日本独自の基準によって生まれた軽自動車は、典型的なドメスティックカーだ。そのため、税制面でも優遇されている。
今では日本の新車販売の約40%を占めるにまでになり、現在の日本のクルマ界を支えていることは間違いない。
売れまくり軽ソフトSUV頂上決戦 スズキハスラー対ダイハツタフト 全面対決
世界の自動車メーカーにとって高効率化とグローバル化は必須だ。いくらドメスティックカーとはいえ、動力性能、快適性能、安全性能のすべてで大きく進化してグローバルカーであるコンパクトカーにも負けるとも劣らない進化を遂げている軽自動車を日本だけで販売するのはもったいない。
なぜ軽自動車は一部の車種を除き海外で販売されていないのかについて、御堀直嗣氏が考察する。
文:御堀直嗣/写真:SUZUKI、DAIHATSU、MITSUBISHI、NISSAN、HONDA、OPEL、PEUGEOT
【画像ギャラリー】日本の軽自動車は実はドメスティックカーではなかった!? アメリカ、ヨーロッパで販売された軽自動車10選
現代の軽自動車の性能は大きく進化
軽自動車の性能向上は驚くべき段階に入っている。世界的なプラットフォーム戦略が、軽自動車にも及び、単に部品を流用するというかつての原価低減ではなく、一つのプラットフォーム構想から多彩な車種展開と性能や品質の向上を目指すことのできる新車開発へ転換している。
動力においても、自然吸気エンジンとターボエンジンの燃費性能の差が縮まり、ターボエンジンを上手に運転すれば、あえて自然吸気エンジンを選ばなくても優れた燃費を実感できそうな状況になっている。
高速道路の移動は軽自動車にとって大きな課題だったが、最近の軽自動車はNAでも不満のない走りを実現している
そのターボエンジン車は、登録車のコンパクトカーを選ぶ必要性を感じさせないほど、ゆとりある快適な運転ができる。
加えてマイルドハイブリッドがスズキや日産/三菱自で採り入れられ、本来は燃費性能向上の電動化であったはずだが、上質さを高める副次効果もあり、軽自動車を快適なクルマにしている。
さらには、高齢者によるペダル踏み間違い事故などの影響を受け、運転支援機能が搭載される動きとなり、全車速追従型アクティブクルーズコントロールや、車線維持機能なども搭載されるなど、装備の面でも登録車との差がなくなりつつある。
軽自動車はパッシブセーフティ、アクティブセーフティの両面で大きく進化しているため、軽自動車は危ない、というイメージは薄れてきている
衝突安全では、コンパティビリティ(共生)の考え方が導入され、国内の衝突安全性能では登録車と同様の内容で評価されるようになり、自動車メーカーにおいても、軽自動車と登録車をオフセット衝突させ、被害を確認するといったことが行われている。
こうなると、ガラパゴスなどと揶揄され、国内専用車種として存在するだけではもったいない性能を軽自動車は持つに至ったといえるのではないか。
軽自動車の技術が海外でも通用するのは明らか
かつても、軽自動車をそのままではないが、たとえばスズキのワゴンRは、軽自動車を活かしながら車格を上げたワゴンRワイドという車種を生み出し、国内にも販売したが海外へ展開した例がある。
ことに、スズキやダイハツといった自動車メーカーは、軽自動車で培った技術を、新興国向けの車種に展開した例がある。
ワゴンRをベースにコンパクトカーに仕上げたワゴンRワイドはオペルに供給されて、オペルアギーラとして販売されて人気となった
ダイハツは、現行のタントからDNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を採り入れ、そこから生まれたプラットフォームは、当初から新興国向けの新車開発も視野に入れて作られている。
国内においても、DNGAを活用した登録車のコンパクトSUVであるロッキー/ライズを売り出し、ライズは国内の新車販売で1位を獲得するほどの人気だ。
軽自動車開発の技術が、海外市場においても通用することは間違いないだろう。しかし、なぜ軽自動車そのものが海外へ輸出される例が限られるのだろうか。
ダイハツはタントでDNGAをデビューさせた。軽自動車、小型車、海外車すべてを見据えて設計されているから今後が楽しみ
日本と欧州の異なる交通環境への対応
日本人のカーデザイナーで、現在イタリアで活動中の知人は、欧州ではそれなりの速度でクルマを走らせることが多いため、たとえばスーパーハイトワゴンのような背の高いクルマは見た目の印象から横転するのではないかと心配され、選ばれにくいのではないかと語る。
日本で大人気のスーパーハイトワゴン軽自動車は、全高が高いため不安定そうに見えるかもしれないが、実際は安定性はかなりのレベル
欧州では、都市内や町中を除き、郊外に出ると一般公道を80km/hで走ることができる。高速道路は、ドイツのアウトバーンを除いて130km/h制限が広く適用されている。そうした道路環境で、欧州の人々はクルマが持つ性能を最大に引き出して走ろうとする。
また郊外の道路で片側一車線が多いのは日本と同様だが、見通しのきく区間では追い越しが許され、欧州の人たちは前のクルマをどんどん追い越して先を急ぐ。
軽自動車が、速度制限を守ってのんびり走る日本の田舎の風景とはまったく違う交通環境が欧州にはある。
最近の軽自動車は軽量化しつつもハイテン材を積極的に使うことで高剛性ボディを実現。軽量化しながらも衝突安全性の向上にも貢献(イラストはN-WGN)
衝突安全に対して欧州の人々が厳しい目を持つのも、高い速度からの衝突事故が現実的であるためだろう。もちろん、国内で登録車と軽自動車の衝突実験は行われており、基準を満たす意味では合格かもしれない。
だが、実験を見学すると、当然ながら小さくて軽い軽自動車は登録車に跳ね返されて、道路を飛び出さんばかりとなる。二次事故という視点で考えると、やはり怖いとの思いにもなるだろう。
欧州では小さなクルマの需要が高い。Aセグメントよりも小さい軽自動車は絶対魅力的に映るハズ(写真はトヨタが欧州で販売するAセグメントのアイゴ)
いっぽう、世界的に交通事故による死亡者ゼロを目指す動きがあり、クルマの速度について再考される時期が訪れるかもしれない。
例えばボルボは、世界で販売する新車の最高速度を時速180km/hまでとすると表明し、それはアウトバーンのあるドイツでも同様である。日本の軽自動車の実用性と合理性の高さが注目される機会があるかもしれない。
海外で販売実績のある軽自動車
実は、軽自動車がそのまま輸出されている例はある。一台はスズキ・ジムニーであり、もう一台は三菱自の軽電気自動車(EV)i-MiEVだ。
ジムニーには、シエラという登録車扱いになる車種があり、これも輸出されているが、海外でも山岳地帯などでシエラでは大きすぎる道があるという。
そうした道路環境において、4輪駆動車としての悪路走破性に優れながら、軽自動車規格の車体寸法の小柄なジムニーが、重宝するのだそうだ。
ジムニーをベースにオーバーフェンダーを架装し、1.5Lエンジンを搭載するシエラ。欧州ではシエラをジムニーとして販売
スズキとしても、海外での販売台数が一定量見込めるので、長い歴史を途切れさせることなく、モデルチェンジをして世代を重ねることができている。
i-MiEVは、海外で販売されている台数がやや多く、またフランスのPSAへOEM供給が行われ、プジョーiOn(イオン)やシトロエンC-ZEROとして販売されてきた。
現在は、衝突安全性能の改善のため車体全長が伸びて国内でも登録車扱いとなっているが、基になったiというガソリンエンジン車の外観などもフランス人の心をとらえたのだろう。もちろん軽EVとしての実力も評価されたのだと思う。
三菱i-MiEVは北米、欧州ともに輸出されていたが、PSAグループにOEM供給され欧州でも人気となっていた。写真はプジョーiOn(イオン)
海外で販売するなら国内限定の性能と原価の見直しが急務
では改めて、軽自動車が欧州も含めた海外で販売されるための課題は何だろうか?
やはり、国内専用として企画されてきた性能や原価に対する考え方を、見直す必要があるのではないか。
軽自動車も国内では100km/hで走れるが、それでも走行安定性の指標は国内の一般道が主体ではないだろうか。
スーパーハイトワゴン軽自動車で抜群の走りのポテンシャル持っているのが日産ルークス/三菱eKスペースで、これなら欧州でも通用する
これに対し、日産ルークス/三菱eKスペースは、日産でスカイラインGT-Rの開発に携わった実験担当が、「軽自動車だから登録車と違っていいということにはならない」と、こだわりをもち、優れた操縦安定性と乗り心地を両立した。
これならば、欧州の人たちが一般公道を80km/hで日々運転しても、納得できるのではないか。
原価については、利益が薄い軽自動車であるからと、ホンダN-WGN(エヌ‐ワゴン)を除いて、ハンドルの前後調整機能であるテレスコピックを装備しない状況が続いている。
ホンダN-WGNにはどんな体系の人でも運転しやすいようにステアリングにチルトだけでなくテレスコピックが付加されている。これは全軽自動車に欲しい機能
軽自動車が、小柄な人でも運転しやすいようにとの視点から運転席の基準を設けていることに加え、テレスコピックは原価が上がるので装備しないのが軽自動車およびコンパクトカーの常識となっているようだ。
しかし、DNGAの新興国向け車両では、テレスコピックを装備するという。
日本人の体格も大きくなってきているが、海外に出すのであれば、様々な体格の人でも正しい運転姿勢がとれるクルマでなければならない。
小柄な体格の人を顧客層の主体とし、国内専用車だからという意識のままでいたのでは、いくら性能や商品性が上がっても海外では評価されないだろう。
海外で軽自動車が販売されない最大の理由は、そうしたメーカーの狭い視野にあるのではないか。
スズキは軽自動車にマイルドハイブリッドを設定。電動化に敏感な今の時代では大きな価値となる可能性も高い。実際に燃費だけでなく走行フィールもいい
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みんなのコメント
走行性能や安全性考慮しても
海外じゃ売れんやろ
国民が自らの選択により、小さくて安全性能の劣る車に乗ることは問題ないけど
国が危険な車を推奨するのは、明らかに間違っている
低所得者対策、地方や生活環境による減税等が必要であれば
別の方法でも実現可能で、低所得者を危険な車に乗せ
エコでもない大きなハイブリッドのミニバンに補助金を出す今の税制は問題
軽枠をなくし、自動車関連税を引き下げ、特定財源に戻し
上記の、個々の状況に応じた適切な減税・補助金を導入すべき
軽枠をなくせば、自動会社もグローバルに対応しやすく、価格のメリットも出しやすい
本来はこういった問題点をもっと継続的に取り上げて記事にしてもらいたい
一過性で終わるから、政治家もほとぼりが冷めるのを待つというなし崩し対応しかしない