10月29日、フェラーリは2023年のWEC世界耐久選手権に投入する新型ル・マン・ハイパーカー『フェラーリ499P』を正式発表した。
この新型車両が生まれた背景や、参戦体制の見通しなどについて、 イモラ・サーキットにおける発表会に出席したライターの大谷達也氏が、ル・マン・プロジェクトを率いるフェラーリ首脳に直撃。流麗なプロトタイプカーがLMDhではなくル・マン・ハイパーカー(LMH)規定を選ぶに至った理由などが、明らかとなった。
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■一見して「フェラーリだ!」と分かることの重要性
フェラーリが総合優勝を賭けて戦った最後のルマン24時間から、ちょうど50年。しかも、2023年はル・マン24時間の初開催から100周年にあたる記念すべきシーズン。彼らがニューカー『499P』を引っさげてサルト・サーキットに挑むのは、こうした歴史的な意味合いが関係しているのだろうか?
マラネロのル・マン・プロジェクトを指揮するアッティヴァ・スポールティーバGTのアントネロ・コレッタは、この質問に対して次のように答えた。
「ルールが変わったことが最大の理由です。私たちはLMGTEでこれまでたくさんの栄冠を勝ち取りました。しかし、間もなくGTのルールが変わります。これらのことを総合的に考えて、プロトタイプのカテゴリーに復帰することを決めました」
LMGTEが早晩、戦いの場を失うことは明らかだった。いっぽうでWECならびにル・マン24時間の総合優勝争いは、2023年からLMH(ル・マン・ハイパーカー)とLMDh、ふたつの規定の車両によって競われることになる。こうしたレギュレーションの転換点が、フェラーリのハイパーカー開発を後押ししたというのだ。
そのいっぽうで、F1にコストキャップ制が導入されたことで、フェラーリがモータースポーツ活動に投じる予算に余裕が生じたのは間違いのないところ。こうした状況の変化も、フェラーリのLMHクラス挑戦に影響を与えたのではないか?
「それは正しくありません」とコレッタ。
「私たちがLMHクラスへの参入を決めたのは、F1へのバジェットキャップ導入が決まる前のことです。フェラーリがLMHクラスに挑むことは、戦略的な判断に基づいて決められました」
LMH規定がフェラーリにとって魅力的に映ったのは、レーシングカーのスタイリングに対する自由度が大きいことが関係していた。LMHではエアロダイナミクスに対する性能要求値を敢えて低めに設定。風洞実験から生み出されたスタイリングでなくとも充分な空力性能を実現できることは、先ごろデビューしたプジョー9X8が証明したとおりである。
「(マシンの)スタイリングは非常に重要でした。人々が私たちのマシンを見たときに、『これはフェラーリだ!』とすぐに認識していただけることが重要だったのです」
フェラーリは風洞実験でハイパーカーの理想的なボディ形状を追求したあと、社内のデザイン部門であるチェントロ・スティーレの協力を得てロードカーを髣髴とするスタイリングを作り上げた。こうして、誰もがひと目見てフェラーリとわかるマシンでル・マン24時間に挑むことが、ブランド・イメージ向上の観点からも重要だったというのだ。
さらにエンジンは、296GTB/GTS用と基本的に共通な3.0リッターV6ツインターボを採用。ここでもロードカーとの類似性を打ち出したのである。ちなみに499Pのモデル名は、「1気筒あたりの排気量が499ccのプロトタイプレーシングカー」を意味するもので、フェラーリの伝統的なネーミング。499Pには6気筒エンジンが搭載されているので、総排気量が3.0リッターであることはこの点からも自明だった。
なお、ハイブリッド・システム用のバッテリーは、フェラーリF1チームの技術を用いて開発されているという。
さらにコレッタは、フェラーリが参戦カテゴリーとしてLMHを選んだ理由について、こうも語っている。
「フェラーリは自動車メーカーです。よそから部品を購入してきてクルマを作るという思想は、私たちにありません。そもそも、自分たちにクルマを作るチャンスがあったからこそ、プロトタイプカーレーシングへの復帰を決めたのです」
■気になる来季のドライバーは?
いっぽうで、トヨタは2021年よりLMHで参戦。プジョーも今季より実戦を通じてマシンの熟成に努めている。そうしたライバルに比べると、フェラーリの開発は遅れをとっているともいえるだろう。
「ライバルのことは最大限リスペクトしています。多くの経験を備えたメーカーが有利であることは間違いないでしょう」
そうはいいつつ、フェラーリとしてもみすみす負け戦に臨むつもりはない。
「ライバルよりも短い期間で開発を行ないましたが、極めて速いスピードで前進しています。私たちは正しい方向に進んでいると確信しています」
7月6日にフィオラノでシェイクダウンを行なって以来、499Pはモンツァやポルティマオでテストを実施。走行距離は1万2000kmに達したという。
「これは極めて優れた成果です。私たちはテストを行ない、問題点を解決し、改めてテストを実施してきました。私たちには自信があります。マラネロの技術者たちは、驚くべき仕事をたくさんこなしてくれたと考えています」
来季の参戦体制はどのようになるのか?
「ワークスチームが2台の499Pを走らせることになります。プライベートチームからも、マシン供給に関して多くの問い合わせが届いていますが、2023年はワークス参戦に集中し、その結果を待って、今後の方針を決めるつもりです。ワークスチームはフェラーリとAFコルセによって構成されます。ドライバーは未発表ですが、GTレースを戦ってきたフェラーリ・ファミリーのなかから選ぶことになります」
北米IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権GTPクラスへの参戦についてはどうか?
「現時点では、私たちはWECに集中しています。将来については改めて検討するつもりです。それについて考える時間は、充分にあります」
来季の戦いについて、コレッタはこんな見通しを語ってくれた。
「2023年も多くのコンペティターが参戦します。2024年には、コンペティターの数がさらに増えるでしょう。しかし、そのうちの少なくない数のメーカーが、信頼性の問題に苦しむかもしれません。2024年は驚くべきシーズンになるはずです。いずれにせよ、私たちは2023年に向けて全力で準備を進めているところです」
499Pのデビュー戦は2023年WEC開幕戦のセブリング。半世紀ぶりにルマンの総合優勝を目指すフェラーリの健闘を祈りたい。
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