好調なセールスを記録し続けるトヨタのミッドサイズSUV、RAV4 PHVとハリアー。2台が同じプラットフォームを用いながらまったく違う性格なのは、同じ人物がチーフエンジニアを務めているからこそである。
同じチームが手がけたからこそまったく違うSUVに
トヨタのミッドサイズSUVが好調なセールスを記録している。今年6月に発売されたRAV4 PHV(プラグインハイブリッド)は、ベースモデルが469万円からと決して安価なモデルではないが、バッテリーの生産能力を超えるオーダーが入ったため、現在は受注停止となっているほどだ。また同じタイミングで発売された新型ハリアーは、1カ月の受注台数が約4万5000台に到達した。2019年暦年のBMWの国内販売台数は4万6814台、VWは4万6794台である。コロナ禍においてわずか1カ月で、人気輸入車ブランドの1年分を稼ぎ出している。
実はこのRAV4とハリアーは同じ人物がチーフエンジニアを務めている。トヨタ自動車MSZデザイン領域 統括部長の佐伯禎一氏だ。ヒットの要因について話を聞いた。
先代の4代目RAV4は北米をメインとした海外専売モデルだった。そして先代の3代目ハリアーは日本国内専売モデルだった。新型ではRAV4を国内導入し、ハリアーを北米(車名はヴェンザ)へ輸出する。要はいずれのモデルも国内外で販売することになったというわけだ。これは同じ「GA-Kプラットフォーム」を採用するRAV4とハリアーを、同じチーフエンジニア、同じ開発チームが同時並行的に開発を進め、明確な差別化、棲み分けができたことによる。
PHVを得たSUVらしい力強さのRAV4
佐伯氏はまずRAV4についてこう話す。
「RAV4は、グローバルで約90万台が売れるモデルですから、普通にやるとどうしても保守的になってしまいます。当社の年間販売台数はおよそ900万台です。RAV4だけでその1割を占めている。もし失敗したら私ひとりのクビじゃ済まない(笑)。でもちょうど、RAV4の企画をはじめる頃に社長の豊田が、『トヨタはかわります。もっといいクルマをつくろうよ』と社内外に対してメッセージしはじめた。そんなときにキープコンセプトでつくったら、社長があんなこと言っているのに、トヨタは結局変わらない、って言われかねない」
そうして新型RAV4はそれまでのシティユースを前提としたクロスオーバーSUVのコンセプトを一掃。乗用車ライクなものとは一線を画すSUVが本来もっている機能や力強さをもったモデルになった。また後輪のトルクを左右独立で制御するトルクベクタリング機構やPHVモデルを設定するなど、ハリアーとは明確な差別化が図られた。
RAV4 PHVは、18.1kWhのバッテリーを搭載し、カタログ値によるEV走行可能距離は95kmにもなる。少し厳しめにみて7掛けにしたとしても約70kmの電動走行が可能で、日常生活はほぼEVとしてカバーできる。そして何よりも面白いのが環境性能ありきではなく、動力性能を高める仕様になっていることだ。システム最高出力は306psで、0~100km/h加速は6秒。またアウトドアや災害時などいざというときに最大出力1500Wで外部給電ができるのもいい。
「うちのクルマを加速性能順で並べてみて、スープラの次がRAV4のPHVって、なんだかおかしくていいじゃないですか。大きな市場に対して常に挑戦していく、シンボリックな存在になればという思いを込めました」と佐伯氏は笑う。
洗練度の増したシティーユースのハリアー
そしてこう続ける。「もちろん同じプラットフォームですからPHVなどをハリアーに搭載することも可能です。もし私がハリアーだけを担当していたらそうしていたかもしれません。あれもこれもと足し算をしたくなる。でも今回はあえて引き算を入れてあります」。
新型のハリアーが目指したのは、海外で販売することも念頭に日本の美、日本人のバランス感覚、品などをあらわしたものという。
「人を大事にする、触れ合いや出会いがあって、素敵な時間をすごす。そういった世界観をイメージしています。横断歩道を人が歩いていたらとまりましょう、互いにすれ違えないような狭い道では譲りあいの気持ちをもちましょう。それがあれば、あおり運転のような悲しい事件は起こらないと思うんです。ハリアーに乗っているお客様にはそんな気持ちになっていただければと」
都市で使うことを前提とすれば、ハリアーのオススメは先代モデルにはなかった2WDのハイブリッドだ。動きが軽快だし、JC08モード燃費は27.4km/lにもなる。このサイズのSUVとしては驚異的だ。
新型RAV4とハリアーは、同じプラットフォームを用いながら、かくも違う性格を与えられている。ハリアーの静粛性の高さ、ブレーキフィールのよさなど、とても洗練度が増している。そして、RAV4 PHVは、近年のプラグインハイブリッドモデルの中でも秀逸の出来だ。実は価格も補助金などを考慮すればとてもリーズナブル。どうやらトヨタは確実に変わっているようだ。
文・藤野太一 写真・TOYOTA 編集・iconic
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