及モデルからハイブリッドカーを設定。電動車両の量産についてはサプライチェーンを含めて一日の長がある状態。その意味では、CAFE規制に慌てている様子もなく、粛々と進めていけば対応できるという自信さえ感じます。さらに言えば、欧州市場のトレンド変化を電動化のバリエーション増の追い風にしようというしたたかさも感じさせるのです。
その象徴的といえるのが、日産が世界初公開したコンセプトカー「IMQ」ではないでしょうか。日本でもっとも売れている登録車「ノート」の原動力となった「e-POWER」の欧州市場への投入をアピールするべく生み出されたといっても過言ではない「IMQ」は、まさしく電動パワートレイン「e-POWER」を搭載したクロスオーバーのコンセプトカーです。
ご存知のように日産「e-POWER」とはガソリンエンジンを効率よく使って発電機を回し、駆動はモーターのみで行なうというシリーズハイブリッドです。日本ではノート、セレナの2車種に搭載されていますが、いずれも1.2L 3気筒エンジンとしています。駆動はトルクフルなモーターが担うことにより、小排気量エンジンでも多人数乗車のミニバンを走らせることができることを証明しています。つまり展開力のあるパワートレインというわけです。
ジュネーブモーターショーで発表した「IMQ」についてエンジンスペックは公表されていませんが、イメージ映像で見る限り3気筒エンジンを積んでいるようです。しかし、このパワートレインは『ハイスペックe-POWERシステム』と呼ばれています。その特徴は、フロントだけでなく、リアにも同等の駆動モーターを配した「マルチモーター・オールホイールドライブ」になっている点にあります。ノートに追加された「e-POWER 4WD」の後輪用モーターは発進時のアシストを担うだけの小型サイズですが、ハイスペックe-POWERシステムは常時四輪駆動を可能とするサイズのモーターが備わっているのです。
前後に同等のモーターを置くシリーズハイブリッドとしては、三菱アウトランダーPHEVのパワートレインが似たようなプロフィールを持っているといえます(アウトランダーの場合はエンジン直結モードもあります)。すなわち、ハイスペックe-POWERシステムでは前後の駆動力コントロールによるハンドリングの改善が期待できるわけです。また、四輪で回生ブレーキをかけることによるワンペダルドライブ(日産でいうところの「e-ペダル」)の幅を広げる可能性も感じさせます。
現在、電気自動車リーフのe-ペダルは回生ブレーキとメカブレーキを併用していますが、ハイスペックe-POWERシステムになると、ほとんどの領域が回生ブレーキだけでカバーできるかもしれません。前述したCAFE規制はCO2がメインテーマですが、ブレーキダストによる大気汚染もチラホラ話題となっている昨今、メカブレーキをほとんど使わずに走行可能となれば、その点においても大いに注目を集めそうな日産のハイスペックe-POWERシステムです。
文:山本晋也
自動車コミュニケータ・コラムニスト
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