田舎道をゆったりと流せる乗り心地
text:Matt Prior(マット・プライヤー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
新しいランドローバー・ディフェンダー110 Sの好印象は、路面からの衝撃をなだめる能力から始まる。インテリアの素材感も良好。アドベンチャー感を演出するためか、構造部材が露出し、トルクスボルトのヘッドが表面に出ている。
沢山の小物入れと、充電ソケットも用意されている。自動車旅行を長期間楽しめばわかるが、これらはとても重要なアイテムだ。
タッチモニター式のインフォテインメント・システムも備わる。ランドローバー製としては初めて、動作が機敏で映像はクリア。扱いやすい。
フロントには2名用のシートか、2+1名用のシートを装備できる。中央の一段高いシートは短時間なら許せるが、それ以上座っているのは難しい。リアシートには3名がけのシートがある。足元も頭上も、空間は広々。
ルーフの両脇に開けられたトップ・ウインドウもいい感じだが、遠い位置ののぞき窓程度。さらに後ろには2名がけの3列目シートも用意できる。簡易的なものではない。
荷室は、2列目シートを生かした状態で916L。2列目を折り畳めば2233Lにまで広がる。横開きではなく上に跳ね上がるリアハッチなら、もう少し広い空間を得られたかもしれない。
操作系の重さは、旧来のディフェンダーとは異なる。軽快で好感触で漸進的。田舎道をゆったりとした気持ちで流すことができる。能力自慢のクルマとして、とても重要な要素だと思う。ランドクルーザーも似たところがある。
オフロードタイヤでも確かな足取り
過酷な路面状況で長時間ドライブするなら、優れた人間工学にもとづいた扱いやすさが必要だと想像がつくだろう。究極のオフロード性能を引き出せるだけでなく、疲労も軽減してくれる。
乗り心地は良い。広く空いた道を、大きく深呼吸するように進んでいく。直進時に限らず、ステアリングは情報量豊かではないものの、正確で安定性に優れる。
オフロード中心の試乗ではあった。短いアスファルト路面の印象から察するに、ディフェンダーは英国や日本での長距離ドライブも魅力的なものになるだろう。
ステアリングは切り込んで負荷がかかるほどに重さが増し、反応が良くなっていく。乗り心地はしなやかで落ち着きがある。姿勢制御は引き締まっており、ボディロールも抑制されている。
タイヤはオンロード用のものではなく、ブロック状のオフロード用。ルーフラックとラダーが取り付けられ、高い位置にはスペアタイヤも載せている。運動性能的には足を引っ張るはずだが、ディフェンダーが確かな足取りで進むことに感心した。
スペアタイヤやオフロード用キットは、地形上必要な装備。岩が露出した場所から、一面が砂利で覆われた場所、巨大な岩山まで、思いつくオフロードがすべてナミビアには揃っている。そこを、タイヤのサイドウォールも使って走る。
砂丘のような砂漠も、河川もある。試乗した時は干からびる前で、水遊びも沢山できた。川底は深い泥で覆われている。滑りやすい草原もあった。英国なら、よく出くわすオフロードだ。
ガソリンもディーゼルも充分に力強い
新型ランドローバー・ディフェンダーのボディデザインで好きな点が、機能も伴っていること。空気抵抗を示すCd値は0.38と悪くない。
ライトの周囲には小さな段差があり、汚れや砂がこびりつく可能性はある。古いディフェンダーは特にそうだった。新しいディフェンダーの場合、この環境では大丈夫そうだ。
ディフェンダーのデザインがどれほど熟成されたものなのか、筆者にはわからない。少なくとも充分に新しく、先代のスタイルを安易に取り入れただけではないと思う。走行時の姿は、一見、初代フリーランダーのように感じられなくもない。
ランドローバーは、ディスカバリー4のステップアップ・モデルに選んで欲しいと考えている。だが、主要ライバルより良いのか悪いのか、新しいディフェンダーの評価は難しい。
英国で複数台を並べて評価する際でも、オフロードを走ると印象が変わることがある。少なくとも、サスペンションを最も高い位置にして走らせている限り、かなりの能力なことは間違いない。
低速域ではディーゼルはもちろん、ガソリンエンジンはそれ以上に力強い。柔らかい河川を勢い良く走破するような場面では、車重が2248kgもあるディーゼルエンジンの場合、勢いを失う可能性はありそうだ。
独立したシャシーもリジッドアスクルもないが、リアのオーバーハングは短く、フロアはフラット。フロントバンパーとスキッドプレートが、クルマで1番地面に近い部分になる。フロントがクリアできれば、クルマは引っかかることなく通過できるはず。
岩場も河川も簡単にこなしてしまう
ディフェンダーで何より印象的なのが、岩場のクローリングも、河川の横断も、すべて簡単にこなしてしまうこと。まるで普通に走っているかのように。
ジープ・ラングラーの場合、スイッチでデフをロックし、アンチロールバーをフリーにする作業が、オフロードに挑戦することを実感させる。ラングラーも走破性は素晴らしく、筆者も好きなクルマだ。オフロード走行に趣味性を与えてくれる。
ディフェンダーは、その手間をできるだけ少なくしようとしている。現在購入できるディフェンダーには、テレインレスポンス・システムが標準装備され、サスペンションやデフ、ブレーキ、トラクションコントロールなどを一括して司る。
クルマから降りたり、ボタンを操作したりする必要はない。空調の効いた快適な車内にいるだけで、通過できるように努めてくれる。牽引バーにかかっている重量や、トレーラーのテールライトの球切れも、車内から確認できる。
運転席からは見えない、ボンネット直下を映し出すカメラも採用。最大900mmの水深まで走行できるが、水量が限界に近いことを教えるセンサーも付く。仮にサイドガラスに迫る水に気づかなかった場合だが。
能力や快適性を高めるための、オプションもふんだんに用意されている。5ドアのディフェンダー110は、英国では4万5000ポンド(607万円)から。今回試乗した2.0Lディーゼルターボは6万5000ポンド(877万円)。ガソリンのP400は、8万7000ポンド(1174万円)になる。
世界でも有数の秀でた能力
ジャガー・ランドローバー社のCCOを務めるフェリックス・ブラチュティガムは、初期モデルの装備は「リッチ」だと認めている。商用向けのディフェンダーは、3万5000ポンド(472万円)ほどになるが、オプションを足して5ドアに10万ポンド(1350万円)をつぎ込むこともできる。
こんな高価なクルマを、今までのディフェンダーのように停められるだろうか。ランドローバーの他のモデルと同様に、保険や税金など、多くの費用もかかるだろう。
3日間に渡ってオフロードと対峙した。沢山のオプションが搭載されていることも、価格も忘れて。そして素晴らしい印象を残した。数百kmの厳しい環境に挑んでも、疲れ知らずだ。
英国も四季の変化が激しい。どのクルマに乗るべきか悩んでいる。リフトアップした3ドアのラングラーも良いし、フォード・レンジャー・ラプターも悪くない。ナミビアに住むなら、トヨタを選ぶだろう。
だが、どんな地域であっても、環境であっても、ディフェンダーは選択肢のトップ3から外れることはない。舗装路でも、オフロードでも、前提であるようにドライブできる。
確かに価格は安くはない。それでも疑う余地はない。新しいランドローバー・ディフェンダーは世界でも有数の、秀でた能力を備えたモデルと断言できる。
ランドローバー・ディフェンダー110 Sのスペック
価格:6万6000ポンド(891万円)
全長:4758mm
全幅:1996mm
全高:1967mm
最高速度:188km/h
0-100km/h加速:9.1秒
燃費:11.2km/L
CO2排出量:234g/km
乾燥重量:2248kg
パワートレイン:直列4気筒1999ccターボチャージャー
使用燃料:軽油
最高出力:240ps/4000rpm
最大トルク:43.7kg-m/1400rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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