絶滅危惧種というイメージがある3ペダルMT車。実は欧州では、まだまだ選択肢は多いのですが、ここ日本で購入できる新車のMT車となると、かなりかぎられます。そういう意味では、日本においては絶滅危惧種と言っていいでしょう。
そのなかから、自称MTフェチの私が日本でも新車で買えるMT車を5車種、選ばせていただきました。
鳴り物入りで登場したが……デジタルアウターミラーがなかなか普及しないワケ
文/安東弘樹、写真/安東弘樹、トヨタ、スズキ、マツダ、ダイハツ、日産、ホンダ、ベストカー編集部
■シフトフィールも素晴らしいスイフトスポーツ!
まずは発売年の2017年に、その年のカーオブザイヤー(以下COTY)に私が選んだスイフト。そのなかでももちろん、6速MTを選べるのは「スイフトスポーツ」です。
140ps/230Nmの1.4L直噴4気筒ターボエンジンは1トンを切る「スイスポ」を軽々と走らせます。初めて試乗した時は運転が楽しすぎて、予定していた試乗時間を大幅に延長して2時間半、ずっと走っていました。
現代日本のライトウェイトスポーツの至宝「スイフトスポーツ」2003年に初代登場、4代目となる現行型まで、軽くて安くて速い!! を貫き通している。鮮やかなイエローカラーも定番だ
正直リアの居住性やラゲッジスペースは狭い。しかし、その凝縮感と軽さのおかげで140psのパワーを使い切る快感とクルマとの一体感が楽しめるクルマだ
ステアリングフィールも上々。そして私にとって最重要点であるシフトフィールですが、コク、コクと節度を伴って、各ゲートに入り、剛性感も、まずまず。これも重要な、ペダルレイアウトも違和感なく、気付くと、「楽しい」と呟いている自分に気付きました。
1.4Lターボエンジンを活かす6MT。日本仕様は欧州仕様に対してローレシオ化され、加速性重視のセッティング。街中でも小気味よい走りを魅せる。シフトフィールもまずまずだ
しかも、このクルマが200万円前後で買えるのです。5ドアのハッチバックで普段は「便利に使える」「スポーツカー」を作ってくれたSUZUKIに感謝です。
■ハイブリッドが定番のカロスポにも唯一無二のMT仕様が存在する
2台目はこれも私が2018年のCOTYに選んだ、カローラスポーツです。ハイブリッドモデルでは当然? MTは選べませんがGグレードのガソリンモデルで6速MTを選ぶことができます。
1.2L4気筒ターボエンジンは116ps/185Nmと平凡なスペックですが、1300kgのクルマを充分、元気に走らせてくれます。また、iMTという名のMTは坂道でもクルマをホールドさせ、シフトダウン時には自動的に回転を合わせてくれますので、MTへのハードルを少し下げてくれるのではないでしょうか。
1300kgのボディに1.2L、116psダウンサイジングターボを搭載。スイスポ同様スポーツを名乗るが走りはやや大人しめ。ただ剛性感の高いシャシーが勝る走りもまた楽しい
実は現行カローラとともに登場した新開発MTなのだ。坂道発進補助機能やシフトアップ/ダウン時には回転を合わせる「iMT制御」を装備。その協調のおかげか、サイドブレーキは電制なのだ
MTを語る時、「坂道発進が怖い」というドライバーが圧倒的に多いので、ぜひそんな方は試していただきたいと思います。
ちなみにスイフトスポーツとカローラスポーツは、各々、テレビ番組(どちらも旅番組)で終日、MTモデルを運転したのですが、運転が楽しくて疲労を感じることはまったくありませんでした。
昨年S耐で話題となった水素エンジン搭載車はカロスポベースだった。水素タンクを3本搭載かつ水素充填のためには5ドアの同車が適任だ。GRファミリーにガソリン仕様が追加の噂もあるが……
それぞれ、スズキとトヨタの1社提供の番組でロケで使うクルマを私が選ばせていただいたのですが、ともに「出演者が車種を指定してきたのも、ましてやロケでMT車を使うのも初めて」だということです。
■マツダ3はあのXエンジン搭載車にもMTを設定!!(ファストバックのみ)
話が逸れましたが、次にいきましょう。
3台目はMAZDA3です。嬉しいことに1.5Lガソリン、2Lガソリン、2LガソリンマイルドハイブリッドエンジンでMTを選ぶことができるのです。
私が運転したことがあるのは「e-SKYACTIV X」の名前がついた190ps/240Nmを発生する最上グレードエンジンの6速MT。細かい説明は割愛しますが、例の圧縮着火ガソリンエンジンに「小さなモーター」を組み合わせたマイルドハイブリッドのクルマです。
発表当時は「SKYACUTIV-X」を前面に押し出したものの、最近は「e-SKYACTIV X」となり、さらにはカタログではマイルドハイブリッド車扱いと、なかなか辛い立場の同エンジンだが、MTで操る楽しさを提供する
トルクは充分にありながら、回転フィールに特筆すべき点はないので、目くじらを立てずに、上質なスコッ、スコッ、というシフトフィールを楽しみながら、余裕のシフトチェンジを繰り返していると、疲労感なく目的地に着いている。という私にとっては新しい楽しさを提供してくれたクルマと言えます。
SKYACTIVテクノロジーのひとつでもあるマツダのMT。適切なドライブポジションと節度のあるシフト感は運転しやすく、疲れないメリットもある。シフト周りの質感の高さもマツダならでは
また、マツダのこだわりどおり、ペダルレイアウトは完璧です。誰が見ても美しいと思えるエクステリアと上質な室内。このクルマも私は2019年のCOTYに選びました。この年まではスイフト、カローラスポーツ、MAZDA3とMTモデルに乗って感動したクルマをCOTYに選んだことになります。もちろん、そのほかの点も含めて総合的にいいクルマであったのは言うまでもありません。
■コペンをベースに走りの質を向上させた「コペンGRスポーツ」
4台目はダイハツコペンGRスポーツです。今や唯一の軽自動車規格のオープンスポーツカー、コペンをベースにトヨタGRスポーツの協力のもと、ダイハツが乾坤一擲、という心持ちで作った、本気のスポーツカーです。
エンジンは軽自動車がゆえ64ps/92Nmとお決まりのスペックですが、シフトは、ショートストロークで、コキッ、コキッと小気味よくゲートに入ってくれ、感覚的には手首を返すだけで、変速が可能です。
ダイハツとトヨタ(GR)のコラボで生まれた「コペンGRスポーツ」。両社のディーラーでまったく同仕様販売されるため、メーカー名なしの「コペンGRスポーツ」としか言いようがない稀有なモデルだ
ノーマルのコペンに対して外装から足回りまで随所にGRの手が入っている。GRモデルの投入で今となっては唯一の軽オープンスポーツながら、それにとどまらない走りの楽しさも手に入れた
つり上がったヘッドライトも下品にはなっておらず、クールなエクステリアにまとまっています。内装はさすがに軽自動車感が否めませんが、KYB製のショックアブソーバーと組み合わせたサスペンションは乗り心地とスポーツ性を両立させており、純粋に運転を楽しめました。
メタルトップを開け、狭い日本の道をミズスマシのように縦横無尽に走り抜けるコペンGRスポーツは、もしかしたら日本版、スーパー7と言えるかもしれません。原稿を書いている今も、「また運転したいなー」とウズウズしてきます。
ダイハツの乗用軽では唯一のマニュアル車となってしまった。先代のコペンからの流用の5MTながらそのフィールは改良により確実に進化を遂げている
ただ、電動メタルトップのオープンカーということもあって軽自動車でありながら250万円近い価格ですので、誰にでも薦められる訳ではありません……(笑)。
■安東氏激賞!! ロータスエリーゼのシフトフィールが世界一⁉
さあ、最後は、手前味噌で申し訳ありません……ロータスエリーゼです。
まず結論から言わせてください!このクルマのシフトフィールは間違いなく世界一です。
安東氏とロータス「エリーゼ」。言わずと知れた生粋のブリティッシュスポーツだ。そのロータスも欧州の電動化には勝てず、電動化の道を歩むようだ。そうなると最高のシフトフィールもなくなる?
それまで世界一だと信じて疑わなかったポルシェのシフトフィールを完全に置き去りにしてしまいました。フィール(感覚)を「置き去りにする」という表現は厳密に言うとアナウンサーとして間違えているのですが、まさに、その表現しか浮かばないのです。
車体軽量化のため、ベゼル以外シフト機構むき出しだ。かと言って無機質なカーボンパネルでもないところに英国スポーツカーのこだわりを感じる。これでシフトフィールが悪いわけがない
ある雑誌の取材でテスターとしてさまざまなMT車を乗り比べたのですが、ほかのクルマが、どうでもよくなってしまったのです。それほどの衝撃でした。
MTはクラッチを踏んで1速、2速とシフトレバーを動かして各段のゲートに入れて行くのですが、その時の感触(シフトフィール)が私にとっては重要で、ほとんどのクルマはスコッ、とか、コクッっと表現され、フィールが悪いクルマは「ゴリッ」などと表現されることもあります。
しかし、エリーゼは、カキン! とコツン! の間のような硬質な音。
シフトレバーは長いのですがシフトチェンジする際の移動距離は短いという、ほかにはない感覚なのです。
シフトレバーの根元はむき出しで動きは丸見え。これがまたタマリません。904kgとスイフトスポーツより軽い車体220psのエンジンがちょうどよく、ガスペダルを踏んだ量だけ忠実に加速してペダルを戻すと、その分、減速もしてくれる。まさに思うがままに操れるとは、このことです。
また、熱くなってしまいましたが、私の選ぶMT車5選、如何でしょうか?
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人と車の一体感がとてもある。