「うるさい」、「振動が大きい」。そんなイメージが強かった“3気筒”エンジンが近年、小型輸入車を中心に急増している。
シリンダーがひとつ多い4気筒エンジンに比べて、特に小排気量で効率的といわれ、ダウンサイズターボエンジンの普及と合わせて、瞬く間に既存の4気筒エンジンが置き換えられてきた。日本の軽自動車も現在は全車種が3気筒エンジンを搭載している。
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それでも国産の登録車では、さほど普及が進まず、どこか安っぽいイメージを払拭しきれない3気筒エンジン。その安っぽいイメージの元凶となっていた音や振動は改善されているのか? そして、メリットは? 日本で今後普及するか否かも含めて、その最新事情に迫る。
文:岡本幸一郎
写真:編集部
軽は全車で3気筒 輸入車でも“置き換え”相次ぐ
大昔の話はさておき、4ストロークの直列3気筒エンジンというのは、1977年に登場した初代ダイハツ シャレードに搭載されたのが、量産車両としては世界初となる。排気量は1Lで、1気筒あたり330ccの3気筒エンジンがコンパクトカーに最適であるというダイハツ独自の設計思想を具現化したものだった。
登録車では普及が進まなかったが、やがて軽自動車では3気筒エンジンが当たり前となる。
いまや日本の軽自動車では、水平対向ではなくてもあくまで4気筒にこだわっていたスバルがすでに撤退し、4気筒エンジンは初代コペンを最後に消滅したため、3気筒エンジンのみとなっている。
また、ダウンサイジングの先駆者である欧州勢では、21世紀に入ってほどなく徐々に増えはじめ、近年では急速に増えてきた。すでに1.5Lクラスまでの多くのエンジンが3気筒になっている。
最近でも、現行VWポロでは基本エンジンを3気筒化したほか、マイナーチェンジを実施したMINIも3気筒エンジンが主体のラインアップとなり、1.5L版はBMWのエントリーモデルにも搭載されている。
アウディも1Lは3気筒だ。あるいは、ルノーはまだ4気筒が多いが、今後は3気筒エンジンが増えそうな見込みで、プジョー・シトロエンもメインは3気筒となっている。
日本車にも増える? 3気筒は1.5Lエンジンの主流へ
一方、日本車の登録車においても、スイフトやノートなどグローバル戦略車を主体に、3気筒エンジンが増えてきており、今後もたとえば次期型フィットやヴィッツなどにも3気筒エンジンの搭載がウワサされている。4気筒が3気筒にとってかわられているわけだ。
このように3気筒エンジンは、コンパクトクラスの常識になりつつある。むろんメリットがあるから増えてきた一方で、デメリットがあるから普及するまで時間がかかったわけだが、件のデメリットが克服できたおかげで積極的に採用されるようになったところだといえる。
1.5Lクラスというと、いまのところまだ4気筒も混在している。マツダやメルセデスは上質なドライブフィールのために4気筒にこだわっていて、新型Aクラスも1.3Lながら4気筒だ。ボルボも一部を除いて基本的には4気筒を主体に据えている。
一方で、同じ排気量で4気筒と3気筒を比べると、むろんサウンドや吹け上がりのスムーズさなど、フィーリングにおいては4気筒のほうが優れるが、性能面では3気筒のほうが優れる面が多い。水平対向のスバルのようなメーカーを除いて、将来的に1.5Lクラスまでのエンジンは大半が3気筒になるものと思われる。
3気筒エンジンのメリットは?
このように増えてきた3気筒エンジンだが、メリットというと、燃費を含む性能面や、設計や生産の面において、いろいろ合理的であることが大きい。燃費面では、エンジン本体のフリクションを低減する上では気筒数が少ないほうが有利で、さらにはパーツ点数も少なくてすめばエンジンの重量も軽くなる。
また、エンジンの燃焼効率としては、1気筒あたりの400~600cc程度が理想的といわれており、これよりも大きいとフリクションロスが増え、小さいと冷却損失が増える傾向にある。
軽自動車で4気筒というのは、これから外れてしまい、あまり効率のよいエンジンではなくなり、コンパクトクラスでよく用われる1.0~1.5Lでは、4気筒よりも3気筒のほうが1気筒あたりの排気量がより適性値に近づくことになる。
また、気筒数が少なく1気筒あたりの排気量が大きいと、一般的にトルクバンドは狭いが瞬発力のあるエンジン特性となる。これは軽自動車やコンパクトカーにとっては好都合だ。
さらには、4気筒エンジンと基本設計を共有しながら、1気筒減らすことで3気筒化が可能であり、比較的簡単にダウンサイジングエンジンをつくれることも挙げられる。いまや排気量が2Lの4気筒エンジンというのは、世界中の大半の乗用車メーカーがほぼ例外なくラインアップしているが、それをベースに1.5Lの3気筒エンジンにするのはあまり難しいことではない。
音や振動…3気筒特有のデメリットは克服できる?
このようにいくつものメリットが挙げられる。一方で、それほどよいものでありながら、普及までに時間がかかった要因として挙げられる大きなデメリットが、お察しのとおり「振動」と「音」だ。
一般的に奇数の気筒数のエンジンやV型エンジンは、“偶力”と呼ばれる物体を回転させようとする力による振動が発生しやすいのだが、それが3気筒の場合はけっこう大きい。
これに対してはバランサーシャフトが有効なのだが、コストや燃費を優先しなければならない今どきの3気筒エンジンではなかなか採用が難しい。そのためフライホイールやクランクシャフトをアンバランスにして振動を打ち消す手法もみられる。
あるいは、燃焼やエンジンマウントの改善も大きい。直噴化と燃焼の解析の進化などにより、3気筒特有の振動と、それによる音をかなり抑えるられるようになった。加えて、ディーゼルにもよく用いられるペンデュラム(振り子)型エンジンマウントが用いられるようになったことも非常に効いている。
さらには、アイドリングストップ機構の普及も、3気筒エンジンの弱点をユーザーに感じさせない上では一役買っていることに違いない。
出力特性についても、3気筒エンジンは低速トルクには優れるが、頭打ちになりやすいのに対し、過給機を付けると、その問題は一気に解消する。
その他、3気筒エンジンは4気筒エンジンに比べて全長が短いぶん、レイアウトの自由度が高まり、ひいては今後ますます増えていくであろう電動化にまつわる各種コンポーネンツとの搭載の兼ね合いにおいても、なにかと好都合といえる。
あるいは、エンジンを縦置きする車種の場合、もともと軽量なエンジンをエンジンベイの後方すなわちフロントミッドシップレイアウトすることが可能となるため、ハンドリングが劇的によくなることも副産物的なメリットといえる。たとえばBMWの3シリーズや1シリーズの3気筒モデルは、もともと4気筒モデルも優れているところ、さらに輪をかけて気持ちのよいハンドリングを実現している。
特有のデメリットを克服し、いくら振動や音が低減されたといっても、フィーリングの質においては4気筒にかなうわけではないが、メリットがますますフィーチャリングされるようになった3気筒エンジンは、今後ますます増えていくことに違いない。
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