乗ってしまえばディーゼル特有の音と振動は極小
VW(フォルクスワーゲン)が販売の主力とする「ゴルフ」にクリーンディーゼルエンジン搭載車を追加設定したというので、さっそく試乗リポートさせていただくこととなった。試乗に用意されたのはゴルフのワゴンモデルであるヴァリアント。最新の装備を纏った特別仕様車の「マイスター」だ。
現行ゴルフは7代目で、2012年に登場したモデル末期のクルマ。すでに次期モデルとなる「ゴルフ8」のスクープ情報も出始めている今になって、何故ディーゼルモデルを追加したのか。VW社のディーゼルといえば、例の排ガス不正事件を抜きに語る事はできないが、少なくとも国内においてはディーゼル車に対する需要は高く、ディーゼル廃止に向かう欧州や米国、中国などと異なる特殊な日本のマーケットのために、あえてモデル末期でも設定し販売状況を見ながら次期モデルへの対応を考えようとしているのかとも思えた。
搭載されるディーゼルエンジンは、すでにティグアンに搭載されているのと同じ2リッターの直4ディーゼルターボエンジン。最高出力150馬力を3500~4000rpmで発生し、最大トルク340N・mは1750~300rpmで引き出されるという。トランスミッションは実績のあるツインクラッチの7速DSGだ。
エンジンルームを覗いてみると、非常に手の込んだエンジンマウントが目に入った。VW車のエンジンマウントにはいつも感心するが、今回も芸術的なほどの造形美を見せる。その効果もあって、エンジンを始動しても振動はほとんど吸収されてしまいエンジンは微動だにしない。当然室内にも振動は伝わらず遮音も高度に施されていて、ディーゼルによる音振的なネガティブさはほとんど感じない。
走りだすとやや籠った感じの重厚な感じの排気音に聞こえ、ディーゼルであることを特別に意識する必要はなく快適だ。
加速の度合いを試すため高速道路に乗り入れアクセルを踏み込んでみる。小型ターボがすぐに過給圧を立ち上げトルクピックアップは優れていて小気味いいが、そのまま加速を続けていくとエンジン回転の頭打ち感が早々に感じられる。「おや?」と思った。これまで欧州車のディーゼルエンジンといえばガソリンエンジンと比較しても遜色を感じないほどに高回転まで吹き上がり、感心させられるものばかりだった。
VW社のディーゼルもそうだったはず。しかし、今回の試乗車はエンジン回転数を示すタコメーターの針がレッドゾーンの4500回転を示すはるか手前でトルクピークを感じ、そこからは吹き上がりが極端に落ち込んでいく。DSGが早めにシフトアップしていくので、Dレンジ走行なら車速もスムースに高まるが、パドルでマニュアル操作していると直に回転が頭打ちとなりストレスを感じてしまうのだ。
ちなみに100km/h巡航は1400回転ほどで高速巡航燃費は極めて優れた数値を示す。燃費の公表値はWLTCモードで17.7km/L。同高速道路モードでは20.5km/Lとされていて、試乗区間でもほぼ同様の数値データが燃費計に示されていた。
燃費は圧倒的にディーゼルだがガソリン車の完成度は高い
今回、比較として同じゴルフ・ヴァリアントの「マイスター」モデルで、ガソリンエンジン仕様も帯同させた。ガソリンエンジンは1.4リッター直4ターボのTSI仕様で、最高出力は140馬力/4500~6000rpm、最大トルク250N・m/1500~3500rpmとなっている。トランスミッションは同じく7速のDSGだ。
ガソリン仕様に乗り換えて感じたのは、予想以上にその仕上がりがいいということだ。最新のディーゼルエンジンに対して出力スペック的にも不利なはずなのに、走り出すと軽快なハンドリングとエンジンのドライバリティの良さが際立っている。高速区間ではレッドゾーンの6000rpmまで気持ちよく吹き上がり、トルクの頭打ち感が少ない。
そうか、欧州ではディーゼルゲート事件でディーゼルエンジン車の販売が大きく落ち込んだ。それを補う為にガソリンエンジン車の走行フィールを圧倒的に高めた、ということか。ゴルフ7としてモデル末期を迎えているという熟成された完成度の高さもあって、ガソリンモデルの仕上がりの高さは際立っているわけだ。
高速区間の燃費は11km/Lほど。猛暑のためエアコンを使用しつつ市街地中心の短距離試乗であったこと、かつWLTCモード燃費が公表されていないのでスペックの比較はできないが、試乗ルート全体で燃費計が示していたのは、ディーゼルモデルが13.5km/Lほどであるのに対してガソリンモデルは9.9km/Lほどだった。ハイオクガソリンを使用するガソリンモデルと軽油のディーゼルエンジンでは燃料代の差も大きい。走りを取るのか燃費を取るのか、ゴルフの購入希望者は大いに悩むことになりそうだ。
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