V8エンジンと電気モーターで725ps
BMW M部門の副社長、ディルク・ハッカー氏は、研究開発の責任者も務めている。グレートブリテン島の北ウェールズには、素晴らしいワインディングがあると認めてくれた。ただし、プロトタイプ上陸に当たっての税関手続きはかなり面倒だったらしい。
【画像】高速道路を重視 最新BMW M5 ツーリングとサルーン 競合モデルと写真で比較 全122枚
AUTOCARでは、試作車をグレートブリテン島に持ち込んで欲しいと、多くの開発技術者へ数10年前からお伝えしてきた。この土地には、相当に手強い路面がそこかしこに存在する。量産後にその事実へ直面するのではなく、開発段階なら対応可能だからだ。
しかし、最近の英国はEUから離脱してしまった。完成前のM5 ツーリングが、ドーバー海峡を渡ることは従来以上に難しいものになったらしい。
今回、ハッカーが携えてきたのはG99型が与えられた超高性能ワゴン。グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで、デモ走行させるためだ。
そこでAUTOCARでは少しの時間を頂戴し、傷んだアスファルトが手強い曲線を描く公道で、味見させていただいた。天気は、もちろん雨がちだ。
既にBMW M5のサルーンは、サーキットでの試乗レポートをお伝えしている。概要はご存知かもしれないが、もう一度確認しておこう。
最新のM5には、歴代で初めて電動化技術が実装された。システム総合の最高出力は、725psもある。V8エンジンと8速ATの間に、197psを発揮する駆動用モーターが挟まり、このモーターにも個別に2速ATが組まれている。
充電が尽きる前に全開でニュルを2周
モーターとエンジンの両方が、同一のトランスミッションを介して駆動する構成で、近年の自動車業界ではP2と呼ぶハイブリッド・システムとなる。メルセデスAMGのE-パフォーマンスは、ATの下流側に駆動用モーターがあり、これはP3と呼ばれる。
「わたしたちが(メルセデスAMGと)同じ手法を選んでいたら、パッケージング上の問題を抱えていたはずです。これなら大きな駆動用バッテリーを載せられ、長い時間パフォーマンスを発揮させられます」
「充電が尽きる前に、ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェを全開で2周できるんです。エンジンを小型化させる必要もありません」。と、ハッカーが鋭い眼差しで話す。競合の弱点を研究済みなことは間違いない。
M5では初めて、後輪操舵システムも搭載された。さらにプラグイン・ハイブリッドだから、車重は増えている。先代のF90世代のM5と比較すると、サルーンでは450kgのプラス。ただし、駆動用モーターとバッテリーが占める割合は、その半分程度だという。
「ベースの5シリーズは、先代より大きく重くなりました。M5では、重量を支え負荷に耐えるよう、シャシーを強化することが主なチャレンジでした」。と彼が説明する。
M5のフロントトレッドは、通常のG90型5シリーズより70mmも広い。グレートブリテン島西部、北ウェールズ・スノードニアの公道は、強力で大柄なモデルにとって理想的な環境とはいいにくい。
少しアグレッシブ過ぎたF10型のM5
実際にステアリングホイールを握ってみると、どうしても道幅は狭く感じられてしまう。それでも乗り心地は見事。手強そうな路面でも、落ち着きを失わない。カーブを結ぶ短い直線を、無駄なくしなやかにこなしていく。
先代より、安定していることは間違いないだろう。長距離を快適に駆け抜けられた、E39型M5への回帰といえるレシピなのかもしれない。
「わたしたちは、弊社のクルマが持つ弱点を無視しません。F10型のM5 コンペティションは、少しアグレッシブ過ぎたと受け止めています。一部のお客様からも、そのような意見をいただきました」
「今回は、M5がサーキット用ではないという意識を強めています。日常的に乗られるクルマですから、ビジネスにも使われ、日常的な暮らしの道具にもなります。高速道路への適合性が、最も重要だと考えました」
と説明するハッカーは、これがプログレッシブレートのコイルスプリングを採用した理由だとも付け加える。摩擦で不利なエアスプリングを選ばないM部門は、硬いコイルスプリングを組むと、サスペンション・ストロークが短くなることへ対処したのだ。
現状では、100mmのストローク量が与えられている。ダンパーが充分に機能し、不整路面での乗り心地で大きなプラスになる。タイヤの接地性も高めることができる。
長距離前提のアウトバーン・ランナー
スノードニアには、垂直方向の姿勢制御が試される区間が点在する。M5 ツーリングは、それらを苦もなく通過してみせた。車重を感じるのは、リアアクスルへ重心が移動していく瞬間程度だ。
駆動用モーターがパワーを加算し、シフトダウンせずともグングン速度は上昇。グリップ力に優れ、トラクションも相当に高い。
ステアリングの反応は正確で、姿勢制御もタイト。サイズや車重は、想像より意識することはない。完全に打ち消されてはいないようだが。
第7世代のM5は、先代より進化したのか。少なくとも、F10型より前のM5が宿したような、動的特性が目指されたことは間違いなさそうだ。市場で最も敏捷なパフォーマンス・サルーン/ワゴンではなく、長距離を前提としたアウトバーン・ランナーとして。
「大きなスーパーGTスタイルのMモデルを、ラインナップする意味はあると考えています。現在のM3のオーナーの多くは、数世代前のM5へ通じるダイナミックさや、サイズ感を味わっているでしょう。対してM2は、M3やM4より小さく機敏で若々しい」
「新しいM5は新鮮でありながら、大きく実用的。より成熟された味わいを提供できるはずです」
直近の3年間で、軸となるモデルが新世代へ入れ替わっただけでなく、アプローチも改められた様子。M5 ツーリングの量産仕様への試乗は、2024年後半が予定されている。先代以上に、巧妙な仕上がりを得るのではないだろうか。
◯:車重にも関わらず滑らかで落ち着いた乗り心地 駆動用モーターがトルクを加算し速く扱いやすい Mならではといえる四輪駆動と後輪駆動の構成
△:状況では大きすぎるボディ 2.5tの車重は隠しきれない 従来のM5以上に大人な雰囲気で興奮は減ったかも
BMW M5 ツーリング(プロトタイプ/欧州仕様)のスペック
英国価格:11万2500ポンド(約2137万円)
全長:5096mm
全幅:1970mm
全高:1516mm
最高速度:305km/h(Mドライバーズパッケージ)
0-100km/h加速:3.5秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:−kg
パワートレイン:V型8気筒4395cc ツイン・ターボチャージャー+電気モーター
使用燃料:ガソリン
駆動用バッテリー:18.6kWh
最高出力:725ps/5600-6500rpm(システム総合)
最大トルク:−kg-m/
ギアボックス:8速オートマティック(四輪駆動)
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