ニュルブルクリンク24時間レース2019
スバル STIの先端技術 決定版 vol.40
スバルWRX STIのニュルブルクリンク24時間レース、完全優勝はまだ余韻が残っている。レースが終わった翌日、アデナウにあるスバルのファクトリーを訪ねた。そこで辰己総監督から出てきた第一声は「終わってしまうと、どうやって勝ったか思い出せないですね」という開放感、脱力感たっぷりの一言だった。
今は何も覚えていない
もしトラブルが出たり、アクシデントが起きていたら、「あーすれば良かったとか、こうすれば良かったという思いが残って、細かいことまではっきり覚えているでしょうね」と辰己総監督は話す。
ーー辰己ーー編集
「実際にレースをやっているときは、結構緊迫した場面があって、いろんなことが頭の中を駆け巡るんですけど、それが大事に至ってないからこういう完全勝利という結果になったわけですからね。それでも安心して見ていた時間は全くなかったですね」
「ティムが無線でGT3に当てられた!というのを聞いたとき「あ!終わったな」って思ったんですね、モニターには草むらを走るシーンが写し出されて、「あ~これうちのクルマだ」って。でもそのあと、ティムから大丈夫なのか?無線で聞いてくるんですけど、電波の調子が悪くて実は詳細なことがつかめていなかったんですね。でもティムは元気に走り出したので「あ~良かった」って思いましたよ。あとでピットに戻ってきて見たら、ボディにはちょっと傷がついたくらいでホイールも傷があるくらいだったので、本当についてました」
ーー辰己ーー編集
「まぁ、本当に軽い接触だったのかもしれませんけど、相手はパーツが飛んでしまうほどの接触ですから、それなりに衝撃はあったと思います。だけど、WRXの足回りの部品は、ロアアームやクロスメンバー、ステアリングギヤボックス、タイロッドなど、どれも市販製品のままなんですよ。それが意外と頑丈なんでしょうね。そこも良かったんだと思います」
ーー辰己パワートレーンへの高い信頼性
「ピックアップもね、影響をうけないように工夫しているんですよ。それはQFレースからこの本番までの間に変えているんです。というのは、どうしてもピックアップはあるので、ゴム片がついたら飛ばしてしまおうという対策です。そのために、QFからはエアロでダウンフォースを強くして、タイヤのエアもほんの少し上げています。そうすると路面との摩擦が増えるので、くっついたゴム片が剥がれやすくなるんですね。だから、空気圧も0.05以下のレベルでピットインごとに変更していました」
ーー辰己ーー編集
「いま340psの出力ですけど、この出力であれば信頼性は高いことがわかっていました。テストで24時間使ったエンジンをどこまで使えるのか試しているんです。すると48時間もっちゃうことも分かっていたので、その耐久性のある仕様で仕上げてあるので、そこは心配なかったですね。あとは補機類をきちんとやれば問題ないです。エキゾーストは去年苦労したので、今年は全面的にフジツボさんの技術にお願いして、やってもらいました。音量も含め完璧でしたね。バンテージの巻き方一つでも亀裂が入ったり、溶接技術も重要だし、そこはさすがでした」
ーー辰己GT4より速い!
「ミッションは全体にローギヤード化しました。トップスピードが落ちるほどではないレベルで。以前は最大トルクが出る付近を中心にギヤ比を決めていたのですが、どうもパワーで走った方が良さそうだということがわかって、少しエンジンを高回転まで回すように変更したんです。そのための変更ですね。結果的には3、4速で走る登坂路が走りやすいとドライバーは言ってますから」
ーー辰己ーー編集
「そうですね、去年雨の中、ごぼう抜きをしたから「雨はAWDだから速い」という印象になって、ドライは遅いという人もいるんですよ。そんなことは絶対になくて、ちゃんとシャシーを作ればAWDはドライでも速いんです。それが、今回、一切雨がなく、完全ドライのレースでしたから、それが証明できてよかったです」
ーー辰己ーー編集
「スポーツカーをベースにしているレースカーのGT4にコーナリングで負けていないです。トップスピードがうちは全然遅いのでラップタイムでは厳しいですけど、24時間走れば、GT4勢より上位になりましたからね、気分いいです。シャシーをしっかり作ることと、いろんな工夫したことで勝てる力をつけたと思うので、ある程度のレベルに来たと思います」
ーー辰己そこまでいくと想像でしかわからないが、しなりを利用したグリップということだと想像する。またエンジンにしても、ミッション、LSD、などのパワートレーンは全て耐久性も許容範囲も手中に収め、シャシー、ボディ剛性、サスペンション、そしてタイヤ&ホイールと空力性能で操安性能を作り出し、トータルバランスを整えて24時間に挑んだことがよくわかる。細いことの積み重ねにより、多くのデータと知見を得、それらがレースを支えたということだろう。
「例えばホイールですね。これまでマグネシウム製を使っていたのですが、今年はアルミにしました。1本あたりの重量は数百グラム重くなるんですが、それよりも重要なのは剛性です。これまで硬ければ硬いほどいいと思ってました。ですから、ホイールのディスク面と裏側では剛性が異なり、なかなかやっかいでしたけど、高剛性だけではダメでなんだということに気づき始めたことがありますね。つまり、しなやかさもある程度必要ではないかということです」
ーー辰己ニュルブルクリンク 関連記事
「いや、今は、何もないです。まだ、今年のレースはどうやって勝ったのか思い出せないくらい心地よい疲労感を味わっているので、日本に帰ってじっくりマシンを眺めていると、また何か思いつくと思います。そこからあらたな挑戦を考えます(笑)」
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