現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > “無難”が車をつまらなくした!? なぜ減った? 独創的な挑戦車たち

ここから本文です

“無難”が車をつまらなくした!? なぜ減った? 独創的な挑戦車たち

掲載 更新
“無難”が車をつまらなくした!? なぜ減った? 独創的な挑戦車たち

 最近の車はよくできている。お世辞でも忖度でもなく、ほとんどの新車は道具としてみれば無難にまとまっている。一方であっと驚くような画期的な車、失敗を恐れないチャレンジングな車も減ってしまった……そう感じているユーザーは少なくないだろう。

 しかし、初代プリウスがそうであったように、短期的に見て失敗作であっても、時代を変えるのは、常にチャレンジ精神あふれる商品なのだ。

【N-BOX対タント対スペーシア】 「走り」で競う!! 軽ハイトワゴン大運動会

 では、なぜ独創的な車が減ってしまったのか? それは、自動車開発の“ある部分”が飛躍的に進化したことが関係している。

文:鈴木直也


写真:編集部、Honda、NISSAN

独創的な車が減った背景にある開発の変化

 最近の車は、デザインを別にすれば中身は金太郎飴みたいで、メーカーごとの個性が少なくなった。

 多くの人がそんな印象を抱いているのではなかろうか。その最大の原因は、いろんな意味でコンピュータが進化したからといえる。

 ここ10年でモノ作りのコンピュータ化は飛躍的に進化し、マーケティングの分野でもコンピュータを使った市場予測の精度が上がっている。

 たとえば、CAE(コンピュータ設計支援)の進化によって、今やほとんどの技術的課題がコンピュータ内で検討可能となった。

 最初は製図板をコンピュータ画面に置き換えるレベルだったCADは、他の部品と干渉しないかといった初歩的なことから始まり、プレスした時にシワが出ない金型形状はどうすべきか、最適な軽量化のためにはどこを肉抜きすればいいか、流体力学的な特性シミュレートして空力特性を改善する形状はどれか…等。ちょっと信じられないくらい高度化している。

 最近では部品単位の設計支援にとどまらず、エンジンや性能や排ガスレベル、また車両走行時の挙動などが、かなり正確にシミュレートできるところまで進化。この“モデルベース開発”といわれる手法を使うと、試作車を作っての検証は1回でOKとなり、開発コストや時間の大幅短縮に貢献している。

効率化が画一化を呼び、ヒット車は小粒に

 ただし、みんながこういう手法を使うとどうなるか?

 設計ツールとしてのソフトウェアは、たとえば3D-CADならほとんどの会社が「Dassault」の「CATIA」を使っているし、モデルベース開発の支援ツールも「dSPACE」をはじめ、有名どころの大手数社。みんながパワーポイントを使うようになって、どこのプレゼンを見ても似たり寄ったりになったようなことが車の開発現場で起きているのだ。

 企画やマーケティングも同様。「これからはSUVが売れ線だ」という消費者動向がいち早く分かったとしても、その市場に我先に各社が参入すれば未開の荒野もアッという間に耕されてしまう。

 経営がリスクをとって「我が社は別の土俵で勝負する!」という決断がてきなければ、どのジャンルも勝者はいつも同じで、似たような車がひしめくことになる。

 こういう状況の中では、ダメな車は量産化に至る前にコンピュータ内でダメ出しされてボツになってしまう。ヒット作も小粒になった代わりに、アグレッシブな失敗作も見かけなくなったのはそんな事情があるからだ。

商業的には失敗でもチャレンジ精神に溢れていたホンダ車たち

 そもそも失敗作にも2種類あって、市場で売れなかったという「商業的な失敗」と、車としてダメだった「技術的失敗」がある。

 このうち、誰が見ても「技術的に失敗だったよね」といえるような車は、多分ここ半世紀くらいは出てない。失敗作のほとんどは、市場動向の読み違い、コストコントロールの失敗、技術的・デザイン的冒険が裏目に出た、といったケースだ。

 例えばホンダの初代インサイトは、最初から商業的な成功を狙って作られたわけではなく、世界最初の3リッターカー(100kmを3Lの燃料で走る。つまりリッター33.4km走る車)として企画された。

 だから、コストも実用性も度外視で、専用の1L・3気筒エンジン、NSXと同じアルミボディ、空力に徹した2シータークーペと、技術的にはやりたい放題の意欲作。見事に燃費のテーマはクリアしたけれど、実用性が不十分だったから大した数は売れず、おまけに超高コストで大きな赤字を残したといわれている。

 ちょっと前のホンダはこういう「ひょっとしてこういう車作ったら売れるのでは?」というチャレンジ精神が旺盛で、CR-Xデルソル、HR-V、エディックス、エレメントなどの失敗作がたくさんあった。

 デルソルはトランストップという電動ルーフが有名だが、そもそも2シーターのパーソナルカー市場という、魚のいない池に釣り糸を垂れたような車。

 2列横3人がけシートのエディックス、SUVなのにぺったんこなHR-V、観音開きドアのエレメントなど、どれも新しい市場を創ろうとして玉砕している。

 決してホンダを馬鹿にしているわけではなく、こういうチャレンジ精神を発揮できる環境がひと昔前のホンダにはあった、ということだ。

 もちろん、会社としては失敗作ばかりではやって行けないわけだが、ヒット作を狙って作れるなら誰も苦労はしない。こういう失敗作の屍を乗り越えたところにしか大ヒットは生まれない、そう考えるべきなのだ。

再評価されたパイオニアにみる“意欲作”の意義

 また、歴史の風雪に耐えて後に再評価されるクルマだってある。

 初代プリメーラや三菱i-MiEVあたりは、販売台数は振るわなかったが、自動車の歴史に残る車といっていい。

 プリメーラ開発時は日産が901活動で世界最高のシャシー作りに燃えていた時代。商品主管だった津田靖久さんは、その前にVWとの合弁事業で座間工場でのサンタナ生産を担当されていた方だが、「あれは相当に勉強になった」と述べている。

 前マルチリンク/後ストラットのサスペンションは、現在では考えられない贅沢な造りで、結果として「FFのハンドリングに革命を起こした」と評価される名車が生まれた。そして、その陰にはサンタナから学んだ欧州車テイストが注ぎ込まれていたのである。

 三菱i-MiEVは、典型的な「生まれるのが早すぎた」車といえる。

 この時代にピュアEVに挑戦するというのは、あり得ないほどリスクの高いテーマ。電池以外の投資を最小限としなければ、どう考えても超赤字事業となる。

 こういう条件のなかでパズルを組み合わせていった結果、スマートとエンジンプラットフォームを共有化を図り、軽のマーケット向けには同じボディでエンジン車とEVを出す。さまざまなリスク分散が図られたのだと思う。

 結果的には時期尚早で「世界最初の量産EV」というタイトルだけが残ったわけだが、そのチャレンジ精神は敬服に値する。

 失敗作というのは当事者にとっては辛いものだけれど、自動車会社のみならず、社会全体にこういうチャレンジ精神を讃える文化がないと、本当に革新的なものは出てこない。

 赤字すれすれの凡庸な車をダラダラ作るくらいなら、何年かに一回でいいから失敗を恐れない冒険的なクルマ作りに挑戦してもらいたものであります。

こんな記事も読まれています

日産「新型“最大級”バン」公開! “大胆”顔が超カッコイイ「タフモデル」! 6.3m超えボディもある「インタースター」独に登場
日産「新型“最大級”バン」公開! “大胆”顔が超カッコイイ「タフモデル」! 6.3m超えボディもある「インタースター」独に登場
くるまのニュース
【速報】こ、超えた……トヨタ2024年3月期で営業利益が日本企業史上初の「5兆円」超え、来期減益予想は「足場固め」
【速報】こ、超えた……トヨタ2024年3月期で営業利益が日本企業史上初の「5兆円」超え、来期減益予想は「足場固め」
ベストカーWeb
アドベンチャーバイクの入門編! アメリカホンダが「NX500」の2024年モデルを発売
アドベンチャーバイクの入門編! アメリカホンダが「NX500」の2024年モデルを発売
バイクのニュース
ベントレーの12気筒エンジン最終章、世界限定16台の『バトゥール・コンバーチブル』発表
ベントレーの12気筒エンジン最終章、世界限定16台の『バトゥール・コンバーチブル』発表
レスポンス
ラグジュアリーSUVセグメントを牽引するレンジローバーの2025年モデルが日本での受注を開始
ラグジュアリーSUVセグメントを牽引するレンジローバーの2025年モデルが日本での受注を開始
カー・アンド・ドライバー
【MotoGP】マルケスを手放すはずがない! ペトルッチ、マルケスのドゥカティ・ファクトリー昇格を予想
【MotoGP】マルケスを手放すはずがない! ペトルッチ、マルケスのドゥカティ・ファクトリー昇格を予想
motorsport.com 日本版
ジャパントラックショー2024、パシフィコ横浜で開幕 過去最多の156社出展 11日まで
ジャパントラックショー2024、パシフィコ横浜で開幕 過去最多の156社出展 11日まで
日刊自動車新聞
愛されて祝30周年 Kranze(クランツェ)ブランド最新作にして集大成「Versam」発売
愛されて祝30周年 Kranze(クランツェ)ブランド最新作にして集大成「Versam」発売
ベストカーWeb
新型メルセデス「EQS」の航続距離は800km超!驚くほど便利になってSクラスよりもドライバーズカーだ
新型メルセデス「EQS」の航続距離は800km超!驚くほど便利になってSクラスよりもドライバーズカーだ
AutoBild Japan
ついに発売! 注目のトヨタ新型「ランドクルーザー250」人気グレードは何? プラドオーナーの評判は? 販売店に聞いてみた
ついに発売! 注目のトヨタ新型「ランドクルーザー250」人気グレードは何? プラドオーナーの評判は? 販売店に聞いてみた
VAGUE
訪日外国人にとってアルファードは豪華だけど狭い! インバウンドが望む「メルセデス・ベンツ スプリンター」とは?
訪日外国人にとってアルファードは豪華だけど狭い! インバウンドが望む「メルセデス・ベンツ スプリンター」とは?
WEB CARTOP
サインツJr.、元チームメイト・ノリスのF1初優勝を祝福。セーフティカー出動が味方も「幸運は相応しい人に訪れるモノ」
サインツJr.、元チームメイト・ノリスのF1初優勝を祝福。セーフティカー出動が味方も「幸運は相応しい人に訪れるモノ」
motorsport.com 日本版
白バイも導入するKOODのクロモリシャフト なぜ採用? デメリットはないの?
白バイも導入するKOODのクロモリシャフト なぜ採用? デメリットはないの?
バイクのニュース
見逃せない! ブレーキダストが語るブレーキパッドの重要なサイン~Weeklyメンテナンス~
見逃せない! ブレーキダストが語るブレーキパッドの重要なサイン~Weeklyメンテナンス~
レスポンス
メルセデス・ベンツ GLB【1分で読める輸入車解説/2024年最新版】
メルセデス・ベンツ GLB【1分で読める輸入車解説/2024年最新版】
Webモーターマガジン
打倒ホンダEクラッチ&DCTへ! BMWが「自動シフトアシスト=ASA」を発表、AT限定免許で運転可能か
打倒ホンダEクラッチ&DCTへ! BMWが「自動シフトアシスト=ASA」を発表、AT限定免許で運転可能か
WEBヤングマシン
ホンダ新型「高級ミニバン」登場! めちゃ「豪華リアシート」×専用“黒すぎ顔”採用! 516万円の「新型オデッセイ 最上級仕様」はどんなモデル?
ホンダ新型「高級ミニバン」登場! めちゃ「豪華リアシート」×専用“黒すぎ顔”採用! 516万円の「新型オデッセイ 最上級仕様」はどんなモデル?
くるまのニュース
ホンダのロードスポーツ「CBR650R」が精悍でモダンなスタイルへと変身! 「シフトペダル操作だけで変速できる」斬新メカも新設定
ホンダのロードスポーツ「CBR650R」が精悍でモダンなスタイルへと変身! 「シフトペダル操作だけで変速できる」斬新メカも新設定
VAGUE

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

143.1192.5万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

46.0125.0万円

中古車を検索
HR-Vの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

143.1192.5万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

46.0125.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村