WRC世界ラリー選手権での王座とWorldRX世界ラリークロス選手権連覇を達成している49歳のペター・ソルベルグと、22歳の愛息オリバーによる父子直接対決に加え、同じくWorldRX“6冠”のヨハン・クリストファーソンの参戦で話題を集めたERCヨーロッパ・ラリー選手権第3戦『バウハウス・ロイヤル・ラリー・オブ・スカンジナビア』は、シリーズ初開催となった前年度の覇者オリバー・ソルベルグ(シュコダ・ファビアRSラリー2)が、今回も予選ステージから終始ラリーの主導権を握り完勝。元フィンランド王者ミッコ・ヘイッキラ(トヨタGRヤリス・ラリー2)や、現ERC王者ヘイデン・パッドン(ヒョンデi20 Nラリー2)らを退けての大会連覇を飾っている。
世界選手権でもおなじみ、スウェーデンのカールスタッドを中心に高速グラベルステージが舞台となった6月13~15日開催のERC第3戦は、自宅からほど近い4.64kmの予選ステージで幼馴染のイサック・ライアセン(シュコダ・ファビアRSラリー2)を破り、オリバーの最速で幕を開けた。
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その背後にはチームMRFタイヤのマルティン・セスク(トヨタGRヤリス・ラリー2)、ミコ・マルチェク(シュコダ・ファビアRSラリー2)、そしてひさびさにフォルクスワーゲン・ポロGTI R5をドライブするクリストファーソンと錚々たるメンバーがトップ5に名を連ね、ヘイッキラ、パッドン、マッズ・オストベルグ(シトロエンC3ラリー2)に加え、選手権首位で臨んだマシュー・フランチェスキーニ(シュコダ・ファビアRSラリー2)らもその後塵を拝する展開に。
しかし同日夜にカールスタッド郊外で実施された開幕SSSでは、ERCチャンピオンの意地を見せたパッドンがウエットの2.23km混合サーフェスを制し、翌日の本格ステージ群を前に総合首位で初日を終えた。
「実際とても落ち着いたドライブができ、快適でスムーズだった」とオストベルグに0.03秒差で先行したパッドン。
「限界まで追い込んだわけではなく、もっと速く走れたかもしれないが、ここでは成り行きに任せたよ」
一方、ここをクリストファーソンに次ぐ9番手とした昨季の覇者オリバーが「最初は雨が降り始めたから、ゆっくり走った。ミスをするのは簡単だ。今夜は関係ないし、明日は全力で戦う」と語ったのに対し、息子に続いて2019年以来の国際ラリーでトップ10スタートを切ったペターは、その息子がドライブしていた前年度優勝マシンでもあるポロGTI R5から煙と炎が上がるアクシデントに遭遇。ボランティアマーシャルが消火を手伝う緊張の瞬間も経験した。
「ハンドブレーキのリリースが原因だったらしい」と夜のパルクフェルメで説明した元WRCチャンピオン。「引いた後、少し漏れがあったみたいだ。火事はもっとヒドい状況を招いていたかもしれないが、大丈夫。僕はここにいる」
■オリバーとパッドンが接戦を繰り広げる
明けた金曜朝のSS2を首位パッドンから2秒遅れでスタートしたオリバーは、最初の10.18kmで早々に0.1秒までギャップを詰めると、続く11.74kmのSS3でも連続ベストを記録。この時点でパッドンに3.1秒差をつけて総合首位に躍り出る。
「もう少しプッシュしようとしたが、非常に滑りやすく、難しかった」とオリバー。「(昨季の)ポロでのステージの思い出があり、今はスタイルを完全に変えなければならない。難しいラリーだよ」
そんな息子と同じく「難しかった」と語ったペターは、最初の本格SSを終え「グラベルが緩んでいて(車内が)うるさかったから、コドライバーの声が聞こえなかった。難しかったけど、とても楽しかったよ」と、事前に「週末の首位争いは考えていない。ただ楽しむだけ」との宣言どおり、午前のループで暫定19番手とする。
一方、現役王者として総合優勝争いを期待されるパッドンは、続くステージ以降で連続ベストを叩き出して喰い下がり、SS7では局地的な豪雨がオリバーの出走順を襲ったことでさらに優位に立つと目されたが、有名なコリンズステージのクレストジャンプで44mの最長不倒を記録しつつ、1日を通じて3.3秒差の2番手に甘んじることとなった。
「プッシュしようとしていた」と、そのプランを明かしたパッドン。
「路面が荒れると、僕らのクルマにはあまり合わないことは分かっていたから、時間を無駄にしないようにしていた。やはり道は荒れていたが、問題はわだちが増えたというより緩んだ大きな石の方だった。プッシュしていたし、明日は今日よりも良いはずだ」
同じくオリバーも、掘り返された路面に現れる石の影響を指摘する。
「タイムは非常に接近していて、どんな小さな差も重要だ」と続けたオリバー。「(SS9で)しばらく左後輪にダメージがあると思っていたけど、とても緩くて石がたくさんあって楽ではなかったね。今日の感触は良くなく、あまり感心したとは言えないが、戦いは接戦だ。明日はクルマが路面にもっと合うと思うし、少しプッシュできると思う」
迎えた本格ステージ2日目となる大会最終レグは、そのオリバーが自身の言葉どおり午前のループステージ4つのすべてでベストを叩き出すと、正午のサービスを挟んで最終パワーステージを含む午後の4SSも完全制覇し、後続に38.0秒の大差を築く圧倒的な展開に。
朝のループで「感覚もグリップもなかった」ため「コミットメントを落とした」と認めていたパッドンは、最終SSでタイヤの損傷により減速したことで3位へ後退。それでも終盤まで表彰台を争って先行していた選手権首位フランチェスキーニが、このパワーステージで痛恨のクラッシュを喫したことで、これが自身にとっての今季初表彰台となった。
■競争のレベルはWRC2よりも高い!?
「オリバーは非常に良い仕事をしていて、僕らは答えを出すことができなかった」と完敗を認めたERCチャンピオン。
「他のドライバーも速くなり、僕らのパッケージが少し制限されていたこともあり、予想よりも(結果が)悪かったのは残念だ。このラリーに向けて改善したが、今朝のようにグリップレベルが低いときはより苦戦し、戦うことが難しくなるね」
そして、最終日午前でほぼ雌雄を決する状況へ持ち込んだオリバーは「昨日は満足できなかったが、今日はフィーリングが良く、路面にもクルマがより適していて自信が持てた」と、危なげない走りでスカンジナビア連覇を達成した。
「こうした路面ではクルマがかなりスライドするけど、今日のステージは広くて余裕があるからスピードは悪くなく、この結果には満足しなくちゃならないね」とオリバーは続けた。
「でも、今回のラリーもギャップは本当に小さい。昨日の僕にとって、ここのレベルはWRC2よりもはるかに高かったよ。タイムがとても接近していて、クレイジーで素晴らしかったね」
最終的にSS15でのポップオフバルブの問題と、最後から2番目のステージでジャンクションをオーバーシュートする瞬間を経たヘイッキラが2位に入り、ひさびさの国際舞台で完走を果たし、「ステアリングラックに問題があったときはステージを楽しめなかったし、心拍数がかなり高かったが、とても楽しかった」と語ったペターは15位で競技を終えた。
「彼らは全員、このスポーツを将来素晴らしいものにできる特別な何かを持っている。週末を通してトップ争いは本当に激戦でとても良く、非常に接戦だった。印象的なチャンピオンシップだったと言わざるを得ないね」
同じく、今回は事前準備不足から「たまには噛ませ犬役も悪くない」と語っていたクリストファーソンは、旧態のポロGTI R5を導き11位でラリーを終えている。
「こんなに長い休みの後に、ラリーに復帰するのは屈辱的な経験だった」と、コリンズクレストの直線区間でパンクしステアリングにも異常を抱えながら、全ステージの半分以上でトップ10のタイムを記録したクリストファーソン。
「信じられないほど速くて狭いステージだった。これまで多くのラリーに参加してきたが、今回のラリーはフィンランド・ラリーと並んで最速の部類だ。金曜ステージのいくつかは大きな衝撃で、僕らはふたりとも本当に準備ができていなかった! 実際『FIA認定のおむつ』が必要だったよ……」と、開幕勝者シモーネ・テンペスティーニ(シュコダ・ファビアRSラリー2)にわずか0.5秒差のトップ10圏外となったクリストファーソンは語った。
続く2024年のERC第4戦は、同じく超高速フラットサーフェースを特徴とするグラベル戦『デルフィ・ラリー・エストニア』が7月5~8日に開催される。
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