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話題のニューモデル開発者に“深く細かく”直撃インタビュー 日本人が日本で日本のために作ったコンパクトミニバン「トヨタシエンタ」編

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話題のニューモデル開発者に“深く細かく”直撃インタビュー 日本人が日本で日本のために作ったコンパクトミニバン「トヨタシエンタ」編

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第37回は人気コンパクトミニバン「トヨタシエンタ」の3代目モデルです。トヨタ自動車株式会社 TC製品企画 ZP チーフエンジニアの鈴木 啓友(すずき・たかとも)さんに話を伺いました。

全長、全幅はまったく変えずにやろうと思った

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島崎:先代の登場からもう7年も経ったのですね。早いですね。

鈴木:そうですね。

島崎:7年前にもご担当だった粥川さんに、いろいろなお話を伺いました。その際、粥川さんがとてもお人柄のよさそうな方だったので、先代が、どうしてあの飛んだカタチに決まったのか、とうとう突っ込んで伺えずじまいだったのですが……。

鈴木さん:ああ、なるほど。

島崎:その話に繋げて、今回の新型シエンタは先代に対して変えたことと継承したことというと、どんなことがあったのでしょう?

鈴木さん:はい、わかりました。実は僕は初代シエンタの最初の企画をやりました。当時、片手でも簡単に操作ができますよ、お母さんが楽になりますよ、といった訴求の7人乗りのミニバンとしていました。そこらへんの、家族に寄り添ったクルマを作ろうという大本は、多分、今回の3代目まで一貫している。で、僕は2代目はまったくタッチしなかったのですが、3代目で守ったのは、ディメンション的に全長、全幅はまったく変えずにやろうと思った。その根拠は、ミニバンの価値を考えると、たくさん乗れること、室内が凄く広いよということ。だけどシエンタはコンパクトクラスのクルマであり、取り回しや視界や燃費がいい、ある意味で小さければ小さいことがいいという価値。だけどそうすると小さければいいのに広いほうがいい……と二律背反を言っていることになる。

島崎:二律背反、確かに。

鈴木さん:そこでモデルチェンジをやったからクルマが大きくなるのではなく、しっかり今までのサイズを守りながらも今まで以上に広く使える、大きく見せない。そこが1番苦労してやってきたことです。

小さいことにこそ価値がある

島崎:コンセプトを変えたのではない?

鈴木さん:ええ。サイズを変えないのに今まで以上にマジカルに広かったり取り回しがよかったり燃費がよくなったり、そういうことができたらいいなというのが最初の思いなんです。

島崎:全幅は5ナンバーの1,695mmだとして、全長の4,260mmは先代の最終型と同じ、ホイールベースも変わっていないんですね。

鈴木さん:そこは大事なところで“大きくしては駄目”は大前提でした。

島崎:犬の散歩で自宅のまわりを歩いていますが、丸目の初代など今でも現役でよく見かけますけれど、狭い路地の奥のギリギリの駐車スペースに収まっているシエンタも多いですよね。

鈴木さん:そういうことです。この日本はやっぱりそういう道路や駐車場が多い。トヨタ自動車ではアルファードやノア/ヴォクシーなどの3列シートのミニバンを持っています。その中で1番小さいミニバンなので、やはり小さいことにこそ価値がある、だから大きくしなかったんです。だけど、大きさを変えずに取り回しを良くするにはどうしたらいいのか?は考えのしどころ。そこでボンネットの先端を8cmくらい高くしたり、メーターをステアリングホイールの中から覗くようにしたことで、インパネそのものが45mmくらい下げられた。そうすると、ボンネットが上がってインパネが下がったことで、端々が見えるようになり、運転に自信のない女性の方でも車両感覚が掴みやすくできました。

島崎:なるほど、実際に試乗して車両感覚が掴みやすいのは実感できましたし、ステアリングを切ったときの見えている視界とクルマの挙動が自然に繋がって感じられるのがいいですね。

鈴木さん:ありがとうございます。プラットフォームはアクアやヤリスと同じで、基本的な人の座る位置などは同じにできているんですよ。その上でボンネットが見えるだとか、さらにベルトライン(注:ガラスの下端のライン)も低く水平にし、左折をしようとして、左側方のバイクや自転車もよく見えるようにした。こういうことはディメンジョンを変えずにできること。さらに平面視でカドのRをシッカリとってあるので、取り回しもしやすくしてあります。

島崎:なるほど。

いいことずくめの小さいタイヤ

鈴木さん:それと、今回は前後にプロテクターを付けて、もし擦ってもそこだけ交換できる嬉しさがあるのですが、それだけではなく実は今回は全車が15インチタイヤで、ちょっと小さいタイヤだからこそステアリングが切れ、小回りが効くようになっています。最小回転半径は従来は5.2mでしたが新型は5mです。ころがり抵抗が小さくなって燃費への寄与度もすごく大きいんです。それから扁平タイヤよりゴムの部分がしっかりあるので乗り心地もいいです。

島崎:65タイヤ、いいことずくめですね。

鈴木さん:ただね、小さなタイヤで受けていると、これだけ厚いボディに対してアンバランスに見えやすい。けれど先ほどもお話したプロテクター類の黒い部分の視覚的な効果でしっかり安定して見せている。2代目からディメンションを変えずに進化させたのは、そういうところなんです。

島崎:ウエストラインのお話でいうと、視界も広くなったのですか?

鈴木さん:窓が大きく圧迫感がないのでお子様も酔いにくいはずです。それと2代目よりもサイドウインドゥを起こして、頭の横の空間も広げてあります。全幅は変わらないのに「今までよりなんか広いよね」と思っていただけるはずです。

一過性でなくならない、飽きのこないシンプルさ

島崎:基本を突き詰めたんですね。ところでスタイルなんですが、僕は初めて見た瞬間、反射的に今のフィアットパンダの趣を連想しました。人によってはシトロエンベルランゴみたいだという声もある。もしかして、欧州あたりの外部デザインスタジオに仕事を依頼した……といったことはあったのですか?

鈴木さん:いやいや、このクルマはまさに日本人が日本で日本のために、トヨタ自動車東日本のデザイナーが作ってくれたので、どこかヨーロッパとコンペをしましたといったことではぜんぜんありません。が、とにかく決めたディメンジョンの中で使いやすさやをどんどん追求していったら、たまたまでき上がった形がこのシルエットになった。マーケットも違うので、決して競争したりとか真似るとか、全然そういうことではなくて、1番使いやすいクルマとしての答えがたまたまこれだったということです。

島崎:では決して鈴木さんからフィアットパンダ風にといった注文を出した訳ではなかった?

鈴木さん:具体的にデザイン案をスポイルするような話はしていないんですが、クルマのコンセプトからいくと、ヘッドランプが尖っていたりとかではなく、もっと親しみやすいもの。僕はアクアもやりましたが、やっぱり長く使っていただくクルマだと思うので、昔のシエンタに今もお乗りいただいているように、一過性でなくならない、飽きのこないシンプルさ……そういうことは言ってきたつもりです。

島崎:開発段階でA案、B案など、別案もあったのですか?

鈴木さん:デザイン開発はABCDEFGH……とバーッとたくさんの案はありました。だた収束は早く、この方向でと決まった。ただディテールに入って行けばいくほど難しく、とくに2cmだけ全高を上げたため高く大きく見えやすい。それを女性の方やリタイアされた方が運転することが多いと考えると、大きく見せない工夫が必要。カドを取ったり、変なキャラクターは入れずにカタマリで見せるといったことをやりました。

その人その人の生活に応じた使われ方でいい

島崎:リヤクォーターウィンドウは三次元曲面になっていたりしますね。

鈴木:苦労した部分です。

島崎:ファニーではない、程良く柔らかくやさしい丸みというのが心地いいですね。そういえばJPN TAXIがある今は、今度のシエンタではタクシーに使われることを想定する必要はなかった?

鈴木さん:タクシーは考えていません。だた利便性は高いですし、燃料のインフラが整っていないところもあるので(注:JPN TAXIはLPG仕様)、実際には使われる方もいるんじゃないかなと思います。

島崎:ラゲッジ周りで、グロメットを外すとネジ穴が現れて、用品のフックやバーを使えるようにしてあるのですね。

鈴木さん:あれは“粥川号”(注:先代シエンタ)からやっていた仕掛けなんですが、いろいろなものが付けられるようにしてあります。ただあまり僕らから“こうして使ってくださいね”と規定して言わないようにしている。子育てファミリーが中心ですが、2列仕様でアウトドアに使われたり、かなり多いのは、リタイアされたご夫婦がペットを1匹連れて日本のどこかに旅行へ行くというパターンですね。

島崎:いろいろな使われ方があるということですね。

鈴木さん:スペースのあるクルマはその人その人の生活に応じて、いろいろなことを考えてもらえればいい。僕らからこう使ってくださいよ、ではない。そうした生活シーンが思い浮かべられるサイズ、ディメンションにちゃんと出来てるかどうかというところがポイントかなと思います。

知らないうちに上手で安全な運転ができるようになっているクルマ

島崎:リタイアされた方というお話がありましたが、そうしたユーザー向けの対応はありますか?

鈴木さん:去年出したアクアに対して安全装備を一段、進化させてあります。それとPDA(プロアクティブドライビングアシスト)です。ノア/ヴォクシーなどにも付き始めているのですが、ひとことでいうと、人間の目の役割を果たすカメラ、ミリ波レーダーが物凄く進化して、今までの倍くらいの距離が見えるようになり、見える画角も広くなり、横から来るものも発見しやすくなった。さらに画像認識の技術も早く正確になり、目も頭もよくなった。なので予測技術が物凄く上がって、カーブに入る手前の速度や、たとえば隣りの車線を大型トラックが走っていると、時分の車線内で20cmくらい大型トラックから離れる、そういったことをクルマがやり不安を解消してあげる。

島崎:遠くから見ていて、ジワッとごく自然に、ですね。

鈴木:はい。それと前車に近づきすぎると、アクセルを離しただけで自動的にクルマがブレーキをかけにいきます。クルマ側が少し賢くなり、「ほら、助けてやったぞ」とクルマは言いませんが、知らないうちに上手で安全な運転ができるようになっている……というのを僕らはやっていかなければならないし、新型シエンタにもそれがかなり入っています。

島崎:赤信号も守っていないと知らせてくるのですね。

鈴木:信号の色をカメラが見ているんです。青になってドライバーがヨソゴトをしていて発進しないとそれも教えてくれます。

家族になくてはならないもの

島崎:ところでCMのワンちゃんは可愛らしいですが、相棒だったり親しみやすさだったりするところの訴求ということですね。

鈴木さん:ウチも飼っていますが、皆さんペットへの愛情は凄い。ペットは何なの?といえばやはり家族のようなもの。シエンタも近いところがあって、家族になくてはならないもの、生活の一部、そういう意味で犬も相棒だしシエンタもそうだし。あのワンちゃんは皆でオーディションをして、1番イメージに合う子を選びました。すごくお利口な子でしたよ。

島崎:そうでしたか。では次のマーナーチェンジのCMのモデル犬には、ぜひウチの柴犬を鈴木さんに直々にご推挙いただけるようお願いしておきたいと思います。いろいろなお話をどうもありがとうございました。

(写真:島崎七生人)

※記事の内容は2022年9月時点の情報で制作しています。

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