内外装から走りまで全身にメスが入った最新の「タイカン クロスツーリスモ」
ポルシェ初のBEV(電気自動車)として2019年にワールドプレミアした「タイカン」。当初、スポーツカーファンのひとりである筆者(村田尚之)は、「BEVはポルシェを名乗るにふさわしいモデルなのだろうか?」と思っていました。
【画像】「えっ!…」九州から関東まで“裏ワザ”を使って快適移動! これがポルシェの高性能BEV「タイカン クロスツーリスモ」です(30枚以上)
しかし、実際に触れる時間が増えるにつれ、走りや質感だけでなく、内外装なども「あぁ、確かにポルシェだな」と感じられるように。ちょい乗りだけでは分からない、そんな心変わりを決定的にしたロングドライブでの印象をお伝えしましょう。
「タイカン」もデビューから時間が経ち、2024年2月には比較的大きなバージョンアップを実施。今夏にはその最新仕様が日本に導入されています。
今回の長旅のお供は、2021年にラインナップに加わったクロスオーバースタイルの「タイカン クロスツーリスモ」。もちろん最新仕様の1台です。
この「クロスツーリスモ」、オリジナルの4ドアサルーンボディとは異なり、ルーフラインを延長した上で、テール部にリアゲートを設けたシューティングブレーク風のワゴンボディとなっているのが特徴です。
加えて、フロントとリアのエプロンやサイドスカート、ホイールアーチカバーといったオフロードをイメージさせるガード類が備わります。また、サルーン比で地上高が約20mmアップされており、”名ばかりの”モデルではないことがうかがえます。
気になる今回のバージョンアップでは、BEVの要であるバッテリーやモーターに加え、エクステリアとインテリアにも改良の手が及んでいます。
「クロスツーリスモ」のグレード展開は従来どおりで、「タイカン4クロスツーリスモ」、「タイカン4Sクロスツーリスモ」、「タイカンターボクロスツーリスモ」の3モデルをラインナップ。今回の旅の相棒はこのうち、「4Sクロスツーリスモ」です。
具体的な進化として気になるのはメカニズムと性能ですが、「タイカン4Sクロスツーリスモ」の場合、パフォーマンスバッテリープラスの総容量が93kWhから105kWhへと増大。それに伴い、1回の充電で走れる距離が678km(WLTPモード)と、最大で175km(35%)の向上が図られました。
加えて、パワートレインもアップデート。ローンチコントロール時オーバーブースト出力は598馬力(440kW)、最高出力は517馬力(380kW)、最大トルクは710Nmを発生します。
このほか、バッテリー温度が15℃の状態で、10%から80%のSoC(State of Charge:充電状態)まで充電する場合、従来モデルでは約37分を要しましたが、最新モデルは約18分まで短縮されるなど、充電スピードの高速化が図られました。
こうした全域に渡るパフォーマンスの向上は、最適化されたソフトウェアを備えるパルスインバーター、強力なバッテリー、熱管理やエネルギー回生の最適化など、徹底した効率化により実現したものだそうです。
エクステリアでは、前後のライト回りやバンパー形状などが改められました。特にフロント回りはフェンダーの峰にプレスラインを設け、そのラインに合ったヘッドライト形状となったこと、また、バンパー回りの装飾が整理されたことにより、クリーンでより知的なたたずまいとなっています。またリア回りも、コンビネーションランプのデザインが変更されたほか、“PORSCHE”のロゴが立体的なデザインへと改められています。
インテリアはというと、アンビエント照明やワイヤレス充電式スマートフォントレイ、ステアリングのモードスイッチが全モデルに標準装備となったほか、ディスプレイの機能強化やインターフェースの最適化が図られました。
ほかにも装備の充実が図られており、屈指のパフォーマンスを誇るBEVとしてはもちろんのこと、高級サルーン、高級クロスオーバーとしてのポジションをより明確にしています。
●マニア心をくすぐる巧みなアレンジとディテール
バージョンアップ版「タイカン クロスツーリスモ」で出かける今回のロングドライブ、そのルートは、出発地を九州・熊本の天草、目的地は東京の虎ノ門、としました。
「陸路で1300km超も走ったの?」と思われるかもしれませんが、実は大分・別府から大阪・南港の間はフェリーを利用。その理由はいくつかあるのですが、その辺りは追々説明いたします。
リアシート使用時で446リットル、後席背もたれを倒せば1212リットルという大容量のラゲッジスペースを備える「タイカン クロスツーリスモ」。2泊3日分くらいの荷物であれば、後席背もたれを倒すことなく4名分の荷物をゆうゆうと収納できます。
サルーン版のタイカンも、407リットルと実用的な荷室容量を確保していますが、ロングドライブ志向の方には、荷物の量に合わせて荷室のアレンジが自在な「クロスツーリスモ」の荷室が有効だと思います。
ドライバーズシートに収まり、いよいよ出発の準備にとりかかりますが、ここで思わずニヤリとしてしまう点がいくつかありました。
今回の試乗車はオプションの“Race-Texインテリア”を装備しており、座面のセンター部が“ペピータ”と呼ばれる、初期の空冷「911」にも用いられていた伝統的な千鳥格子柄となるなど、随所に遊び心が盛り込まれていたのです。
また、ドアミラーに映るリアウインドウとリアフェンダーの膨らみ、その独特な曲線・曲面は歴代「911」にも通じるもの。
いずれも実に些細な点ではありますが、歴史や伝統を感じさせるアレンジの巧みさは、古くからのポルシェファンのマニア心をも刺激しそうです。
準備が整ったところで、いざ出発です。初日のルートは、熊本・天草からに位置するホテルから、フェリー乗り場のある大分・別府の街を目指します。
一般道と高速道路を経由してストレートに向かえば230kmほどの行程ですが、絶好のドライブルートとして知られる阿蘇山やくじゅう連山周辺の景色とワインディングを満喫しようという目論見もあり、寄り道をしながら別府へと向かうことにします。
出発時にメーターをチェックすると、バッテリーの充電状態は98%、走行可能距離は523kmと表示していました。これならかなりの寄り道をしても、別府までなら余裕がありそうです。
ちなみに、BEVと聞いて心配な充電インフラですが、現在では全国に約3万か所の充電スポットが用意されているといわれています。
なかでもポルシェジャパンは、独自の充電インフラネットワークを構築。最大150kWの出力を誇る“ポルシェターボチャージャー”を全国48か所のポルシェセンターとランドマーク施設10か所のステーションに用意しています。
この“ポルシェターボチャージャー”ですが、30分ほどで80%の充電が可能。また、ポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲンによる“PCA(プレミアム チャージング アライアンス)”による急速充電ネットワークも全国350か所以上に設置されており、出先での充電に困ることはなさそうです。
さらにポルシェジャパンは、“ポルシェ ディスネーション チャージング ステーション”と呼ばれる目的地型充電ステーションも展開。ポルシェのBEVオーナーであれば、全国のホテルや温泉施設、レストラン、ゴルフ場といったレジャー施設に設置されているステーションを利用することができるのです。
実は今回のロングドライブで出発地に選んだ熊本・天草のホテルにも“ポルシェ ディスネーション チャージング ステーション”が設置されており、出発までに満充電状態にできるなど非常に重宝したのでした。
別府から大阪まではフェリーの旅を楽しみながら充電
「タイカン クロスツーリスモ」で走り始めてみてまず気づいたのは、全長4974mm、全幅1967mm、車重2280kgの大柄&ヘビー級のモデルとは思えない、軽い身のこなしです。
軽やか、とか、機敏といった類の動きではないのですが、ステアリングを動かして車体が反応するタイミングやその動きの自然さと精度感は、「あぁ、これはポルシェだな」と納得させるに十分なものです。
加えて、全車標準となったアダプティブエアサスペンションの動きも極めてしなやかで、路面の段差や凹凸を大小の別なくいなしていきます。
試乗車はオプションである21インチのタイヤ&ホイールを履いていたため乗り心地への影響を心配していたのですが、舗装状態がいいとはいえない山間部の県道や市道においても、ネガティブな印象を抱くことはありませんでした。
好印象の走り味に気をよくし、あっという間に天草エリアを通過。噴火口を望む阿蘇山公園有料道路や外輪山の尾根を走るミルクロードなど、阿蘇エリアの景勝ルートも存分に堪能しました。その後は、くじゅう連山、由布院などを経て、別府のフェリー乗り場を目指します。
ランチタイムに軽く充電をおこなったこともあり、別府港到着時点での充電状態は57%、走行可能距離は296kmと表示。休憩を挟みながら、途中、アップダウンのある山道を200km以上走り回った結果と思えば、良好な数値といえそうです。
仮にこのまま走り続けても、福岡までは余裕。そのまま関東を目指すなら広島も目指せますが、今回のクルマ旅では大阪~別府航路に就航しているフェリー「さんふらわあ」に乗船しました。
九州へとドライブ旅に出かける方にとって比較的ポピュラーな存在であると同時に、同航路は2023年に就航した新造船「さんふらわあ むらさき」と「さんふらわあ くれない」が運航しています。実はこの両船にはBEV用の充電器(3kW/200V)が備わっており、船旅を楽しみつつBEVの充電も可能というのが、今回のルート選択の決め手となったのです。
乗船当日のスケジュールは、18時45分に別府を発ち、翌朝6時35分に大阪着というもの。筆者が乗船したのは2023年4月就航の「さんふらわあ むらさき」でしたが、吹き抜けのアトリウムやホテルに匹敵する設備を備えたモダンなインテリアは実に快適。阿蘇のドライブで程よく疲れた体を大浴場でいやしつつ、心地いい眠りに就くことができました。
そして気づけば朝5時を過ぎ、「さんふらわあ むらさき」はゆったりと大阪湾を進んでいきます。そそくさと身支度を整え、「タイカン クロスツーリスモ」とともに大阪南港へと上陸しますが、約10時間の充電により充電状態は87%まで回復。走行可能距離も476kmと表示されています。
大阪南港から横浜青葉インターチェンジ近くにあるポルシェセンターまでは約480kmの行程。ていねいに走ればなんとかたどりつけそうな気もしますが、周辺にはポルシェジャパンの正規ディーラーやPCAの150kW充電器も多くあるため、まずは、あべのハルカス・大阪マリオット都ホテル駐車場内のポルシェ ターボチャージング ステーションでバッテリーチャージしてから出発することにします。
その後は、第二京阪道路、新名神高速、伊勢湾岸自動車道を経て、東名高速へと進むルートで一路、神奈川・横浜を目指します。
ナビによると距離は約480kmとのことですが、充電状態は100%、走行可能距離は544kmを示しています。高速道路も午前中とあって混雑もなく、クルーズコントロールを使用してひたひたと進みますが、乗り心地は快適至極です。
●「クロスツーリスモ」らしい懐の深さを感じさせる走り味
「タイカン クロスツーリスモ」はダイヤル式のセレクターで「ノーマル」、「スポーツ」、「スポーツプラス」のほか、航続距離を優先する「レンジモード」、ちょっとした荒地向けに車高も上がる「グラベルモード」と走行モードが選べます。
阿蘇の山中では「スポーツ」や「スポーツプラス」も選びましたが、スピードレンジの低い日本のワインディングでは余りあるパワーは刺激的過ぎるほど。
舞台を高速道路に移しても、一定の速度で走るなら「ノーマル」、「レンジ」モードが適していると感じました。何しろ、追い越しが必要なシーンでは、「レンジ」モードですら少々強めに右足に力をこめれば「スポーツカーもかくや!」という加速を披露しますし、「ノーマル」や「レンジ」のスムーズで伸びやかな走りは、シーンを選ばない「クロスツーリスモ」らしい懐の深さを感じさせてくれます。
ちなみに「グラベル」モードを選べば、エアサスペンションにより最低地上高が30mmアップ(その場合の最低地上高は176mm)しますから、段差の大きな駐車場への出入りや未舗装道路の轍(わだち)をパスすることも容易です。
こうして午後早くには静岡県に到達。静岡サービスエリアを過ぎる頃にはバッテリー残量42%、横浜到着時の残量予想は14%と表示されていました。そのまま大きな渋滞もなく、御殿場付近では到着時残量予想が16%まで回復します。
ちなみに、横浜青葉インターチェンジを出た時点でのバッテリー残量は17%、走行可能距離も70km以上という表示でしたから、車載コンピュータによる残量表示はかなり正確だといえるでしょう。
その後、横浜青葉インターチェンジ近くにあるポルシェセンター横浜青葉のターボチャージャーで約30分間充電。バッテリー容量が80%ほどに回復したところで、最終目的地である東京・虎ノ門を目指したのでした。
* * *
今回のドライブ旅では、「タイカン クロスツーリスモ」の高速クルーザーぶりと、スポーティさを存分に堪能することができました。
何よりポルシェらしさを感じられたのは、そのオールマイティな性格でしょうか。長距離を一気に駆け抜けたい、ドライバーや同乗者の快適性も欠かせない、ワインディングではスポーティな走りを楽しみたい……となれば、選択肢は思いのほか多くありません。
しかもそこへ、実用性や趣味性といった評価軸を加えると、BEVか否かを問わず、対象となるモデルは限られます。
「タイカン クロスツーリスモ」は、そんな多様なニーズに応えてくれる上に、愛好家を納得させる魅力に満ちた1台です。しかも、細部に散りばめられたポルシェらしいディテールに、思わずニヤリとするご同輩も多いのではないでしょうか。
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みんなのコメント
タイカン、パナメーラとかマカンカイエン、ボクスターあたりってポルシェ感が薄いし、その辺買うならせっかくなら911が欲しいね。
しかし、この手のグリーンでかっこいいのはジャガーとアルピナだけだな、、