モダン・アストンの象徴といえるDBS
グレートブリテン島の南西部、コッツウォルズの丘陵地帯には、アストン マーティンDBS770アルティメットの実力を引き出すのに相応しいルートが広がっている。DBSスーパーレッジェーラからの進化ぶりを、じっくり確認することができる。
【画像】高まるDB12への期待 アストン マーティンDBS770アルティメット 競合モデルと比較 全160枚
3速や2速へシフトダウンする、きついカーブが連続して待ち構えている。アスファルトは、イン側が滑らかでも、アウト側は波打っているということが珍しくない。表面を砂が薄く覆っている区間もあれば、水たまりが残っている場所もある。
AUTOCARの試乗評価では定番といえるエリアで、筆者もこれまで数え切れないくらい走ってきた。従来のDBSが、難なく通過できることは確かめている。しかし、必ずしも常に爽快に飛ばせるわけではなかった。
フロントノーズは長くボディはワイドで、意のままにコーナーへ食らいつかせていける自信を抱きにくかった。反応に若干の曖昧さがあるステアリングと、グランドツアラー的な快適志向のサスペンションが、鮮明な感触に水を指していた。
現代のアストン マーティンの象徴といえるDBSスーパーレッジェーラだが、コーナー出口での鋭い脱出加速の姿勢を整えるのに、僅かな時間も必要としていた。V型12気筒エンジンが本気を出すと、リアアクスルは一時的に耐えきれず、身震いする瞬間も。
最大トルクは91.6kg-mと極太。惜しみなく発揮させるには、相応の覚悟も求められた。
5.2L V型12気筒ツインターボは770ps
しかし、最新のDBS770アルティメットはマナーがまるで異なる。緻密に、意味のある改良が全体的に施されている。その仕上がりは、別次元なほどに高い。
トリッキーなカーブへ鋭く滑らかに食らいつき、瞬間的に安定した状態へ推移する。路面の不整を見事になだめ、ストレートへ向けたフルスロットルをドライバーへ促す。
加えて、どんな道でも乗り心地は安楽。コーナリング性能を大幅に高めつつ、従来のDBSスーパーレッジェーラ以上に平穏に長距離をこなせるだろう。
誤解を恐れずに表現するなら、トヨタGR86へ増強剤を限界まで注入し、BMW M5 CSと同等の水準まで能力を引き上げたようなもの。素晴らしいクルマが、一層素晴らしくなったといえる。
アストン マーティンがDBS770アルティメットへ施した内容は興味深い。ワンオフモデルのヴィクターからインスピレーションを受けた、ゴージャスなアルミホイール1つ取ってみても、際立つ訴求力がある。
5.2LのV型12気筒ツインターボエンジンはブースト圧を高め、最高出力が770psまで上昇した。DBSスーパーレッジェーラ比で45psの増強となり、同社の量産モデルとしては過去最強に位置する。
最大トルクは変わらないが、理由はZF社製の8速ATが許容できなくなるため。それでも、1770kgのボディをロケットのように加速させるには充分以上。0-100km/h加速は、3.2秒がうたわれる。
ちなみに、カタログ上の車重は通常のDBSと変わらない。だが実際は、770アルティメットの方が僅かに軽いという。
次期DB12への期待を膨らませるマニフェスト
91.6kg-mというトルクが放つ中間加速の怒涛ぶりに、ドライバーは笑みを堪えきれないだろう。助手席の友人は、叫びながら神へ祈るかもしれない。最高速度は339km/hでリミッターが掛かる。そこまでは、問題なく出せる。
ほかにも、グラマラスなエアアウトレットが切り込まれたボンネットや、宇宙船に装備されていそうなカーボンファイバー製バケットシートは専用品。いずれもV12ヴァンテージから着想を得たという。
とはいえ、重要なアップデートを施されたのはシャシー。770アルティメットは2018年に登場したDBSシリーズの最後を飾る限定仕様であり、DB11の後を継ぐことになる、次期DB12への期待を膨らませるマニフェストだともいえる。
次世代への先導者として、ブランドを加勢させる重要な責務を負っている。この見事な仕上がりを踏まえると、DB12はフェラーリ・ローマのライバルになるだけでなく、それを上回る能力を備える可能性もあるかもしれない。
同時に、限定モデルとしてコレクターズアイテム化することも間違いない。DBS770アルティメットのクーペは300台、コンバーチブルのヴォランテは199台が製造されるが、既に完売状態にあるという。
ちなみに、英国価格は31万4000ポンド(約5055万円)だった。DBSスーパーレッジェーラから5万7000ポンド(約917万円)増しとなる。
この続きは後編にて。
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