ドライコンディションのもとで行われていた2021年F1第15戦ロシアGPの決勝レース。後方からは最後尾スタートのマックス・フェルスタッペンが追い上げ、上位ではタイヤ交換タイミングをめぐって様々なやり取りが繰り広げらた。そして終盤には雨が降り始め、各車のピットストップのタイミングが大きく結果を左右することに。ロシアGPを無線とともに振り返る。
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【F1第15戦無線レビュー(1)】「リヤが厳しい」「左フロントにグレイニング」序盤は各車タイヤに苦しむ展開に
最後尾から6番手まで順位を上げたマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)のペースは、その後も衰えない。ファステストを更新し続け、2台前にいるルイス・ハミルトン(メルセデス)とのギャップを縮めていく。一方のハミルトンは、2番手ダニエル・リカルド(マクラーレン)を抜きあぐねていた。
ハミルトン:アンダーカットの準備をしてくれ
リカルドより先にピットインして、順位を入れ替えようとしたのだった。しかしその無線を聴いていたリカルド側が、先手を打って22周目にピットに向かった。ハミルトンはその4周後にピットイン。フェルスタッペンも同時に入った。
前が空いたハミルトンは一気に1秒以上ペースを上げ、ハードに履き替えてコース復帰した時にはリカルドの2秒以上前にいた。「アンダーカット云々」の無線は、リカルドを先にピットインさせてフリーエアを得ようという陽動作戦だったということか。
一方、素晴らしいペースで順位を上げていたフェルスタッペンは、フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)相手にがくんとペースが落ちていた。
フェルスタッペン:クルマが曲がらない!
近づきすぎて、フロントタイヤがダメになってしまったのか。
フェルスタッペン:とにかく食い下がるよ
そろそろタイヤ交換したいランド・ノリス(マクラーレン)には、こんな無線が飛んだ。
ウィル・ジョゼフ(→ノリス):ベッテルとのギャップは、25秒4だ。ほとんどドイツ的状況だ。できるだけスティントを伸ばせ。ただしリスクを犯すな
「ほとんどドイツ的状況(almost Germany situation)」とは何を指すのだろう。いずれにしても21、22周目の時点でピットインした場合、ノリスはセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)の前7番手あたりまで順位を落とす恐れがあった。
しかしその後、リカルド、ハミルトン、フェルスタッペンと上位勢が次々にピットインし、状況は一変した。28周目にピットインしたノリスは、4番手でコース復帰を果たした。
序盤に首位を奪いながら、早めのピットインが裏目に出たカルロス・サインツ(フェラーリ)は、26周目の時点で9番手にとどまっていた。
リカルド・アダミ:このまま行けば、5位フィニッシュが期待できるぞ
サインツ:たったの5位かい!
優勝が十分視野に入っていたサインツにしてみれば、アダミの言葉は何の慰めにもならなかった。
ハードタイヤに履き替えたノリスは、37周目には再び首位に返り咲いた。しかし背後からは、ハミルトンが迫る。我慢できなくなったのか、トト・ウォルフ代表が無線に直接出てハミルトンを励ました。
ウォルフ:ルイス、このレース勝てるぞ
30周目に約8秒あったノリスとハミルトンの差は、37周目には一気に2秒1まで縮まっていた。
ハミルトン:いいペースで走ってるよね?
ピーター・ボニントン:ああ、まったくその通りだ
対照的にノリスはどんどんナーバスになり、ジョゼフの言葉も自分の集中力を乱す雑音にしか聞こえないようだった。
ジョゼフ:ペレスはピットが遅かった。3番手はサインツだ。それから……
ノリス:わかった、わかった
レース終盤に差し掛かる41周目前後、ボニントンがハミルトンに降雨の可能性を伝えた。
ボノ:ルイス、レース終盤に雨の可能性があるよ
そして46周目あたりから、ターン5方面から雨が降り始めた。
ジャンピエロ・ランビアーゼ:どんな感じだ?
フェルスタッペン:霧雨が降ってる
ジョゼフ:ランド、観客席の傘が開いてる
ノリス:そうだね。けっこう滑ってる
47周目には、ついにハミルトンが1秒以内に迫った。ノリスはターン5で止まりきれずコースを飛び出すが、なんとかハミルトンを抑えた。
この周にバルテリ・ボッタス(メルセデス)やジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)がインターミディエイトタイヤに履き替える。そして48周目にはフェルスタッペン、サインツもピットに向かった。
ジョゼフはノリスがいつクラッシュしてしまうか、気が気ではない。
ジョゼフ:路面はすごく滑りやすい。ターン10でみんなオフしてる
ノリス:黙れ!
ジョゼフ:インターを考えろ
ノリス:いやだ!
ハミルトンもピットインの決断がつかないようだった。それに対してボノが冷静に、そしてピシャリと言い渡した。
ハミルトン:雨が止むんじゃないのか?
ボノ:いや、ボックスだ、ボックス
こうして49周目にピットインし、2番手をキープしたままノリスを追う。だがその差は、15秒まで開いている。
ジョゼフ:ハミルトンが入ったぞ
ノリス:いや、ステイだ
ノリスがここまでジョゼフに反抗し続けるのも珍しい。せっかく奪い返した首位の座、初優勝の可能性を、なんとしても失いたくなかったのだろう。だが51周目、ついにノリスはピットインを決断する。しかし時すでに遅しだった。
ノリス:ボックスだ。これ以上は無理だ
ジョゼフ:わかった
こうしてハミルトンが劇的な逆転優勝。通算100勝の偉業を達成した。フェルスタッペンも2位をもぎ取り、3位にはサインツが入った。
ボノ:やったぜ、100勝だ!最後の(無線に対する)リアクションは素晴らしかったよ。もちろん素晴らしい運転だった
ハミルトン:みんなの努力だよ。キツかったけどね。100に行くまで、けっこうかかってしまった。でもみんなが頑張ってくれたおかげだ
レッドブル・ホンダ陣営も、優勝したような喜びようだった。
ランビアーゼ:P2だ、グッドジョブ。これなら行けるぞ
フェルスタッペン:そうだ、行けるぞ。あのラップしかなかった。最高のコールだった
クリスチャン・ホーナー代表:いい判断だ。正しいラップだった
フェルスタッペン:今日はポイントをそんなに失わずに済んだよ
ランビアーゼの「これなら行けるぞ(We'll take that.)」という言葉は、タイトル獲得の手応えを指す言葉だったのだろうか。確かに不利が予想されるコースでも今回のような結果が残せれば、初戴冠も十分に可能だろう。
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