近年、ナンバープレートの分類番号(地名のとなりに記載)は3桁が主流になり、2桁は少なくなっている。2桁のクルマは、多くが20年以上所有され続けている場合が多い。20年以上もおなじクルマに乗り続ける理由とは? 第9回は“品川35”のランチア「テーマ8.32」を所有するオーナーをたずねたお話の前編。
きっかけはオウナーズ・クラブからの“逆紹介”
先日、ランチア「テーマ・ステーションワゴン」を20年以上の所有する崎野眞彰(さきのまさあき)さん(74)を取材し、記事化した。目黒通りで偶然、崎野さんのランチアを見かけたとき、ボディに「Lancia Thema Owners Club」のステッカーが貼られていたので、オウナーズ・クラブの事務局に問い合わせたのが、そのきっかけになった。そして、そのとき、崎野さんのほかに、「品川35」のテーマ8.32のオウナーがいることも教えてもらい、「取材可能とのことです」と、幸運にも紹介していただいた。
Vol.8 品川35のランチア・テーマ・ステーションワゴン 前編/後編
テーマ8.32といえば、フェラーリ製のV型8気筒エンジンを搭載するハイパフォーマンス・ヴァージョンだ。噂では「夏場は乗れない」「故障が頻発した」と、聞いた覚えがあるだけに、「長年所有しているのであれば、色々な苦労があったはず……」と、思った。
早速、オウナーの服部太朗さん(55 歳)に連絡した。テーマ8.32を中古で購入したのは1998年というから、20年超所有されている。トラブルについては、意外にも「大きなトラブルはほとんどありませんでした」とのこと。
噂が噂だっただけに、いささか驚いた。服部さんも「トラブルがほとんどないことを話すと、皆、驚くんですよね(笑)」という。
Vol.1 春日部33のブガッティ EB110 前編/後編
2台続けてテーマを所有
7月下旬、待ち合わせ場所にあらわれたブルーブリザード・メタリザートのテーマ8.32は、明らかに崎野さんのテーマとは違うエンジン・サウンドだった。フロントに搭載されるのは、フェラーリ「308クワトロバルボーレ」用の2.9リッターV型8気筒ガソリン・エンジンだ。まさにフェラーリそのもののサウンドに、筆者は、「これが“8.32”の凄みか……」と、すっかり酔いしれてしまった。
オウナーの服部さんは、広告代理店に勤めるサラリーマンだ。1998年に購入した8.32は1992年型で、ワンオウナーの個体だったという。走行距離は約4万8000kmだった。購入先は、東京都世田谷区のロスコント。現在のコレツィオーネだ。
「8.32の購入前も、テーマに乗っていました」
服部さんは8.32以前、自然吸気の2.0リッター直列4気筒ガソリン・エンジン搭載の「2.0 i.e. 16v」に乗っていたという。1995年に、1992年型を購入したそうだ。
「当時、“30歳になったら4ドア・セダンの輸入車を購入しよう!”と、決めていました。最初はBMW『525i』(E34)の購入を検討しましたが、多くの人が乗っているのが気になって……。そんなとき、フィアット『ティーポ』に乗る機会があって、イタリア車の虜になりました」
Vol.6 横浜33のフェラーリ テスタロッサ 前編/後編
イタリア車の実車に触れた結果、乗り味やデザインが、想像以上にしっくりきたという。それまでも、テーマは“それなり”に気になっていたそうだ。雑誌『NAVI』(二玄社)で、作家・田中康夫氏が所有する8.32のエピソードを読み、「かっこいいなぁ~」と、漠然とした憧れを抱いていたという。
早速、テーマを含めたイタリア製4ドア・セダン探しが始まった。ほかにもアルファロメオ「164」やマセラティ「430」も気になったという。が、「結局は1番安価だったテーマにしました」と、服部さん。
購入先は、仙台の正規ディーラーだった。マツダが当時展開していた「オートザム」である。
「当時、転勤に伴い仙台市に住んでいました。自宅近くにあったオートザムの店舗には新車のテーマが展示されていたんです。間近でテーマを見て、『購入するならテーマしかないな』と、確信しました。ただ、新車は予算オーバー。そのことを営業マンに伝えると『中古車を探しますよ!』と、早速、条件に合う個体を探し始めてくれたんです」
見つかった2.0 i.e. 16vは、京都にあった個体だったという。
ちなみに、テーマの購入には“パソコン通信”も役立ったという。
「当時、ニフティのパソコン通信に『イタリア車の部屋』というサイトがありました。そこでの情報のやりとりが、大いに参考になりました。購入後はオフ会に誘われるなど、テーマ・ライフが充実しましたね」
この出会いから数年後、いまのLancia Thema Owners Clubが設立されたそうだ。
インテグラとの2台体制へ
購入後はテーマ2.0 i.e. 16vと、3代目インテグラの2台体制だったという。インテグラはノンターボの5MTだった。
「インテグラは2代目、3代目と2台乗り継ぎました。いずれも、3ドア・ファストバッククーペです。3ドアを選んだ理由は、スタイリッシュでかつ実用性にも優れていたからです。生活臭くないうえに、いざとなればラゲッジルームに4本のタイヤを積載可能な実用性が気に入っていました」
はじめて所有したテーマについて「故障は少なかったですね」と、話す。ただし、納車直後、バルブクラッシュを起こしたという。
「納車前にタイミングベルトの交換をお願いしたのですが……。納車してから約1カ月後に発生しました。ただ、3カ月の保証付きだったので修理代はタダでしたが」
その後、大きなトラブルは皆無。乗るごとに、テーマへの愛が深まったという。
「2台乗り継いだのは、実用性の高さも気に入っていたからです。2.0 i.e. 16vは、リアシートのバックレストを倒せば、自転車も積めました」
ATのテーマ、MTのインテグラの2台体制を謳歌していたものの、東京への転勤に伴い手放すことに。
「東京への転勤が決まったとき、同僚から『50万円で譲ってほしい』と、言われたんです。ちょうどそのとき、中古車雑誌『カーセンサー』に現在所有する8.32が掲載されていたので、2.0 i.e. 16vを同僚に売却し、8.32の購入を決めました」
東京に戻ったあと、しばらくは8.32とインテグラの2台体制だったものの、インテグラはひょんなことから親戚に譲ったそうだ。1998年頃の話だ。
購入したテーマ8.32のコンディションはいかに? 気になるトラブルも含め、次週報告する。
【2桁ナンバー物語 過去記事】
Vol.1 春日部33のブガッティ EB110 前編/後編
Vol.2 品川35のアルピナB8 4.6 リムジン 前編/後編
Vol.3 練馬34の日産 ステージア 前編/後編
Vol.4 八王子33のディーノ246GT 前編/後編
Vol.5 三重33のBMWアルピナ 3.0CSL B2S 前編/後編
Vol.6 横浜33のフェラーリ テスタロッサ 前編/後編
Vol.7 横浜34のポルシェ 911 前編/後編
Vol.8 品川35のランチア・テーマ・ステーションワゴン 前編/後編
文・稲垣邦康(GQ) 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
テーマ8.32のオーナーさん、すみませんね。読まずにこのコメントだけ書いた。