現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 「ポルシェ」や「ビートル」だけじゃない! メルセデス・ベンツにも存在した「リヤエンジン」のクルマとは

ここから本文です

「ポルシェ」や「ビートル」だけじゃない! メルセデス・ベンツにも存在した「リヤエンジン」のクルマとは

掲載 更新 4
「ポルシェ」や「ビートル」だけじゃない! メルセデス・ベンツにも存在した「リヤエンジン」のクルマとは

メルセデス・ベンツにも「リヤエンジン」があった!

 意外かもしれませんが、これは事実。と、言えば読者の皆さまは、あの有名なリヤエンジンのスポーツカーであるポルシェを生み出した「フェルディナンド・ポルシェ博士」が当時のダイムラー・ベンツ社に在籍したことを思い浮かばれるのではないか。そこで、メルセデス・ベンツの歴史上、とくに希少な「リヤエンジン」と、当時のダイムラー・ベンツ社で活躍した「フェルディナンド・ポルシェ博士」について紹介しよう。

これぞスポーツカー! これぞポルシェ! 「911」を生み出したプロトタイプ「754 T7」とは

メルセデス・ベンツのリヤエンジンとは

 当時のダイムラー・ベンツ社は1934年のベルリンモーターショーで突如、リヤエンジンを搭載した小型で可愛らしいモデル“130H”を発表した。ところで、この「H」の意味は? このHはドイツ語でHeckmotor(ヘック・モトール)のことを指し、日本語ではリヤエンジンの意味だ。

 フェルディナンド・ポルシェ博士がダイムラー・ベンツ社に在籍していたのは1923年から1928年までだったが、じつはこのリヤエンジンの計画は1927年にすでに始まっていた。従って、まさにこのメルセデス・ベンツ130Hは、ポルシェ博士が設計したフォルクスワーゲン・ビートルの先祖と言える。

 実際には1931年、このメルセデス・ベンツのリヤエンジンシリーズを完成させたのはハンス・ニーベル博士(ポルシェ博士の後継者)で、130H、150H、170Hの3モデル(前開きの2ドア)が生み出された。

 この130Hは太い鋼管バックボーン・フレームのリヤアクスルより後方に、水冷直列1.3L4気筒エンジン(26ps)を搭載した後輪駆動車のレイアウトであり、ポルシェ博士の息の掛かった最後のメルセデス・ベンツだ。そして、ひとまわり大きな150Hと呼ばれる1.5L(55ps)のスポーツ・ロードスターも少量生産され、1935年には1.7Lの170H(38ps)へと発展した。セダンタイプのほかに、カブリオレも生産されている。

 この170Hは、小型の130H同様太い鋼管バックボーン・フレームのリヤアクスルより後方に、水冷直列1.7L4気筒サイドバルブエンジンを搭載した後輪レイアウトを採用。サスペンションはフロントが横置き上下リーフスプリング、リヤがコイルスプリングであることがフォルクスワーゲン・ビートルと違う点だ(VWのエンジンは空冷水平対向4気筒、サスペンションは前後トーションバー)。

 馬力は38psと少ないが、低回転で粘るトルキーなサイドバルブエンジンと、3速+オーバードライブのミッション付きの実用車である。室内は高めの4シーターで、材質やクッション、アームレストの位置や頼りになる「つり革」の質感など、贅沢な仕上げのアイテムとともに上質な乗り心地を味わえた。

 しかし、1939年の同じ1.7Lエンジンをフロントに搭載した170V(Vornmotor=フロントエンジンの意味)が成功するに従って、このリヤエンジンの170Hは自然とラインドロップした。特筆は、このメルセデス・ベンツの希少なリヤエンジンの基本的なレイアウトがポルシェ博士により育てられ、結果1937年の国民車・フォルスワーゲン・ビートルとして実を結んだことである。

 なるほど、こう見ると同じ設計台から生まれても2本の枝に分かれる運命にあったメルセデス・ベンツとフォルクスワーゲン両社とも、断固たる主張を貫く作品だったと言える。

 ちなみに、筆者が1972年にヤナセの関係会社でメルセデス・ベンツの輸入元であったウエスタン自動車に入社した当時、上司の指示で3階駐車場の片隅に置いてあった奇妙な3ヘッドライトでリヤエンジンの170Hカブリオレ(1936年式)をはじめ、170SカブリオレB(1951年式)、500N(1931年式)の洗車や掃除を小まめにしていた(すべてオリジナルは黒色)。

 その後、時代も変わりレストアを熱心に考えるオーナーが増え、クラシックメルセデスを直したいと、当時日本からドイツ本国に部品の問い合わせが年間1500件近くあったと言われている。そこで、メルセデス・ベンツミュージアムがフェルバッハで運営するクラシックセンター(1993年設立)から夢のようなオファーがあった。1993年にウエスタン自動車から社名変更した、ウエスタンコーポレーションが「メルセデス・ベンツ オールドタイマーセンター」の名称で正式にクラシックカーのレストアを開始した(横浜で1995年設立)。

 このマイスター殿堂で厳選された熟練工による匠の技によって、リヤエンジンの170Hカブリオレも丁寧にレストアされて見事に蘇った(ボディカラーは小豆色)。とくに、この希少な170Hカブリオレはサイドのピラーや窓枠をも残してルーフの幌のみ簡単に開閉できる。

 つまり、幌自身にはシャフトは無く、2本の横置き取り外し可能なシャフトで支えている。オープン時にはこのシャフトを取り外して幌と共に後方に畳み込み、トノカバーを被せるという趣向だ。

 この3ヘッドライトの170Hカブリオレは1960年代に東京で発掘し、当時のウエスタン自動車が長期間に亘り保存し1985年に1200時間かけてフルレストアした作品。しかも、筆者の思いが詰め込まれた作品でもある。現在は2018年に新たに設立されたヤナセクラシックカーセンターの管理の元(横浜)、メルセデス・ベンツ唯一のリヤエンジンモデルとして各地の展示会で活躍している。

偉大な技術者「フェルディナンド・ポルシェ博士」

 フェルディナンド・ポルシェ博士が造ったのはポルシェだけではない。事実、名車と言われるメルセデス・ベンツSシリーズはポルシェ博士の手によるものだ。またフランスの大衆車ルノー4CVも、ポルシェ博士が設計に参加。しかし、ポルシェ博士の神髄は先述のフォルクスワーゲンで実現されている。

 ゴットリーブ・ダイムラーとカール・ベンツが「ガソリン・エンジン付自動車を発明した父」とすれば、ポルシェ博士は「クルマ造りの偉大な技術者」だと言える。彼の才能を知る多くの人々、そのなかでもロシアのスターリンやヒットラーがポルシェ博士に設計を依頼したのは事実だ。ポルシェ博士の生い立ちや非凡な才能を語るには、多くは要さない(1875年生まれ1951年没)。

 しかし特筆すべきは、若きポルシェ博士が1898年にローナー社に主任技師として活躍したあとも、電気自動車の研究を続けていたことである。1900年、パリ万国博に「ローナー・ポルシェ電気自動車」を出品し、前輪駆動の電気自動車は一躍ポルシェの名を有名にした。

 その後、電気とガソリンのハイブリッド車を開発し、そしてガソリン車を手がけたのである。現在では、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素に欠かせないクルマの電動化の革新技術を、ポルシェ博士はかなり昔から開発していたのだ。まさに、ポルシェ博士は画期的で先見性に富んだクルマ造りの偉大な技術者と言える。

ポルシェ博士もダイムラー・ベンツ社に在籍していた!

 1906年30歳になったフェルディナンド・ポルシェは当時、シュツットガルトのダイムラー本社がオーストリアに造った子会社「アウストロ・ダイムラー社」の技師長として迎えられる。乗用車、レーシングカー、航空エンジンと彼の才能は大いに開花した。こうした業績で1916年にはウィーン工科大学から「名誉工学博士号」を贈られたのだ。

 1923年には技術担当重役として、シュツットガルトのダイムラー本社に迎えられる。そして、新開発したのがメルセデスの2L4気筒スーパーチャージャー・レーシングカーだ。

 このクルマはレースで上位を独占し、彼の名はさらに高まる。1924年7月4日にシュツットガルト工科大学からも「名誉工学博士号」を授与されている。1926年6月28日にダイムラー社とベンツ社が合併し、社名はダイムラー・ベンツ社になった。新会社の技術陣の顔ぶれは、ニーベル博士、ナリンガー博士、そして1923年ダイムラー本社に移ってきたポルシェ博士という豪華メンバーだ。

 戦後、すぐ生産されたのはポルシェ博士が手がけたツーリングカー・シュツットガルト200、マンハイム350、ニュルブルクリンク460。一方、戦時中の航空機研究で秘かに開発が進められていた自動車用コンプレッサーエンジンは実用化され、一連のツーリング・スーパーバージョンへと確立された。

 1926年にはすでに、直6SOHC6.2Lコンプレッサー付き24/100/160ps、通称Kヴァーゲンが造られた(このKはコンプレッサーのKではなく、Kurzes Fahrgestellのドイツ語で短いシャーシの意味)。続いて1927年からポルシェ博士の有名なSシリーズの生産が開始された。

 このS(Sport)、SS(Super Sport)、SSK(Super Sport Kurz=短い意味)、SSKL(Super Sport Kurz Leichht=軽量の意味)と続くシリーズは各国の富豪に納められ、またレースでは1933年まで多数の優勝記録を残し名車中の名車と謳われている。

 ところで、ポルシェ博士は長年の夢である独自の1Lエンジンを搭載した小型車生産の必要性をダイムラー・ベンツ社の重役陣達に説いたが、このアイディアはそれほど魅力を示されなかった。つまり、当時の重役陣は重厚なメルセデス・ベンツのスタイルからして小型車のイメージが思い浮かばなく、大型車に固執した。そして遂に、ポルシェ博士は当時のダイムラー・ベンツ社を辞め、彼独自のクルマ造りの道を歩むことにしたのだ。

独立した社名は名誉工学博士F・ポルシェ有限会社

フェルディナンド・ポルシェ博士は1930年、54歳で独立し設計事務所をシュツットガルトで開いた。その社名を「名誉工学博士F・ポルシェ有限会社」と商業登記。つまり、苦学者・ポルシェ博士はこの称号に生涯誇りにしていた。現在も、ポルシェ博士の「クルマ造りの職人気質」が、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲン、アウト・ウニオン(現アウディ)、そしてポルシェへと受け継がれている。

 現在では言葉や動作ですべて自分の好みや学習をサポートする革新のインフォメーションシステムが主流となり、最適な移動を提供する「MaaS」でより豊かな生活が始まっている。その背景にはインターネットとつなぐコネクテッド(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動化(E)がある。

 こうした時代こそ脱炭素の流れを踏まえ、偉大な先人たちが築いたその時代の最高の技術を基に、あらゆるメーカーはお互いに最高の革新技術を融合させトータルバランスのとれたモビリティ社会の安全設計哲学がもっとも重要だろう。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

山脈貫通!「新潟‐福島」結ぶ国道が建設着々 “延長21km・トンネル15本”におよぶ大規模道路いつ開通?
山脈貫通!「新潟‐福島」結ぶ国道が建設着々 “延長21km・トンネル15本”におよぶ大規模道路いつ開通?
乗りものニュース
昭和の名車とワーゲンがぎっしり…茨城県の江戸崎商店街でホコ天イベント
昭和の名車とワーゲンがぎっしり…茨城県の江戸崎商店街でホコ天イベント
レスポンス
ドゥカティ現行車では唯一!? 空冷Lツインを搭載する第2世代スクランブラー「アイコン」の魅力
ドゥカティ現行車では唯一!? 空冷Lツインを搭載する第2世代スクランブラー「アイコン」の魅力
バイクのニュース
ホーナーの言うことは「信用できない」とウォルフ。妻に対するFIAの調査の際に不信感を募らせたことを明かす
ホーナーの言うことは「信用できない」とウォルフ。妻に対するFIAの調査の際に不信感を募らせたことを明かす
AUTOSPORT web
バスドライバーを疲れさせる「プルプル運転」とは何か? 自動運転時代の落とし穴! 過剰な安全対策が招く危険とは
バスドライバーを疲れさせる「プルプル運転」とは何か? 自動運転時代の落とし穴! 過剰な安全対策が招く危険とは
Merkmal
46台の輸入EVが丸の内に集結!「JAIA カーボンニュートラル促進イベント」リポート
46台の輸入EVが丸の内に集結!「JAIA カーボンニュートラル促進イベント」リポート
LE VOLANT CARSMEET WEB
【プロカメラマン】が大量画像で記録!「腐っていたKLXが終に熟成!四国MSBR撮影後の修理と詰めの改良!」(最終回)  
【プロカメラマン】が大量画像で記録!「腐っていたKLXが終に熟成!四国MSBR撮影後の修理と詰めの改良!」(最終回)  
モーサイ
「運転席の横に“クルマが踊っている”スイッチがありますが、押したら滑りますか?」 謎のスイッチの意味は? 知らない「使い方」とは
「運転席の横に“クルマが踊っている”スイッチがありますが、押したら滑りますか?」 謎のスイッチの意味は? 知らない「使い方」とは
くるまのニュース
ホンダが全固体電池のパイロットラインを初公開。一連の生産工程を再現しながら徹底検証
ホンダが全固体電池のパイロットラインを初公開。一連の生産工程を再現しながら徹底検証
Webモーターマガジン
【東京オートサロン2024】アルピーヌ A110 R Turini A110 GT ジムカーナチャンピオンマシンなどを出展
【東京オートサロン2024】アルピーヌ A110 R Turini A110 GT ジムカーナチャンピオンマシンなどを出展
Auto Prove
ランボルギーニ、WEC参戦“休止”を発表。ハイパーカー、LMGT3共に撤退……IMSAとテメラリオGT3開発に専念か
ランボルギーニ、WEC参戦“休止”を発表。ハイパーカー、LMGT3共に撤退……IMSAとテメラリオGT3開発に専念か
motorsport.com 日本版
EVの充電がプラグを接続するだけに! Terra Chargeがプラグアンドチャージ対応EV充電器を2025年度から設置開始
EVの充電がプラグを接続するだけに! Terra Chargeがプラグアンドチャージ対応EV充電器を2025年度から設置開始
THE EV TIMES
世界最高峰のラリーストが日本に集結した! ラリージャパンのオープニングは2台同時走行のSSバトル!!
世界最高峰のラリーストが日本に集結した! ラリージャパンのオープニングは2台同時走行のSSバトル!!
WEB CARTOP
マツダが「超凄いロードスター」公開! 2Lで200馬力×幌仕様で登場!? こだわり“リアスポイラー”にも注目!? 限定で明かされた内容とは
マツダが「超凄いロードスター」公開! 2Lで200馬力×幌仕様で登場!? こだわり“リアスポイラー”にも注目!? 限定で明かされた内容とは
くるまのニュース
スタイリッシュでカッコイイ! アキュラ「ADX」世界初公開  1.5リッターVTECターボを搭載する全長4.7mの高級コンパクトSUV
スタイリッシュでカッコイイ! アキュラ「ADX」世界初公開 1.5リッターVTECターボを搭載する全長4.7mの高級コンパクトSUV
VAGUE
2億年前の石材を使ったベントレー!? 「テクスチャー表現」に匠のワザ光る4台
2億年前の石材を使ったベントレー!? 「テクスチャー表現」に匠のワザ光る4台
レスポンス
SS12は“安全上の問題”でキャンセルに。SS11を終えた時点でトヨタ勝田貴元は総合3番手|WRCラリージャパンDAY3午前
SS12は“安全上の問題”でキャンセルに。SS11を終えた時点でトヨタ勝田貴元は総合3番手|WRCラリージャパンDAY3午前
motorsport.com 日本版
トヨタ大逆転か、ヒョンデ初の3冠か。勝田貴元が握る、タイトル防衛のカギ【ラリージャパンの見どころ】
トヨタ大逆転か、ヒョンデ初の3冠か。勝田貴元が握る、タイトル防衛のカギ【ラリージャパンの見どころ】
AUTOSPORT web

みんなのコメント

4件
  • もう少し推敲してくんないか?最初の方で、ポルシェ博士がダイムラーベンツに在籍していたことを書いておいて、後の方で小見出しで「在籍していた!」とか書かれても、それさっき言っただろって話やん。
    やっつけ仕事してももう少しちゃんと書けよ。
  • スバルにも、360やサンバーがあるしな。
    デロリアンも、そうじゃなかったかな。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村