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メルセデス・ベンツ「300SLプロトタイプ」で大クラッシュ! 名ドライバー「カラッチオラ」と名監督「ノイバウアー」の友情はいかにして終わったのか

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メルセデス・ベンツ「300SLプロトタイプ」で大クラッシュ! 名ドライバー「カラッチオラ」と名監督「ノイバウアー」の友情はいかにして終わったのか

メルセデス・ベンツの偉大な監督ノイバウアーと雨天の名手カラッチオラの友情の物語、最終章

メルセデス・ベンツのモータースポーツを語るうえで、名監督アルフレッド・ノイバウアーと名ドライバー、ルドルフ・カラッチオラの関係性はとても重要です。今回は、カラッチオラとメルセデス・ベンツが戦前の1938年と1939年にさらなる栄光を掴んだ過程と、カラッチオラがレースを引退するまでを紹介します。

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理不尽なルール変更に負けず8カ月で新マシンを製作

1938年のシーズンはメルセデス・ベンツチームにとって素晴らしい成果をあげた。例えば、1938年7月3日のフランスGPでメルセデス・ベンツ「W154」(V12気筒3Lで2基のスーパ-チャジャー付き)が1位~3位を独占(1位はフォン・ブラウヒッチュ、2位はルドルフ・カラッチオラ、3位はヘルマン・ランク)。続いて、8月21日ベルン近郊で開催された大雨のスイスGPでも1位~3位を独占した。とくに、この大雨のスイスGPでは、メルセデス・ベンツW154はスタート直後にトップに立ち、3連覇を狙った。結果、勝者は雨天の名手ルドルフ・カラッチオラで、2位はリチャード・B・シーマン、3位はマンフレッド・フォン・ブラウヒッチュと、メルセデス・ベンツW154は1~3位を独占した。

メルセデス・ベンツチームはGPで数多くの勝利を飾ったが、一方、以前の常勝国・イタリアは1回も優勝することができなかった。モンツァのレース後、イタリアのスポーツ委員会がノイバウアー監督に愛想笑いをしながら、

「イタリアのスポーツ委員会は1939年のトリポリレースを1.5Lクラスに制限することに決定した」

と通告してきた。ノイバウアーはこうなることを予感していたし、すでに、ドイツ勢をどのようにしたらやっつけられるのかとピットで噂されていたことも知っていた。

しかし、メルセデス・ベンツのザイラー取締役は降参するような男ではなかった。彼は設計者や技術者をシュツットガルトに集めて次のように質問した。

「諸君、来年の5月までに1.5Lカーを造ることができるか?」

設計者たちは「不可能、それは普通の期間の半分ではありませんか」と言った。

しかし、8カ月後には新しいメルセデス・ベンツがホッケンハイムで初めてのテスト走行をパスし、1939年5月には不可能が可能となった。つまり、ヘルマン・ランクがこの1.5Lのメルセデス・ベンツ「W165」でトリポリレースに優勝し、しかも2位のルドルフ・カラッチオラを3分リードしたのだ。

2人の友情の終焉

ニュルブルクリンクのレースでもランクは1位を保ち、カラッチオラは3位に留まった。しかし、ノイバウアー監督は喜ぶには早すぎた。なぜなら、この勝利で10年間の友情がほぼ壊れると思ったからだ。カラッチオラはメルセデス・ベンツから降りると怒って顔が引きつっており、ノイバウアーの差し出した手をじっと見つめて、ゼネラルディレクターのキッセル博士の所へ走り去った。

「こんなことは、もう沢山だ!」とカラッチオラがわめく声をノイバウアーは聞いた。「私に対するサボタージュには我慢できない」

「どうしたというのだ、不満の理由は?」とキッセル博士は尋ねた。

「オレの燃料補給やタイヤの交換はランクの時よりも、とてもノロノロしているんだ。それだけじゃない」とカラッチオラは喚いた。まだ他にも多くの不満と主張があり、心から怒って話していた。

「ランクは若くて、労働者階級の出身だからよくかわいがられ、オレはイタリア系の名前でしかもスイスに住んでいるから、彼に特別な待遇をするのではないのか!」

とカラッチオラは主張した。

それにもかかわらず、カラッチオラはダイムラー・ベンツ社に忠実で、スターマークのために戦後も走り回った。彼は世界のベストドライバーとともに戦った。しかも、すでに彼らの何人かは息子の世代へと移っていったにもかかわらず。

カラッチオラ2度目の大事故で引退へ

1952年中ごろ、ルドルフ・カラッチオラの偉大なレーシングドライバーとしてのキャリアが終わった。それは5月18日に開催されたスイスのベルンGPであった。カラッチオラはルドルフ・ウーレンハウトが新設計したメルセデス・ベンツ「300SLプロトタイプ」(W194)で好スタートを切った。次いで、カール・クリンクとヘルマン・ランクのメルセデス・ベンツが続いた。

10周目。今やクリンクがトップで、続いてランクとカラッチオラが追っていた。13周目。ノイバウアー監督は彼らが通過するごとに喜んでいた。4台のシルバーアローがリードするレース運びとなっていた。カラッチオラは3位にいた。彼は旧ライバルであるランクを捉えた。カラッチオラは歳をとっていたが、以前のお返しをしてやろうと考えていた。彼は追い越した。危険なフォルストハウスのカーブで、カラッチオラはブレーキを軽く踏み込んだ。車両は引きずったように横揺れし、右へ振り回され、そして左へふっ飛んだ。カラッチオラが立て直そうとした時、ガチャンと凄まじい割れる音とともに木片が散らばった。

ノイバウアー監督をはじめスタッフたちはピットにおり、そして待っていた。トップグループがとっくにこちらに来るはずであった。が、しかし1台も車両が来なかった。ノイバウアーは熱くなってきた。何かアクシデントでもあったのか?

コースから何の報告もなく、スピーカーからもない。ノイバウアーの気がかりな予感が確実なものとなった。何か恐怖が襲いかかってきた。1人の男が手を振り回し、「救急車、救急車だ!」と叫びながら、息も絶え絶えになりながらこちらへと来た。

「どうしたのだ?」とノイバウアー監督はその男に大声で言った。

「カラッチオラが酷い。足、頭がぐちゃぐちゃだ!」とその男は言った。

救急車がやって来た。担架が降ろされ、担架の上のカラッチオラは血まみれであった。妻の“ベビー”・カラッチオラは見た。カラッチオラが体を起こそうとし、手を振ってみせようとしているのを! また、ひどい血まみれの顔も見た。

「ルディ!」と彼女は大声をあげた。

「ベビー!」と小声で彼は言った。「オレはついているんだ。折れたのは左足だ。さらに短くなるだろうから、もうびっこは引かなくて済むよ」と加えて言った。

5カ月間カラッチオラはギプスをはめ、再び歩くことができるまで2年が過ぎた。ルドルフ・カラッチオラは2度とレースで走ることはなかった。

アルフレッド・ノイバウアー監督は後に次のように述懐した。

「私はヌボラーリ、ローゼマイヤー、ランク、モス、ファンジオなど偉大なドライバーたちを知っている。だが、その中で最も偉大なのはカラッチオラだ」と!

■参考文献:“Männer, Frauen und Motoren”, Alfred Neubauer, 1953

【ノイバウアーとカラッチオラの物語】 ・第1回:「ピットサイン」の考案者はメルセデスの名監督「ノイバウアー」だった…「雨天の名手カラッチオラ」との友情のはじまりとは ・第2回:レース史上初の「ピットサイン」はメルセデスが考案! 世界恐慌の危機に名監督「ノイバウアー」が提案した斬新な参戦プランとは? ・第3回:「ミッレ・ミリア」で初めて勝利した外国人ドライバー「ルドルフ・カラッチオラ」…ベンツからアルファに移籍して襲った大事故からの彼の運命は…!? ・第4回:伝説のメルセデス・ベンツ「シルバーアロー」はなぜ勝ちまくれた? 公道最高速430キロ超を記録した名選手「カラッチオラ」の活躍を振り返ります

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