レクサスブランドとしては初の1.5L直列3気筒ハイブリッドを搭載したコンパクトSUVのLBX。小さな高級車としてのブランドアピール力はいかがなものなのだろうか? スバルのコンパクトクロスオーバー、クロストレックとの比較で評価していこう。
※本稿は2024年7月のものです
文:水野和敏/写真:奥隅圭之
初出:『ベストカー』2024年8月26日号
[クロストレック]の作り込みがハンパない!! 460万円の[LBX]要改善ポイントは? コンパクトSUVを徹底評価!
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■コンパクトSUVの新評価とは?
ベースとなったヤリスクロスに対し全幅を60mmワイドにしたレクサス LBX(左)は、豊かな面の張りを表現した造形で高級車感を演出。スバル クロストレック(右)はゴツゴツしたアウトドアギアを演出する造形だ
今回取り上げるのはレクサス LBXとスバル クロストレックです。この2台の車格や狙いは異なりますが、両車ともにコンパクトなクロスオーバー車という共通点があります。
LBXはレクサスブランドとしては初めて全長4200mmを切るコンパクトカーですし、3気筒エンジンを搭載したレクサスモデルもこのLBXが唯一の存在です。
LBXの価格は460万円です。これがこのクルマを評価する大きなポイントになります。エンジンは1.5Lの直列3気筒ハイブリッド。これはヤリスやアクアと同じパワーユニットです。
一方のクロストレックの取材車はFF仕様の266万2000円。2Lの水平対向4気筒エンジンを搭載しています。両車の価格差は約200万円です。
さてLBX、基本となるプラットフォームはヤリスクロスですが、全幅は60mmワイド化させた1825mmです。この“幅広化の演出”が車格感を感じさせ、販価に対する商品価値を作っています。LBXの全幅がヤリスクロスと同じ1765mmだったなら、レクサス店のショールームに置いたときに貧相に見えてしまうのです。
片側30mmの幅代でフェンダーラインに抑揚をつけて盛り上げ、ドアパネルの面を豊かにしてボリューム感を演出しています。特に後ろから見た時のどっしり感は全幅の広さが生み出し、車格の高さを感じさせます。
LBXのエクステリアデザインは、キャラクターラインを抑え、面の張りを活かしたソリッド感のある造形。前後のバンパーやフェンダーにも過度な演出の凹凸がないため、車体全体で張りのある塊を演出し、高級感ある佇まいを上手に作っています。
フロントマスクは「レクサス顔」ですが、それ以外はシンプルで面の表現が上手です。張り出しを抑えながらもしっかりと存在感を表現したフェンダーモールの造形も上手。フロントバンパーの角からリアまでソリッドな面が繋がっています。
リアコンビランプの形状は空力対応しています。車体側面を流れた風が、コンビランプの角部で整流されて後方に流れます。
ショックアブの伸び側も緩く、よく伸びるクロストレックの足に対し、LBXは全体的に硬めの足だ
クロストレックは、アウトドアのタフさを演出する狙いでゴツゴツ感を敢えて強調した造形であることは理解しますが、それでも、そのゴツゴツ感にまとまりがもう少し欲しい。やや取って付けたような造形です。
リアドアからリアフェンダーにかけて張り出した棚を設けた造形はいい面を作っています。ですが、角張った樹脂製フェンダーモール自体が存在を強調しすぎています。
ゴテッと凹凸の大きなリアバンパーや、空力のためでしょうが角を際立たせたリアコンビランプが目立ってしまい、せっかくのリアフェンダーの素晴らしい面を相殺しています。これらが少しアンバランスな感覚を生んでいます。
お化粧の上手な淑女は、化粧がわからないようにしっかりとお化粧をして綺麗にしています。いかにもまつ毛を付けました、アイラインを入れました……と個々を強調し過ぎる化粧は、纏まり感を希薄にします。
LBXのボンネットフードを開けると車体構造はヤリスクロスと基本は同じですが、フェンダーパネルの取り付け部などの隙間はしっかりと樹脂カバーで蓋をしているのが確認できます。さらに、フード後端のゴムシーリングも左右いっぱいに貼られています。
ダッシュパネルには防音インシュレーターがびっしりと貼られていますし、ボンネットフード裏側にも吸音材が貼られています。防音対策には相当気を遣っています。ただし、サスアッパーのスポット溶接打点等を見ると打点部の凹みが大きく、パネルの建てつけ(合わせ)に粗さが見えます。
クロストレックのエンジンルームは車体構造も含めインプレッサと基本は同じです。最新のスバルの車体構造はガッチリとした剛性と衝突安全性を考慮したクラッシャブル構造が上手にバランスされています。
車体下部のサイドメンバーも真っすぐな形状で通り、アッパーリーンフォースも前方までしっかりと回り込んで剛体を構成しています。サスアッパーを爪で弾いても、“ぺしぺし”と音が減衰されて、ほとんど室内には入りません。スポット溶接の打点もきれいで、パネルの合わせの精度が高いことがわかります。
■内装はオーナーが常に見る場所だが
ソフトパッドを配したLBXのインパネは上質さを演出。メーターの書体が細く小さいため読み取りにくい
高級感を演出するもう一つのポイントがインテリアです。パッと見た印象で善し悪しが判断されるエクステリアとは異なり、インテリアのデザインと装備はオーナーが運転している間、常に目にし、触れています。
LBXの内装ですが……インパネやドアトリムにスエード調表皮を被せて、高級な雰囲気にしていますが、例えば、リアドアのトリムはソフトパッドではなく、樹脂にソフトフィール調の塗装をしただけです。
スエード調の表皮も表面がツルツルですが、もうちょっとバックスキンの風合いが欲しいところです。これは460万円のクルマの内装としては物足りないです。
インパネはフラッシュパッドで、バキュームをかけながら加工してソフトフェイシアに成形したもので、これは高級車のインパネです。ドライバーに向いた正面はスエード調の表皮で仕上げています。
メーターは文字が小さく少し見づらいです。一番重要な速度表示は、識性がよくない書体の小さい文字で、瞬時の読み取りは少し難しいです。
天井の内張表皮も目付が粗い素材で作られています。
インパネやドアトリムにスエード調表皮を使い、シートにはセミアニリン本革にウルトラスエードを組み合わせた表皮を使っていますが、乗員の目につきにくい、天井内張等は軽量化と価格の抑制をしています。
リア荷室の内張も同様に目付が粗く、手触りも少し毛羽だっています。
LBXのシートは座面前端部が角張っていて膝裏を圧迫する
運転席シートに座ると、座面先端に「角」があって腿の裏を圧迫します。この位置にはもっとクッションを持たせ、優しいRをつけてほしい。腿の裏にある血管の血流はとても大事です。
座面中央部のクッションストロークが少なく、座面が薄く感じます。お尻を下ろした時に、座面にスッと包まれる感覚が薄いです。
アクセルペダルはオルガン式ですが、トヨタのオルガンペダルはどのクルマでもフロア側の支点が内寄りで、踏み板部が外側に斜めに配置されています。
ペダルの斜めの配置は、ペダルの踏み替えや、保持性はいいのですが、ブレーキペダルの中央よりも右側を踏んだ際、右足靴の踵がアクセルペダルに引っかかりやすくもなります。
もう少し、支点を15mm程度外側に出して、立てた配置のほうがペダルの操作性と共踏みの防止が向上すると思います。
後席ドアを開閉すると、特に閉めた際に“バーン”と金属の干渉音がします。ラッチの金具が当たる音です。これは製造時の建てつけ精度によると思われます。
後席ドアの開きは角度が小さく、いっぱいに開けても斜め後方から乗り込むような動作となります。最近のユーティリティコンパクトカーなどでは90度近くまで大きく開きます。
コンパクトカーのプラットフォームなのでドア開口部の足元スペースは狭く、さらにシルの段差も深いので足を通過させるスペースが不足します。このリカバーのため、ドアの開口角度を大きくして足元スペースを稼ぐクルマが多いのです。
LBXは後席の座面の末端が張り出しているため、乗降時に足が地面に着き難い
後席の座面の末端が張り出しているため、お尻が止められてしまい、乗降時に足元が地面に着き難くなっています。シートの末端を5cm程内側に削除しても、快適性には影響しません。
後席も前席同様、座面のクッションストロークが少ないので、お尻が跳ね返され、スッと沈み込んで包まれる座り心地はありません。
その目線でクロストレックを見ると、しっかりと座面前端部が斜めに内側に切り取られています。スッとお尻を出し入れでき、足が地面に着きやすいです。
LBXの荷室フロアボードはセットする位置で高さを2段で調整できてよい。奥行きや横幅は標準的なコンパクトSUVのサイズです。
全長がLBXに対し290mm長いクロストレックでは荷室奥ゆきに余裕があります。ただ、荷室フロアは高く、意外と背の高い荷物は積みにくいです。
荷室フロアカーペットの目付を見てください。266万円のクロストレックと460万円のLBXで、ほぼ同じ質感です。やはり販価相応にこのあたりの質感は大切にしてほしいです。
■相変わらずのスバル流インパネ
基本的にはインプレッサと同じ造形のインパネ。メーターバイザーなどがややゴチャゴチャした印象だ
クロストレックのインパネは基本的にはインプレッサと同じです。段を積み重ねたような造形は少しガチャ感があります。
さらに、ブラックの色味が部位によって違っているので、まとまり感がありません。黒だけで6タイプの色違いがインパネにあります。反射や素材の質感を考慮して、同じ色味に見える工夫がほしいところです。
メーターの視認性はいいです。文字の大きさも重要ですが、書体も読み取りやすさに効いています。
シートは座面のクッションストロークもあり、お尻がスッと沈み込みます。ただ、表皮が滑りやすく、身体がホールドされません。
ペダル配置は適正で、踏み間違いのリスクも小さいです。
後席ドアを開けるとドアとサイドシルを噛み合わせるストライカーがあるのはほかのスバル車同様です。ガッチリとしたクロスメンバー効果を持たせて高い剛性を作っています。
さらに後席乗員を3cm程内側に座らせるシート配置とすることで、側突時の乗員保護性能を高めています。北米での衝突試験で高い評価を受けるのも納得です。
■スバル クロストレック
全高の低い水平対向エンジンを縦置きすることで、衝突対応構造を上手に設計している
いつものように歩くほどの速度でゆっくりと走らせながら左右に大きくステアリングを回します。インプレッサではセンターから左右10度ほどは不感地帯がありましたが、クロストレックは遊びがなく、左右差なく素直に反応します。
速度を上げていくと……ロードノイズがよく抑えられています。しっかりとした車体の剛性やパネルの合わせの精度を感じます。橋梁部の路面の繋ぎ目の段差もスムーズにいなしますし、音も抑えられています。路面のペイントを通過する際の足の動きも滑らかです。これはいい足です。
ややステアリング反力が弱く軽く感じるのですが、クロスオーバー車ということを考えると、このくらいゆったりしたほうが悪路では乗りやすい。ターンパイクの下り込みのターンインでもフロント荷重になることはなく、しっかりと後輪が接地しています。
フロントの切れ込みに対するリアの追従バランスもよく、安定したコーナリング姿勢です。ショックアブの減衰は伸び側も縮み側も緩めて自由に動かしています。けっしてスポーティな操縦性ではありませんが、クロスオーバー車としての操安の合わせ込みは秀逸です。
フルブレーキングではノーズダイブがやや大きめですが、リアサスがスーッと伸びて接地が失われません。
エンジン音がカウル部のエアコンフレッシュエア導入口を伝わって室内に入ってくるのが気になります。フロアからの振動系低周波音はまったく入ってこないぶん、さらにエンジンの吸気騒音が目立ちます。
2LNAエンジンは、マイルドハイブリッドのモーターがアクセルを踏んだ瞬間のトルクレスポンスをアシストするので、非力感はありません。
■レクサス LBX
余計なキャラクターラインや付加物に頼ることなく、面の構成で塊感を表現した造形技術は素晴らしい
同じように歩くほどのゆっくりとした速度でステアリングを左右に大きく切ると、若干左右の応答性に差があります。フロントの動きには左右差はありません。
リアサスに荷重が入った瞬間の追従性の違いで、右に切った時に遅れを感じます。つまり、左リアサスです。反力感が少なく、接地の感触も希薄です。微小な段差が連続する、波状路面区間を40km/h程度で走るとわかります。
左リアからは突き上げの振動が入ってきません。これはショックアブやサスペンションの問題ではなく、車体です。トーションビームの取り付け部だと思います。
フロントは左右差なく反応しています。バネが硬いため、操舵に対する反応はシャープで“シュシュ”と動きます。ショックアブの微小入力域でややフリクションがあるため、足の動き出しが渋く、路面の小さな凹凸を拾ってゴツゴツした硬さを感じます。
3000rpm付近だけステアリングホイールに大きめの共振が出ます。これはエンジンです。3気筒の振動です。パワーユニット自体はよくできています。トヨタのハイブリッドシステムは完熟しています。
急制動ではペダルを踏み込んでからワンテンポ遅れて制動力が立ち上がります。常用域ではこの遅れはありません。この効き方は少し違和感がありますね。
■スバル クロストレック Touring:89点
インプレッサをベースにタフなアウトドアギアのイメージを演出したクロストレック。最低地上高は200mmと高く、オールテレーンタイヤを装着する
インプレッサをベースとしたクロスオーバーワゴン。最低地上高を200mmまで引き上げてオールテレーンタイヤを履いているとは思えない操安性の高さには、開発陣のセットアップの努力を感じる。
バネは比較的ソフトでショックアブも伸び側、縮み側ともに減衰を緩めているため、足は軟らかめに大きくストロークするが、不安定な感じはなく、上手にバランスさせている。
一方で相変わらずゴチャゴチャした印象のインパネはマイナス評価。もう少しスッキリしてカラーコーディネートされたデザインを望みたい。メーターの表示は書体や文字の大きさが適正で視認性がよくこちらは高評価だ。
●水野和敏 取材メモ
・インプレッサをベースにアウトドアのタフさを演出する意図は理解するが、樹脂フェンダーがゴツすぎるなど、洗練度が足りない
・バネもショックアブもソフトにしながら、フリクション感なくスムーズによく動く足で操安性をバランスさせたセットアップは秀逸
・2L・NAエンジンは、マイルドハイブリッドのモーターアシストでトルクレスポンス良好
●スバル クロストレック Touring 主要諸元
・全長:4480mm
・全幅:1800mm
・全高:1575mm
・ホイールベース:2670mm
・最低地上高:200mm
・最小回転半径:5.4m
・車両重量:1540kg
・エンジン:水平対向4気筒DOHC
・総排気量:1995cc
・最高出力:145ps/6000rpm
・最大トルク:19.2kgm/4000rpm
・モーター:13.6ps/6.6kgm
・トランスミッション:CVT
・WLTCモード燃費:16.4km/L
・Fサスペンション:ストラット
・Rサスペンション:ダブルウイッシュボーン
・タイヤサイズ:225/60R17
・車両価格:266万2000円
■レクサス LBX “Cool”:88点
ヤリスクロスのプラットフォームをベースとしながらブランドの上質さ、高級感を演出するレクサス LBX。パワーユニットは直3、1.5Lのハイブリッド
ヤリスクロスの基本コンポーネントを活用しながらレクサス車としての車格感を上手に演出したエクステリアの造形はお見事。全幅を1825mmまで拡大したことでサイドパネルに豊かな面を作り出している。フロントバンパーサイドからリアフェンダーにかけてソリッドな塊を表現した造形力は高く評価したい。
一方、インテリアは天井内張やカーペットにもっと上質な素材を使ってほしい。460万円という販価に見合った内装を望みたい。
走ると足が硬くゴツゴツ感もある。左リアサス取り付け部の車体合わせ部に遊びがあるのか接地感が希薄。これは要改善だ。
●水野和敏 取材メモ
・ヤリスクロスに対し60mmワイドにした全幅は、豊かなサイドパネルの面を造形に取り入れ、高級車としての存在感を演出する
・インパネやドアトリムにはソフトパッドを使うなど価格に見合った高級感を演出しているが、天井内張などにコストダウンが見える
・今回の個体特有かもしれないが、左リアサスの動きが悪く、接地感が希薄だった
●レクサス LBX Cool(FF)主要諸元
・全長:4190mm
・全幅:1825mm
・全高:1545mm
・ホイールベース:2580mm
・最低地上高:170mm
・最小回転半径:5.2m
・車両重量:1310kg
・エンジン:直列3気筒DOHC
・総排気量:1490cc
・最高出力:91ps/5500rpm
・最大トルク:12.2kgm/3800-4800rpm
・モーター:94ps/18.9kgm
・トランスミッション:電気式無段変速機
・WLTCモード燃費:27.7km/L
・Fサスペンション:ストラット
・Rサスペンション:トーションビーム
・タイヤサイズ:225/55R18
・車両価格:460万円
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